【第六十六話】嵐の予兆
199年仲春 司隷河南尹・開封
開封の北方、黄河沿いの野に、孫堅の旗が高々と翻っていた。
許昌を発して十余日。敢死隊、影矢隊と六営の計四万の兵が堂々たる陣容を整え、河内より駆けつけた魏延・劉豹・法正の騎兵一万がここに合流した。
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魏延は鉄甲に身を固めた重騎兵五千騎を率い、鬼神の如き威容を示す。
劉豹は匈奴の突騎兵五千騎と軍馬五千頭を従え、砂塵を巻き上げつつ疾駆してきた。
孫堅は三人を出迎え、馬上からその勇姿を見渡した。
「魏延、劉豹、法正!よくぞ参った。汝らの騎兵こそ、この戦の鍵ぞ!」
魏延は馬上で槍を掲げ、胸を張って叫んだ。
「この魏延の騎兵、必ずや賊軍を蹂躙してご覧に入れましょう!」
劉豹は弓を引き絞って鏑矢を天へ放つ。数千の胡騎が歓声をあげる。
静かに控える法正へ孫堅が声をかける。
「法正!騎兵を用いた戦術についてはどうだ?」
「はっ!両将と共に三年の間、騎兵の運用について熟考して参りました。魏延殿の重騎兵は古の戦車しかり、先陣を駆るに相応しい突破力を備えております」
「劉豹殿の突騎兵の強みはその持久力にございます。代え馬を備えておりますれば、行軍距離は倍!敵の意表を突くこと間違いなきことと存じます」
「見事だ!大いに期待しているぞ」
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一刻(15分)の休息の後に、軍議が開かれた。
玄鴉の長、朱皓が地図を指し示す。
「我らの軍勢はこの地開封に五万、劉備殿の軍勢四万が琅邪国の西に向かっておるとのことです。対する曹操の軍勢は総勢八万」
八万という言葉に緒将の間に動揺がはしる。
「落ち着け皆の者!我らがその八万全てと相対するわけではないではないか!」
「殿の仰る通りにございます。曹操軍の配置は現在調査中ですが、我らが相対する陳留城には夏侯惇と于禁が一万の兵を率いて駐屯しております」
朱皓の報告に続いて周瑜が述べる。
「敵は兗州を守るために兵を分散する必要があります。ゆえに局地的にも我らは敵より兵多く、奇策を用いる必要は無いと考えます。常道として、一つ一つ城を落としていけば、自ずと賊を平らげること叶います」
荀攸も周瑜の言を補足する。
「周瑜殿の言うことはもっともと考えます。付け加えるなら、我らは大軍ゆえ弱点は糧道にございます。その点に留意すれば勝利は必定と考えます」
「よし、許昌の陳羣には再度兵糧の確保、運搬について確認の使者を送れ。また、陳国の劉寵閣下と粱国の孫静にも使者を送り兵糧の手配について依頼をすることとしよう」
孫堅は満場を見渡し、力強く宣した。
「陛下の御心を乱す賊、曹操を討つ!進軍開始!」
鬨の声が大地を震わせ、孫堅軍五万は陳留へと進撃を開始した。
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その頃、琅邪国西部。
曹仁・李典が率いる曹操軍一万の苛烈な攻撃に対して徐盛の軍は東安城に籠って必死に耐えていた。
そこへ、劉備率いる三万五千の軍勢が到着した。
「皆の者、勇士徐盛を救うのだ!突撃!」
劉備の号令一下、高順率いる騎兵五千を先頭に、城を包囲する曹仁・李典軍に攻めこんだ。
「敵は多勢だが、殿が必ず救援に来られる!迎え撃て!」
曹仁が叫び、李典が整然と陣を組み直し迎撃の構えをとる。
高順が錐行の構えで中央突破を図ったが、曹仁と李典は軍を分けてその勢いを削ぎ、後続の部隊に攻撃を仕掛けるのだった。
劉備は本陣でその様子を見て魯粛に問うた。
「魯粛よ、敵は予想以上に粘るな。どう見る?」
「曹仁・李典の二人はいずれも名将ですな。とはいえ、兵力差は著しく、我が軍の猛将達の力をもってすれば、打ち破るのは時間の問題でしょう」
魯粛の言葉の通り、当初は高順の勢いをいなしていた曹仁軍であったが、後続の張飛、太史慈軍が加わると、受けきることが出来ず、ジリジリと後退するのだった。
後退する曹仁の本陣に西方から早馬が駆け込み、その直後に銅鑼が鳴り響き、退却を始めた。
「曹仁の首は俺様があげてみせる!」
「敵は崩れたぞ!一気に追い落とすのだ!」
張飛と太史慈が吼え、曹仁軍の追撃を開始した。
「魯粛、我らも張飛達に続き追撃するぞ!」
「殿、張飛殿達だけでも一万五千程おりますれば、急ぎませぬ。徐盛殿と合流してからでも遅くはありますまい」
東安城から出陣した徐盛と合流し、その労を労う劉備達の元に早馬が駆け込んできた。
「注進!張飛様達の軍勢が曹操本隊の攻撃を受け被害を被っております!」
戦勝に沸く徐州に大嵐が訪れようとしていた。




