【第五十七話】徐州の新政
198年初冬 徐州下邳
呂布の死後、荒廃した徐州は新たな支配者を迎えることとなった。
劉備玄徳――仁の旗を掲げる男であり、三年前に同地の牧として仁政をしいた漢である。
劉備が下邳の城門に入るや、士卒は一斉に頭を垂れ、民衆はその姿に希望の光を見出していた。
「戦乱が続きみんな苦しんできたな。だからこそ、俺と一緒に、この徐州をどこよりも住み良い国に戻そうぜ!」
陽気ではあるが強い意思のこもったその言葉を聞き、集まった人々は万雷のごとき歓声を上げた。
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政庁において、劉備はまず人材の配置を定めることにした。
「揚州は関羽と張昭に任せようと思うがどうだ?関羽はちと気難しいやつだが、武と兵の統率にかけては我が軍随一だ。張昭ならそこら辺も上手いことやってくれそうだしな」
「俺も賛成だ。張昭の爺さんなら義兄貴も邪険には出来ないだろうしな」
張飛が賛成し、魯粛も賛意を示す。
「付け加えるなら、現状のまま華歆、孫邵に内政の補佐を任せ、賀斉、虞翻を副将として関羽殿の補佐を任せましょう」
続いて、徐州の軍事統括は四将に委ねられた。
「張飛!」
「おう!」
「お前は徐州北辺を守れ。お前の力があれば、賊徒も曹操も一捻りだろ」
張飛は豪快に笑い、
「任せとけ、義兄者!」
と胸を叩いた。
さらに劉備は陳登に向かい、
「陳登。張飛のことを助けてやってくれ。あれは戦には滅法強いが、己を律することがちと苦手だ。あんたのことは張飛も信頼しているから、二人で協力して徐州の北の守りを頼む」
「畏まりました。これ以上、我が故郷が賊どもに踏みにじられることの無きよう勤めます」
そして高順には中軍を預け、太史慈には山越兵を調練して屈強な歩兵部隊の育成を命じた。
「高順――お前の鋼のごとき胆力で我が軍を至強の高みに導いてくれ。太史慈――お前は山越の心を掴んでいる。あいつらを鍛え上げて無敵の歩兵部隊を頼む」
二人は同時に深々と頭を垂れ、忠勤を誓った。
それぞれの副将として朱桓は張飛のもとに、侯成は太史慈に、魏越は高順に、成廉は陳登に配された。
四将と四副将――徐州の守りは盤石の形を整えたのである。
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内政においては、糜竺・糜芳の兄弟が財政を担い、孫乾と簡雍が外交にあたった。
その上に立ち、全体を統括する役として陳圭が任ぜられた。
「陳圭よ、お前さんの手腕をもって徐州の財政と外務を束ねてくれ。この徐州の未来を託す」
陳圭は深い皺の刻まれた顔に静かな微笑みをたたえ、
「必ずや」と力強く答えた。
また魯粛、諸葛瑾、諸葛亮の三人が劉備の側近として置かれた。
魯粛が大局を見通した方針を立て、諸葛瑾が政略面、諸葛亮が軍略面でそれを補佐する形をとった。
「魯粛、諸葛瑾、諸葛亮、俺の側にあって支えてくれ。俺はやっと頼るべき土地を手に入れた。ここからが、劉備玄徳の飛躍の時だ」
劉備の眼差しに、三人は拱手して答えた。
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夜、城楼に立った劉備は、徐州の灯火を見下ろした。
「この地は戦に継ぐ戦で疲れ果てちまった……だが、今の俺なら仲間と共に建て直せるはずだ」
張飛が横に現れ、豪快に笑った。
「義兄者よ、今度こそ腰を落ち着けられるんだな?」
劉備は少し笑みを浮かべ、声を張った。
「腰を落ち着ける? それは違うぞ張飛。俺達はまだまだ走り続けるんだ。徐州はその道程の一里塚にすぎん。ここから関羽とお前との誓いを果たすため戦い続けるんだ!」
その言葉に、張飛は目を輝かせ、酒を掲げ吠えた。
「ならば命を懸けて戦ってやろうじゃねえか!」
仁を旗とする徐州新政――その基盤はここに築かれ始めたのであった。




