【第六十八話】陳留の焦燥
199年仲春 陳留城周辺
陳留城の周囲には、孫堅軍の旗が林立し、敢死隊や影矢隊、六営、騎兵部隊が戦列を整えていた。
城門前に現れたのは曹操軍の前線指揮官、夏侯惇と于禁である。
彼らは退路を確保しつつ慎重に出陣し、自軍が危ういとみるや、速やかに城内へ退却するのだった。
夏侯惇の見事な遅滞戦術に孫堅軍は思うように城を攻めることが出来なかった。
「城の守りは固く、敵の士気は高いな……これでは兵と時間を消耗する」
孫堅は馬上で深く息をつき、周囲を見渡した。
その時、江東耳目と「玄鴉」の情報網から、遠方の戦線の様子がもたらされる。
「報告です、殿。徐州の劉備軍は曹操本隊との戦闘で苦戦しているとのことです」
朱皓の声に孫堅は眉をひそめた。
連合軍の片翼が落ちれば、全体の戦略に大きな影響が出る。
すぐに軍議が開かれ、周瑜が地図を広げて提案する。
「陳留城の包囲に二万の兵を残し、残りの敢死隊・影矢隊、六営の風・雷・騎兵部隊を先行させ、曹操軍の背後に回り込むべきと存じます」
法正も口を開く。
「殿、劉備軍を救援するには、まず我らの騎兵を用い曹操軍の糧道を攻撃すべきです。劉豹殿の突騎兵を先行させ、敵の補給を絶てば、劉備軍の戦況も一気に好転しましょう」
荀攸は両者の意見を聞き、賛同しつつ残留部隊の運用を提案する。
「周瑜殿の案を支持します。加えて、残留部隊の大将に呉景殿を任じ、粱国の孫静殿には援軍を、魯国の程普殿には済陰郡への攻撃に参陣するよう、速やかに使者を送りましょう」
孫堅は三人の参謀を見渡し、力強く頷く。
「よし、その策で進む!我らは曹操の背後に回り込み、劉備殿を救援するぞ!」
陳留城の包囲に二万の兵を残し、先鋒部隊として劉豹・法正の騎兵隊を先行させた。
匈奴騎兵隊は砂塵を巻き上げ、曹操の後背に迫る。
孫堅の目は遠方を見据え、次の戦局を見極めようとしていた。
黄河の風が旗をはためかせ、陣営に緊迫の空気が漂う中、陳留の焦燥は新たな戦火を呼び込もうとしていた。




