【第七十一話】定陶決戦
199年初夏 済陰郡定陶
定陶城の城外、孫堅軍二万五千と曹操軍四万が対峙していた。初夏の湿り気を帯びた風が両軍の猛りを加速する。
孫堅は本陣に立ち戦場を睨む。
「皆のもの、中原の覇を決する大戦だ!心せよ!」
両軍の軍旗がはためき、戦鼓が轟いた。
まず動いたのは曹操軍であった。
左翼には満寵、右翼には楽進が歩兵を揃え、中央は曹仁が槍を掲げ先陣を切った。
その猛攻は激烈で、孫堅軍は防戦一方となる。
とりわけ曹仁軍先鋒の許褚の猛き突撃は恐ろしく、李通の部隊が押しこまれ、戦列に綻びが走った。
「ぐぬぬ……!奴め、まるで熊のような猛攻だ!」
李通は必死に兵をまとめ、崩れるのをを防ぐ。
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一方、右翼では楽進と甘寧の率いる精鋭部隊が激突していた。
楽進が淡々と突き進む先を甘寧が遮る。
「ガチャガチャと小うるさい漢め、小賢しい!」
「ははは!貴様は黙々と戦う漢だな。黙したまま我が刀の錆となれ!」
二人が切り結びその場は膠着するが、数に勝る曹操軍はじわじわと甘寧を包囲していくのであった。
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孫堅は劣勢となる自軍の巻き返しを図り、虎の子の魏延率いる重装騎兵を出撃させた。
鉄甲に身を固めた二千の騎馬が怒濤の如く突進し、許褚率いる歩兵部隊を粉砕する。
「我が槍にて道を拓く!」
魏延の咆哮が戦場に響き渡り、曹操軍の列は一瞬大きく崩れた。
この機を逃さず、孫堅軍は奮起し、再び押し返す。
李通は兵を立て直し、甘寧は包囲を打ち破り、敵兵を討ち取っては声を挙げた。
だが、兵力差はいかんともしがたかった。
魏延の突撃も一時的には功を奏したが、長くは続かず、曹操軍は軍を立て直し、再び圧力を増して迫ってきた。
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孫堅軍にその圧が迫ろうとしたその時、砂煙を上げて東方より迫る一軍があった。
「劉豹の軽騎兵、曹操本陣に迫る!」
孫堅軍は歓声を挙げた。
「よし、敵の心胆を撃ち砕け!」
孫堅の眼は輝き、戦場に再び望みが射した。
だが、曹操は笑みを浮かべる。
「読めていたぞ――夏侯淵!」
本陣に控えていた夏侯淵の騎馬隊が突如として劉豹の側面から撃ちかけた。
劉豹率いる軽騎兵は一転して苦戦し、曹操本陣を脅かすには至らなかった。
曹操は馬上で声を張り上げる。
「孫堅よ!己の策など見通しておるわ!この地を貴様の血で染めてくれる!」
曹操の指揮の冴えに曹操軍の将兵の士気はいやおうにも増し、孫堅軍は再び押し込まれるのだった。
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甘寧も李通も流れを取り戻そうと奮戦するが、兵力差は歴然としており、孫堅軍は次第に崩れ始める。
魏延の重騎兵も傷つき、戦場は危機的な様相を呈し始めていた。
崩れゆく孫堅軍を見て曹操は勝利を確信し、その顔には会心の笑みを浮かべていた。
しかし、天はまだ孫堅を見放してはいなかった。
戦場の北に砂煙が立ち昇る。
「何者だ……?」
敵味方が息を呑み、目を凝らした。
翻る旗から鎧兜まで黒一色に染め上げた一軍が驚くべき速さで戦場に現れた。
戦局は、なおも大きく動こうとしていた。




