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【第四十七話】張遼の奮戦

198年晩春 予州・小沛城近郊


孫堅軍の先陣・韓当が率いる弩兵部隊が整然と隊列を組んでいた。


「放てっ!」

甲高い指令と同時に、無数の矢が隙間なく放たれ、前進してくる張遼の騎兵の進路を遮った。


張遼は素早く合図を送り、部隊を分ける。左右へ大きく展開し、矢を避けつつ素早く再集結するその動きは、まさに騎兵戦術の妙であった。


孫堅は本陣から戦況を見つめ、わずかに笑みを浮かべた。

「張遼、敵ながら見事な手並みよ。しかし……」


前衛では影矢隊が隊を分けて間断なく矢を放つ。

五人一組で一つの目標を狙うことに特化した精鋭であり、騎兵の動きを読みその進路を狭めていく。

韓当の弩兵と連携し、張遼の機動力を徐々に奪っていくのだった。


数で劣る張遼軍はじりじりと押される。それでも倍以上の敵を相手に持ちこたえていた。


「ここまでか……小沛を捨てる。全軍、彭城国へ退く!」

張遼は被害を最小限に押さえ、きたる呂布本隊の到着までの遅滞戦術を見事に演じていた。


一方、孫堅軍にも玄鴉の長、朱皓より情報が入る。

「陳登殿が劉備殿に降伏、広陵は陥落。呂布は下邳に退却中とのこと」


孫堅は額に手をやり思案する。

「張遼一人にもてこずっており、ここに呂布が合流すれば厄介だな……」


参謀・楊弘が口を開く。

「殿、離間の策を使いましょう。呂布は陳登の裏切りでおそらく疑心暗鬼にございます。ここへ、”張遼からの援軍要請は、実は張遼は既に孫堅軍に降伏しており、呂布をおびき寄せるための罠として行っている”と噂を流しましょう。呂布は必ずや張遼を疑い当地への援軍を拒むでしょう」


孫堅は破顔した。

「流石は謀略の達人だな、楊弘。私の眼に狂いはなかった。そなたを口説けたことは先の戦一番の僥倖だ」


楊弘はなんとも言えない顔で拱手した。


噂はすぐに玄鴉の手の者によって流され、下邳城に届いた。噂が広がるなかで、呂布は張遼と魏続からの援軍要請の使者を受けた。


「この状況で援軍要請だと!奴らおれを嵌める気だな」


陳宮は慌てて呂布を宥めようとする。

「殿、魏続殿は殿の御一族であり、張遼殿は殿の股肱之臣ではございませぬか!よもや、裏切るなどあり得ませぬ。どうか援軍の派遣をお願いいたします」


しかし、呂布は淀んだ瞳で怒鳴り返した。

「ならぬ!陳圭、陳登も徐州の名士ということで、厚遇してきたが裏切った。二人が俺を裏切らないという確証はない!」


陳宮は尚もすがりつき叫んだ。

「殿!このままでは皆の心が離れてゆきます。どうか、どうか少数でもよいので援軍を!」


呂布は陳宮を乱暴に払いのけた。

「うるさい!黙れ、陳宮!奴らには現地の死守を命ずる使者を送れ!」



---


彭城に戻った張遼は、呂布からの返事を見て愕然とした。

「このような仕打ちを受けようとは…。必死に戦い散った者達へなんと言えばよいか」


援軍のない籠城戦に臨むことになった張遼であったが、それでも部下を叱咤激励し懸命に防戦に努めるのだった。

しかし、籠城が半月を過ぎる頃より、士気は急落し、夜陰に紛れて脱走する兵も現れるようになった。


「これでは持たぬ……俺自ら出て士気を上げねば!」

張遼は精鋭騎兵を率い、突如城門を開いて打って出た。


しかし、多勢に無勢。当初は張遼の勢いに押されていた、孫堅軍であったが、幾度かの突撃を繰り返される間に体勢を整え、やがて包囲の網を幾重にも張り、張遼を絡めとるのだった。


孫堅は捕らえられた張遼を見つめ、静かに語りかけた。

「張遼、そなたの武勇、忠義、いずれも天下に誇れるものだ。呂布への義は十分に果たしたであろう。これよりは我らと共に戦ってはくれまいか?」


張遼は縄目を受け、尚その佇まいは凛としており、孫堅を毅然と睨み付けた。

「俺が貴殿のいう忠義の士であるならば、ここで主を裏切ることはないであろう」


孫堅はため息をつき、しかし瞳には敬意を込めて命じた。

「よい。ならば賓客として遇しよう。彭城に留まり、しばし休め」


張遼は驚き目を見開いたが、それ以上何も言うことはなかった。



---


こうして孫堅は呂範を彭城守備に残し、本隊を率いて下邳へ進軍を開始した。


その足音は、呂布の最後を予感させるように、徐州全土に響き渡っていくのだった。

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