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【第三話】鬼才を請う

191年初春

洛陽の廃墟に残された最後の焔が、ようやく風に散り、季節は遷ろいを見せはじめていた。

孫堅は帝陵修復という大任を果たした後、朱儁と共に自らの任地である予州汝南郡へ帰還していた。


土を盛り、碑を立て、乱世に辱められた帝の陵を再び「王たる威容」へと戻す。

それは孫堅にとって、単なる修復ではない。

「帝を奪い返す」と誓ったその志を、土に刻む儀式であった。


汝南郊外の小亭にて。


朱儁は酒を傾けつつ、ふとため息をついた。


「孫堅殿、貴殿の軍には剛の者は多くあれど――智をもって国を治むる者、未だ見えぬな」


孫堅は肩をすくめる。


「我が軍には程普、韓当、黄蓋がおります。

乱軍を斬るには事欠きませぬ。が、朱儁殿の言葉……それは、かの劉邦の故事か」


「然り。劉邦に張良があったように、蕭何があったように。

陛下を再び輿に戻すには、三傑に比す者が要る」


孫堅は静かに杯を伏せた。


「お考えは?」


「一人、心当たりがある」


そう言って朱儁が挙げた名は――


「荀彧、いや……荀攸。天下の鬼才よ」


孫堅は目を細める。

その名は洛陽でも聞いたことがあった。

知をもって乱世に立ち、董卓打倒の密謀をめぐらせたと。


「朱儁殿、彼は……今どこに」


朱儁は酒を飲み干すと、静かに言った。


「長安の獄。董卓暗殺の嫌疑をかけられ、今は生死も定かでない」


風が吹いた。

孫堅は黙して天を仰ぐ。


「助ける。生きていようが死んでいようが、有志の士である荀攸殿に礼を尽くさねば!」


「無謀だと言う者もおろう」

「だが、朱儁殿。あの董卓が抱える長安の獄にこそ、志の士が眠っているのだ。

ならば俺は、火中の栗でも拾う」


朱儁はにやりと笑った。


「ならば使おう、かつて我が配下に置いた影の者たちを。

孫堅殿、世に目立つ剣があれば、見えぬ刃もまた必要なのだ」


かくして朱儁は、密かに育てていた密偵集団――

その名も「玄鴉げんあ」と呼ばれる影の者たちを動かした。

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