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【第七十話】決戦前夜

199年初夏 兗州済陰郡・定陶


曹操軍の兵糧を焼き払い、曹洪を城に押し込めた報に、孫堅軍の陣中は歓声に包まれていた。


「殿!城中の兵糧は時期に尽きましょう。曹操軍ももはやあとわずかですな!」

魏延が声高に叫び鉄槍を掲げる。


孫策も血気盛んに進み出て叫んだ。

「これで曹賊は終わりだ!一気に討ち果たそう!」


だが、沸き立つ陣内で荀攸が冷ややかに言葉を挟んだ。

「諸将、油断召されるな。曹操は兵糧線を脅かされてはおりますが、あの男が易々と屈するはずもございませぬ。何より本隊がまだ健在です」


孫堅はその言に深く頷き、軍を引き締める。

「うむ。勝ちに奢るな。我らはまだ曹賊を討ち果たしてはおらぬ」



---


その頃、東安城。


劉備は、包囲していた曹操軍の数が目に見えて減ったことに気づいていた。

「魯粛よ……敵は退いたのか?」


魯粛は険しい顔で答える。

「確かに……。旗や兵影は多いものの、動きが妙にぎこちない。人形や徴集した農民を混ぜておるのやも。……偽兵の可能性はありますな」


諸葛亮は扇を閉じ、低く告げた。

「曹操は孫子の達人と見受けます。我らを当地に釘付けにしつつ、運動戦を展開する目算やもしれません。直ちに密偵を放ち敵陣を探らせると同時に、孫堅殿へも使者を送りましょう」


劉備は頷き魯粛に指示を出す。

「よし、孫堅殿を孤立させるわけにはいかねえな。急ぎ使者を走らせるんだ!」



---


その頃、夜を徹して曹操軍四万が幾本もの細い流れに分かれて済陰へ進軍していた。


先頭には夏侯淵、曹仁、許褚、楽進、満寵といった歴戦の将が並び、馬蹄の音が夜気を震わせる。


曹操は馬上から天を仰ぎ、不敵に笑った。

「孫堅よ、汝は我が餌に食いつき罠に落ちた虎にすぎぬ。今こそ勝敗を決する時だ!」


郭嘉は横に控え、冷然と呟く。

「敵は勝利を信じて盃を挙げていましょう。そこに一撃を加える――天が与えた好機にございます」


曹操の眼光が闇を貫く。

「うむ、郭嘉よ。我が青州兵が必ずや孫堅を屈服させてみせよう!」



---


翌暁。


済陰の野に朝霧が立ちこめる中、孫堅軍はまだ眠りの中にあった。

その時、東から地鳴りが響き、幾重にも重なる蒼地(あおじ)に曹の旗が姿を現す。


「敵襲!曹操軍です!」

陣中に響く報に将兵がざわめく。


孫堅は即座に鎧を身に付け馬に跨る。

「皆の者!曹操軍だ!ここが正念場ぞ!」


孫策が剣を抜いて吼える。

「父上!俺も出ます!」


戦鼓が轟く済陰の野にて――孫堅と曹操、二人の英雄の激突が幕を開けようとしていた。

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