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【第四十三話】偽帝の残響

197年年末


淮南・寿春を揺るがした戦が終わり、袁術の死はまたたく間に中原を駆け抜けた。

「偽帝、ついに天に罰せらる」

都・許昌ではその噂が人々の口を往来し、朝廷の議でも取り沙汰された。


司徒・楊彪は上奏し、呂布の庇護下にある袁術の子・袁燿を罪人と断ずる。

「ただちに罪人を朝廷に届けるべし」

勅命は直ちに下った。



---


琅邪国・東莞城内の政庁に勅命の文が読み上げられると、重苦しい沈黙が落ちた。

呂布は巻物を机に置き、眉をひそめる。

「……袁燿は我が娘婿。何ゆえ、他人の言で捨てねばならぬ。俺は必ず保護するぞ」


陳宮がすぐさま進み出た。

「将軍、情に流されてはなりませぬ。袁術の名は今や逆賊の烙印。親族を匿えば、朝廷と敵対することになりますぞ」


高順も静かに口を開く。

「殿の武は民のために振るうもの。身内ひとりを守るために、国を敵に回すのは……」


呂布は二人の言葉を遮った。

「ならぬ。袁燿はまだ若い。罪は父にあり、子にあらず。俺が守らねば、誰が守る」


その場で唯一、張遼だけは何も言わず、ただ腕を組んで黙していた。

彼の眼差しは冷静で、賛否いずれとも取れぬまま会議は終わった。


こうして呂布は、勅命に逆らってでも袁燿を庇護する方針を固めた。

だが、その決断は彼の政治的立場をさらに不安定にする火種となった。



---


一方、寿春から許昌へ帰還した孫堅は、戦後処理を着々と進めていた。

捕らえた袁術旧臣の中から、才あるものを召し出す。その中には策士・楊弘の姿もあった。


「おぬしの天下を俯瞰で見た上で打つ策には我が軍は手を焼かされた。その才を今度は我々のために使ってもらうことは出来ないか?」


荀攸も重ねて言う。

「貴殿の群雄を手玉にとる数々の策は見事の一言に尽きる。是非とも我々と共に漢朝を支えてもらえないでしょうか?」


楊弘は死罪も覚悟していたため、あまりのことに狼狽(うろた)えていたが、

「我が性は陰ゆえ、孫堅様の陽の気に沿うとは思えませぬ。ですが、陽の貴軍を陰より支える役であれば、喜んでお受けします」

と述べ、深く一礼し、孫堅の幕僚に連なることとなった。


また、袁術との戦いで手に入れた盧江郡と九江郡は揚州牧・劉備に委ねられることとなる。

劉備はこの処置に深く感謝し、改めて孫堅と固く手を握ることとなった。



---


劉備は九江郡歴陽を拠点に江東の安定政権作りに着手する。

「まずは人だな」


内政は張昭に、人事は張紘に、外交は華歆に委ねることとした。


軍略は魯粛が担当し、彼の下に今回の戦で加わった若者・諸葛亮を配すこととした。

諸葛亮の物怖じしない発言に、劉備は一抹の危うさと同時に、大いなる光を見た。


政務室に諸葛亮を呼び、

「おまえさんの才は、今後俺の軍の中核を成すことになる。ただ、ちょっとは周囲に気を遣え」

劉備は苦笑いを浮かべながら諸葛亮に伝えた。


また隣の部屋から扉をあけ、付け足す人物がいた。

「亮、劉備様のおっしゃる通りだ。その悪癖直さねば、禍となって、己に降りかかるぞ」


その人物を見て諸葛亮は驚き

「あ、兄上。何故ここにおられるのですか?」


諸葛亮の兄・諸葛瑾は言った。

「此度、魯粛殿の推挙を得て左将軍様にお仕えすることとなった。よろしく頼む」


狼狽する諸葛亮を見ながら劉備は

「俺よりも兄君が恐ろしいらしいな。しっかり手綱を握ってもらうとしよう」

と、大笑いした。


こうして九江を中心に、劉備の政権は少しずつ形を整えていった。



---


年の暮れ、雪は静かに許昌の庭に舞い降りていた。

孫堅は客間の卓に二つの杯を置く。

一つは自らの前に。

もう一つは、向かいの空席へ。


「朱儁殿……袁術を討ち、漢の再興へまた一歩近づくことが出来たぞ」


杯を掲げ、亡き友へ語りかける。

胸奥(きょうおう)に去来するのは、戦場を共に駆けた日々の面影。


雪は降りしきり、杯の中の酒に落ち、消えてゆくのだった――。


――第五章、ここに終幕。

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