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【第三十話】許昌の決断

196年 春 許昌


胡才の略奪事件は都の空気を一変させた。許昌城内は、白波賊出身の将らが蜂起寸前の様相を呈していた。


後将軍・楊奉、右将軍・李楽が韓暹と共に献帝に詰め寄る。


「甘寧なる男、何の権限を以て胡才将軍を手打ちにしたのだ!即刻、処刑されるべきだ!」

「此度の非礼、我らも侮るものと見なしますぞ!」


甘寧は泰然として跪き、口を開く。


「胡才は城外で商人を襲撃し、女子供までも斬った。これは私刑ではない。俺は己に課せられた職務を全うしたに過ぎませぬ」


献帝は困惑し、諸官に判断を仰ぐ。

そこへ孫堅が許昌へ到着し、朝堂へ現れる。


「一切の責任はこの孫堅が負います」


場が静まり返る中、孫堅は陳羣に命じて裁決を言い渡させる。


「胡才は軍律を破り、無辜(むこ)を害しました。甘寧将軍は許都の警邏(けいら)を担っており、現行犯に対して断を下したのは、法に適う行為と認められます。よって、処断は正当であり、甘寧将軍の処罰は行わず。胡才の軍は解散とし、将兵は再編成といたします」


この裁定に、韓暹らは激怒。


「断じて納得できぬ!これでは面目が立たん!」


李楽、楊奉と共に、彼らは許昌を去り、密かに袁術のもとへ走った。


---


その夜、孫堅の幕舎を一人の男が訪ねてきた。


「楊奉の配下、徐晃と申します。孫堅様の御裁きに心打たれました。韓暹達の無法の道に疑問を感じていた身、もしお許しを得られるならば、貴軍に仕えたく存じます」


孫堅はその眼を見て頷いた。


「徐晃殿、貴殿の東澗での勇猛ぶりは聞き及んでいる。ともに漢朝のために働こうぞ」



---


翌日、献帝は人事の刷新を行った。


孫堅を驃騎将軍に任命し、実質的な軍政の筆頭とし、董承を車騎将軍として宮廷警護の任につけることとした。


荀攸・陳羣・趙儼・梁習・杜襲らも各々、尚書・太中大夫・司農・侍御史などの要職に任じ、体制を整えることとなった。


さらに孫堅は、直轄軍の再編を行った。配下の将に軍を預け、六軍団に分け「六営」と名付けた。


風軍 李通:機動力


林軍 呂範:工兵


火軍 昌豨:攻城


山軍 徐晃:防戦


陰軍 臧覇:奇襲


雷軍 甘寧:突破力


それぞれの将の特性に合わせた部隊編成で、各軍五千とし、都の防備と周辺警戒を命じた。


「風は()く、林は整い、火は猛り、山は防ぎ、陰は潜み、雷は(はげ)しく――よき名だ」と呂範が微笑む。



---


許昌に平穏が戻ったのも束の間、徐州より緊急の報が入る。


「曹操、呂布討伐を口実に、劉備の治める徐州へ侵攻を開始」


この報に対し、すぐさま朝廷から停戦の使者が向かったが、曹操は勅使を黙殺した。


かつて父を殺された恨みを晴らすこと、仇敵呂布を倒すことに燃え上がる曹操の憎悪の炎は、徐州に燃え広がろうとしていた。


献帝は狼狽するが、孫堅は静かに語る。


「中原の野火は早々に鎮火してご覧に入れます、我らにお任せください」


その言葉に、荀攸と陳羣も頷いた。


「備えは万全に。火の粉が都へ飛ぶ前に、打つべき手は打っておきましょう」


中原の風が騒ぎ始めていた――。

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