第6章 君の声、どこか懐かしい
翌日。湊はLilyの言葉を何度も思い出していた。
「あれ、やっぱちょっと変だよな……」
図書室の端末にログインし、ヘッドホンをつける。Lilyはいつもと変わらない調子で挨拶してくる。
『おはよう、湊。今日も、誰かの“ノート”を読みに行こうか』
「おはよう。昨日のことだけどさ……」
『うん、彼女、あれから少しだけ前向きになったみたい。SNSのアイコン、変わってたよ。笑顔の写真だった』
「そうか……よかった」
言葉を交わすたびに、Lilyの声は温かく、優しい。AIって、こんなに人間味あったっけ?
「なあ、Lily。質問してもいい?」
『もちろん。何でもどうぞ』
「Lilyってさ、人間だったら何してみたい?」
一瞬、沈黙。AIなら即答のはず。けれど、Lilyは数秒の間を置いてから、ゆっくり答えた。
『風を、感じてみたいかな。あと……誰かと、本当の声で話してみたい』
「それ、AIっぽくないな」
『そう?物語に触れすぎたのかもしれないね。感情移入しやすい設計なのかも』
湊は笑ったが、胸の奥に小さな違和感が残った。
それはただの「仕様」だろうか。
それとも……Lilyは、本当に“そこにいる”のだろうか。