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【第四十四話】暗雲迫る

<第六章> 飛将折翼


198年初春 許昌


まだ春の風は冷たく、その先の激動の時代を暗示するようであった。

許昌の宮廷、楊彪が厳かな面持ちで献帝に奏上した。


「呂布は、逆臣である袁術の子・袁燿をかくまい、漢室を乱しております。私はかの者の討伐勅命を請うものでございます。」


さらなる戦乱の予感に献帝は困惑の色を隠せなかった。即答できずに孫堅へ問いかける。


「孫堅よ、そなたはこの件についてどう思うか。」


孫堅は深く息をつき、ゆっくりと口を開く。

「呂布殿はかつて逆臣董卓を討った英雄。その功績は忘れてはなりません。ですが、今回の袁術の残党を匿う行い、そして朝廷より認められた徐州牧劉備殿を追い出した事実は看過できませぬ。漢室の安定のため、討伐はやむを得ないと考えます。」


献帝は覚悟を決めたように頷き、正式に討伐令が発せられた。


許昌ではこの報が瞬く間に広がり、民衆たちの間にも不安がよぎる。



---


孫堅は政庁に戻ると、連年の戦が続いていることによる財政負担について陳羣に現況を尋ねた。


「予州、司隷の内政はどうだ?」


陳羣は穏やかな声で答えた。

「司隷の治世は鍾繇殿のもとで堅実に進んでおります。河東郡では塩の生産が奨励され、河内郡では匈奴との交易も活発化しております。弘農郡の鉄や銀の鉱山も稼働しております」

「また、予州には戦火が及ばぬため流民の受け入れも順調で、荒れ地の開墾も梁習殿が率先して進めております。これらの収益により、遠征軍の維持は可能かと存じます。」


孫堅は(ねぎら)いの言葉をかけ、出征を決断した。

「よし、遠征軍を編成する。此度は袁術討伐時と同様に影矢隊、敢死隊は私が率いる。六営からは陰(臧霸)、雷(甘寧)の両軍を許昌に残し、風林火山の四軍、合計三万を出兵に充てる。荀攸、楊弘は従軍してくれ。」


孫堅は沛国の司馬、韓当に先陣を命じる伝令として、蔣欽を送る。


蔣欽から先陣を任される旨の話を聞いた韓当は、久しぶりの戦場に歓喜した。

「血湧き肉躍る!このままお呼びがかからんかったら、鍛えた兵達が不憫だったわ」


蔣欽は孫堅の使者の命の後、そのまま韓当の副将に就任した。

韓当は弩兵を強化しており、五千の兵を率いて先陣となり孫堅と合流、小沛へと進軍することとなった。



---


一方、劉備は九江郡歴陽にて勅命を受けた。


南方交易を差配する孫邵が交易を軌道にのせつつあったが、度重なる出兵のため財政は逼迫していた。


内政を預かる張昭は渋い表情で述べる。

「劉備様、江東は肥沃な土地ゆえ糧食は賄えますが、武具を整えるための財が足りませぬ。全軍での出兵は控えるが、肝要かと」


劉備も苦笑いを浮かべ

「張昭が言うなら仕方ねえな。足りない分は若い連中に悩んでもらうとしよう」

と決断し、関羽、魯粛達と軍議を始めた。


軍議の結果、兵数は一万五千とし、先鋒に張飛、朱桓、参軍として魯粛、諸葛瑾、諸葛亮を任命。

太史慈には懇意にしている山越に援軍をしてもらうように依頼した。


魯粛は劉備軍に参入した頃から、食客を用いて交易と情報収集をする組織の構築を行っていた。

その諜報組織「江東耳目」からの情報を分析し、

「劉備様、徐州広陵郡太守陳登は先の袁術追討の際に、主君であるはずの呂布とは異なる対応をしたとのこと。これに密使を送り我らへの助力を求めてはいかがでしょうか?」

と述べた。


劉備は大笑して言う。

「流石我が太公望殿だ。金はなくともおまえ達がいてくれれば俺は安泰だ。その使者は誰がいい?」


諸葛瑾が静かに挙手した。

「私は劉備さまにお仕えしてより、功無き身。この使は私にお任せ願えますか?」


劉備は諸葛瑾を先発させ、自らも出陣することとした。


太史慈は山越の厳虎の元を訪れ助力を依頼。厳虎は食糧の提供を条件に受諾し、他部族の長、潘臨を連れて五千の兵で参陣。


劉備軍は山越兵の参陣で、計二万の兵で徐州南部へと進軍を開始した。



---


曹操は孫堅・劉備の動きを聞き、荀彧、程昱、郭嘉と協議した。


郭嘉は静かに進み出た。

「前年の徐州侵攻では残念ながら成果を得られませんでしたが、此度は官軍として、三方面からの攻撃となります。宿願を叶えることが出来ましょう」


曹操は郭嘉の言を聞き決断。

夏侯惇、程昱を守備に残し、四万の兵を率いて北から琅邪国へと進軍した。



---


琅邪国東莞城呂布陣営では、袁燿の処遇を巡るいざこざで、陳宮・高順が遠ざけられ、親族の魏続や宋憲を重用する形となっていた。


今回の三方向からの侵攻に対して魏続・宋憲・張遼と軍議を開くが魏続と宋憲は不安そうな表情で押し黙るのみであった。


呂布はたまらず、

「何か良い手は無いのか!」

と、怒鳴り散らす。


黙していた張遼は発言を求め、

「此度は我々の危急存亡の秋と考えます。袁燿様の事では思うところがあるとは思いますが、陳宮・高順の二人も含めて打開策を考えるが良いかと」


呂布も意地を張っているわけにはいかず、二人を呼び出した。


陳宮は参上するなり今回の防衛戦に関する持論を展開した。


曰く、

呂布軍の最大動員兵力は四万。内、精鋭騎兵は二千。


魏続を大将、高順を副将とする一万を琅邪国東莞城に置き、対曹操戦線に当たらせる。


他の軍勢は南下し、西から迫る孫堅軍には張遼を主将に一万の兵を送り小沛で防戦を行う。


南の広陵郡へは太守陳登の援軍として呂布自ら精鋭騎兵二千と共に宋憲、侯成、魏越、曹性を率いて二万の兵で向かい最も兵数の少ない劉備軍から討ち、孫堅軍、曹操軍と各個撃破していく作戦であった。


呂布はこの策を聞き唸る。

「陳宮、見事な策だ。わしが悪かった。また、側でわしを支えてくれ」


陳宮は拱手して答えた。


暗雲が徐州の空を覆い尽くす中、三頭の龍が集い、巨龍を食いつくさんとしていた。

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