【第六十一話】長安攻略
198年仲冬 長安
冬の冷気が吹き荒れる長安城の周囲を幾万の鬨の声が震わせた。
東門に陣取るは、朱治・孫河の二万、臧覇、甘寧が先鋒に立つ。
西より砂塵を巻き上げ迫るは、馬騰率いる涼州騎兵一万。その馬蹄の響きは雷鳴にも等しく城内を圧していた。
城内では、郭汜が玉座の前で剣を振り回していた。血走った目を光らせ、近習を次々と斬り捨てる。
「裏切り者め!貴様らは皆、賊に通じておるのであろう!」
止めようとした近習の声も虚しく、恐怖と疑念に呑まれた郭汜は自軍を自ら崩壊へ導いていた。
共に抗していた張繍と賈詡は、冷ややかな目でその惨状を見やり、わずかな兵を率いて南門より姿を消す。
「今だ――!」
趙儼は馬上から叫んだ。黒き甲冑に身を包み、手には朱儁から授かった長槍。
張繍が開けた南門に自軍を導き、激流のごとく城内に雪崩れ込む。
郭汜はなおも奮戦を試みた。
巨漢の体躯を揺らし、血刀を振るって道を切り開く。
「まだだ!この郭汜、易々と死にはせぬ!」
彼の前に立ちはだかったのは、波濤を切り裂くように躍り出た一騎。
「貴様が郭汜か――俺の刃の錆となれ!」
鈴の音とともに甘寧は流麗に刀を翻し郭汜の剛力を受け流す。
数合の剣戟が火花を散らした。
だが、乱心した郭汜の剣筋は次第に粗くなる。
「うぉぉぉっ!」
渾身の突きを、甘寧は半身でかわし、逆に刀を郭汜の胸へと突き立てた。
巨躯が崩れ落ち血が石畳を濡らす。
長安を惑わした暴将はここに果てた。
程なく城は静まり返り、趙儼の軍勢が諸門を制圧した。
――
翌日、朝堂に諸将が集う。
趙儼は朗々とした声で告げる。
「援軍に惜しみなく参陣し、長安奪還を助けてくださった馬騰殿。その忠義に主、孫堅に代わり厚く御礼申し上げます」
馬騰は豪快に笑いながら答える。
「我が騎は国を思う志にて動く。これよりも漢朝のために尽くそう」
その後、洛陽より鍾繇と賈逵が長安の政庁に入り、治安と糧秣の整備を急いだ。瓦礫の山と化した都に、わずかではあるが新たな秩序の息吹が芽生え始める。
趙儼は遠く西の空を仰いだ。
(朱儁公よ――我らはついに長安を取り戻しました。この勝利、必ずや中原統一の礎となりましょう)
長安の空には、まだ戦火の煤が漂っていた。だがその下に立つ人々の胸には、確かに新たな時代への希望が宿り始めていた。




