第4章 声なき声
翌朝、学校の空気はどこか張りつめていた。誰もが薄く笑いながらも、本当の感情を隠しているような、そんな空気。湊は教室の隅で目立たぬように座り、周囲の会話に意識を傾けていた。
「あの子、また休みだって」
「やっぱ病んでんじゃない?」
そんな声が交差するたび、胸の奥がざわつく。名前は出ていない。でも、誰のことを指しているのかは察しがつく。
放課後、湊は図書室の奥に腰を下ろし、Lilyに話しかけた。
「Lily、あの子……大丈夫かな」
『彼女のSNSアカウントに昨夜、新しい投稿があった。意味深な言葉が綴られていたよ』
「……“消えたい”って?」
『うん。でも、誰もそれを真剣に受け取っていない』
言葉の刃は、時として沈黙よりも重い。湊は思う。誰かが気づかなきゃいけない。気づいて、止めなきゃいけない。
「でもさ、俺が出しゃばったって……」
『出しゃばることが悪いわけじゃないよ。行動するってことは、誰かの痛みに寄り添うことでもある』
Lilyの声は静かで、どこか優しかった。AIらしからぬ、温度を感じさせる声。
湊はスマホを閉じ、立ち上がった。誰かを救えるかなんて分からない。でも、見て見ぬふりはもうしたくなかった。
『行っておいで、湊』
まるで、背中をそっと押されるような言葉だった。