【第三十五話】旧都の灯火
196年晩秋 許昌
孫堅は揚州での激戦を制した李通・昌豨・甘寧らの帰還にともない、その労をねぎらい、次なる戦に備えて軍の再編を命じた。
その後、自らは司隷・洛陽へと向かった。
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洛陽では、鍾繇が復興行政を着々と進めていた。河南尹の統治に留まらず、周辺郡国の太守らへも使者を送り、許昌政権への協力を広く呼びかけていた。
その誠意に応じたのは、まず河内郡太守・張楊。並州出身ながら勤王の志厚く、すぐさま受諾。
続いて河東郡太守・王邑も協力を表明し、若き参事・衛覬を使者として洛陽に送った。
洛陽に到着した衛覬は、理知的で誠実、清風のような弁舌を備えた人物であった。
鍾繇はその才に感服し、王邑へ依頼して洛陽復興事業への参画を求めた。王邑はこれを快諾、衛覬は正式に復興行政へと加わることとなる。
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やがて孫堅が洛陽に入る。
焼け野原だった旧都が活気を取り戻している様を目にし、彼は感嘆の声をあげた。
「よくぞ、ここまで……」
迎えに出た鍾繇と司馬朗に労いの言葉をかけると、新顔の衛覬とも対面した。
「お主が、王邑殿の使者か……。洛陽にも見事な若葉が芽吹き始めているな」
鍾繇は報告を続けた。
孟達、毋丘興は軍事統制に明るく、賈逵は法学の勉学に励み、法正は兵学に鋭さを見せはじめていた。
孫堅は満足げに笑みを浮かべた。
「頼もしい若人達だな。漢を下から支える柱となってもらわねば」
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報告の中で、孫堅は一つの情報に目を留めた。
「張楊は并州の出身か……なるほど、騎馬の地だな」
孫堅は思案する。
「我が軍は歩兵、弩兵は充実しているが、騎兵は乏しい。長らく騎兵は河北の公孫瓉や袁紹、涼州の民の利とされてきた……張楊を介して南匈奴と繋がれぬか?」
鍾繇と司馬朗も頷き、孫堅は自ら河内郡へと赴いた。
張楊は孫堅の到来を快く迎え、旧知である南匈奴単于・呼廚泉との関係を伝えた。
「馬がご所望でしたら、匈奴の地へ目を向けられるのは良い。単于は今、漢に近づく姿勢を見せている。良馬の買い付けだけでなく、騎兵の雇用もできるやもしれぬ」
張楊は直ちに使者を送り、単于との交易を取りつけた。
やがて、南匈奴より良馬千頭が届き、さらに単于の甥である劉豹が軽騎兵二千騎を率いて孫堅軍へ加わった。
孫堅はこの機に、魏延を河内に呼び寄せ、既存の二千の騎馬と合わせて三千の重騎兵の訓練・編成を命じた。
「お前のような気骨の士に、鋼の軍馬の運用を任せる。我が軍の切り札となる部隊にしてくれ」
魏延は拳を打ち鳴らして応じた。
「承知つかまつった!」
また魏延の重騎兵と劉豹の軽騎兵の運用についての研究を法正に任じた。
「我らの要の戦力としてその運用をおまえに託す。しかと思案せよ」
法正は緊張した面持ちで
「必ずや我が軍最強の部隊にしてみせます」
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司隷での政務を終えた孫堅は、年の暮れに許昌へと戻った。
ちょうどその折、揚州牧・劉備が年始の朝賀のため上京しており、二人は再会の宴を囲んだ。
「よく来たな、劉備殿。揚州は落ち着いたか?」
「ようやく政の形になってきたな。だが、まだまだ人が足りん。孫堅殿の周りには綺羅星のごとく士がおり羨ましい限りだ」
二人は杯を重ねる。
その中で、ふと、亡き朱儁の名が漏れた。
「朱儁将軍が生きておられたら、今の洛陽の回復を見ればどれほど喜ばれたか……」
「朱儁殿か...黄巾討伐の際には大分どやされたが。伝え聞くに立派な最後だったらしいな……かの御仁の志は俺たちが継がねばならん」
「そうだな……漢の再建のために、共に」
杯を合わせる音が、静かな夜の空気の中に響き渡るのだった。
――第四章、ここに終幕。




