【第三十二話】丹陽の烽火
196年晩夏
玄鴉よりの報告では
「袁術、丹陽郡へ侵攻す。軍勢五万、大将は袁胤、先鋒は紀霊、さらに韓暹・楊奉・李楽も従軍」
袁術は正式に寿春太守として認められたにもかかわらず、なお勢力の拡大を図っていた。
標的となったのは、揚州刺史・劉繇が治める丹陽郡。
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丹陽郡では劉繇の配下・張英、于糜、樊能がそれぞれ五千の兵を率いて歴陽県で迎撃に出たが、衆寡敵せずあえなく敗退した。
危機に瀕した劉繇は最後の望みを太史慈に託す。
「汝がこの丹陽において最後の柱じゃ。民を守ってくれぬか」
「御命、承ります――我が矛、民のために振るいましょう」
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この報を受け、許昌では朝議が開かれた。
陳羣が地図を指し示しながら語る。
「袁術の侵攻が成功すれば、江東への漢室の威信は地に堕ちます」
孫堅もまた立ち上がり言う。
「今こそ、袁術の暴虐を裁く時。劉繇殿の忠義にも応えねばならぬ」
そこに、先日予州へ逃れてきた劉備が進み出る。
「その役、この劉備にお任せいただきたい」
朝堂の視線が劉備に集まる。
孫堅も劉備に呼応する。
「かつて矛を交えましたが、劉備殿の指揮、関羽殿張飛殿の武勇は見事なものにございます。
必ずや帝の御心を靖んじてくれるものと確信します」
献帝も同意し、劉備が正式に揚州討逆の将として任命された。
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劉備の率いる徐州からの精鋭五千に加え、予州兵五千を劉備に預けることとなった。
また、孫堅は自ら組織した「六営」の中から、“雷”の軍――甘寧の軍を劉備の先鋒にあてがい、
“火”の軍昌豨、“風”の軍李通も同行。荀攸が策を授け、陳羣が補給線を整える。
計二万五千の兵が揚州救援軍として編成された。
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出発前夜、甘寧が劉備の前に進み出た。
「将軍、俺は袁術の元に去った三将とは因縁がある。あんたのためではなく、己の名のために戦うつもりだ」
劉備はうなずいた。
「誰のためでも、行いが正しければ天は認めてくれるさ。共に行くか、甘寧殿」
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一方、丹陽の守将・太史慈は1万の兵を率いて牛渚の砦で防戦を繰り広げていた。
何度も押し寄せる紀霊の大軍を打ち破り、韓暹らの挑発にも乗らず、耐え続けた。
「袁術軍とて、士気は無尽ではあるまい……あと、少し……」
その時、東方の山道に孫と劉の軍旗が翻った。
「――朝廷からの援軍が間に合った!」
太史慈は矛を高く掲げ、兵に呼びかけた。
「この丹陽、まだ尽きてはおらぬぞ!」




