【第六十四話】大戦の火蓋
<第八章>兗州大戦
199年初春 許昌
曹操が朝廷からの勅命を退け、なお徐州に居座るとの報は、すぐに許昌へ届いた。
紫宸殿にて勅使の言葉を聞き終えた楊彪は、苛立ちを募らせ吐き捨てる。
「――賊徒め、またもや詔に逆らうか」
献帝、朝臣達の顔が曇る中、孫堅は毅然として立ち上がった。
「陛下!曹操の度重なる勅命無視は国家の大罪にございます!この孫堅が成敗してごらんにいれます!」
「孫堅将軍。貴殿の武威で朕の心を救ってくれ」
こうして許昌に出陣の触れが出され、将兵が一斉に動き出した。
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許昌より出陣するは歩兵を主とする六営全軍。
さらに、陳到が率いる敢死隊、呂蒙の選抜した影矢隊が加わる。
参謀は荀攸と周瑜、朱皓。
また、孫策をはじめ、潘章、蔣欽、周泰、孫観、呉敦、尹礼といった勇将らも旗のもとに集った。
孫堅は天幕に諸将を集め、軍議を開く。
「馬騰将軍に許の守備を任せることとする。許昌の兵四万を率いて陳留へ進む。河内に在る魏延・劉豹・法正にも早馬を送り、陳留の西、開封にて合流するよう伝えよ。陳留を衝けば、曹操も徐州から退かざるをえまい」
周瑜が進み出て奏上する。
「河内の騎兵部隊は平野の多い兗州での活躍が期待できます。かの騎兵部隊を先陣として戦端を開くべきかと」
荀攸もまた静かに続ける。
「殿、徐州の劉備殿との連携が肝要にございます。迅速な連絡網の構築が必要と考えます」
孫堅は深く頷き、朱皓に命じる。
「朱皓、玄鴉を使い、劉備殿の間諜組織に渡りをつけるのだ。そちの働きがこの戦の要だ」
「畏まりました。神速の伝達網を構築してご覧にいれます」
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一方その頃、徐州下邳城。
琅邪国西部にて曹仁・李典の軍に攻め立てられる徐盛を救うため、劉備もまた兵を挙げた。
揚州からは豪族全柔、顧雍が一万の兵を率いて参陣した。
徐州からは魯粛、諸葛亮が軍師として同行し、張飛、高順、太史慈、朱桓、侯成、魏越といった将が列座した。
劉備は歩兵三万に騎兵五千、合計三万五千の軍勢を整えた。
諸葛亮は羽扇を揺らしながら進言する。
「孫堅殿が西より進軍する報を聞けば、曹操は兗州防衛の要を陳留とすることが予想されます。我らはその隙に東より琅邪を救うことといたしましょう」
魯粛もまた頷いた。
「先日、孫堅殿旗下の朱皓殿より連絡網の構築についての打診がありました。江東耳目と玄鴉で徐州から兗州、予州にかけての情報網の作成をいたしました。連携は完璧です」
劉備は二人の言葉に力強く頷き、諸将を見渡した。
「よし、皆の者、徐盛を救い、念願の徐州を統一するぞ!曹操の暴虐をここで終わらせる!」
張飛は蛇矛を振りかざして吠え、太史慈、高順達も喊声をあげ、諸将の鬨の声は徐州の空を震わせた。
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かくして、許昌より孫堅軍四万と魏延・劉豹の騎兵一万、徐州より劉備軍三万五千――。
二つの軍旗は東西より曹操の軍勢を挟み込まんと進撃を開始した。
戦乱の火蓋は、いままさに切って落とされたのである。




