【第二十六話】帰途、洛陽へ
195年 晩夏 洛陽
鉛色の雲が垂れる空の下、献帝一行が洛陽へと進んでいた。
その中心に置かれた白布の輿には、一人の男の亡骸が静かに眠る――朱儁。
老いてなお中平の志を貫き、最期のときまで、漢のため、友のためにその身を捧げ、逝った男だった。
孫堅は、帝の馬車に並び歩みを進めながら、静かに語りかける。
「……朱儁殿。都はすぐそこだ。約束通り、共に陛下をお連れしたぞ」
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都は、かつての威容を失っていた。
崩れた城門、焼け落ちた家々、瓦礫の広がる通り。だが、その地を踏みしめる行幸の列には、一分の迷いもなかった。
人々は荒廃の中から現れた一行に、静かに頭を垂れ、道端に膝をついた。
そして――
かつて帝都を守った老将が、帰ってきた。
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数日後・洛陽 南郊・朱儁の国葬
洛陽城外、かつて霊帝が眠る陵墓の近郊にて、朱儁の国葬が執り行われた。
会場には白旗が風に翻り、深く重い鐘の音が響いていた。
将軍らが白装束に身を包み、整然と並ぶ。中央の棺の前には、帝の命により建てられた葬台。
荀攸が、深く一礼して言う。
「朱儁将軍。中平元年、義軍を起こし、漢室を守る先陣となられた貴殿の志は、今この時代にこそ必要でありました」
続いて、陳羣が述べる。
「朱儁将軍は一兵たりともおろそかにせず、正しきを尊び、乱を嫌われた。貴殿の志は、我ら政の指針であります」
趙儼は重い声で告げる。
「朱儁将軍の死は一人の将の終わりではなく、一つの理の始まりであると信じます」
孫策は震える声で続ける。
「我が家が義を重んじるのは、朱儁将軍のお導きあってこそ。我ら孫家一同、永く感謝と敬意を忘れませぬ」
周瑜、孫賁、孫河の若き世代が進み出て、深く頭を垂れる。
「あなたの教えが、今の我らを支えています」
周瑜は拳を胸に当て続けた。
孫河と孫賁もまた、涙に顔を濡らしながら、その遺徳を偲んだ。
遠く背後では、呂蒙、魏延、甘寧、臧霸ら戦場の将たちが、それぞれの弔旗を高く掲げ、戦士としての礼を捧げた。
風が吹き抜ける。旗がたなびき、白き布が空を舞う。
その時、孫堅が白装束に身を包み、静かに棺の前に立った。
「……朱儁将軍は、我が軍の礎なり」
ただ、それだけを告げ、深く一礼した。
棺の上に白蓮が一輪、捧げられ、静かに棺が納められていく。
誰もが声なく、その様を見守っていた。
それは、ただ一人の将の葬儀ではなかった。
それは、忠と武の象徴――朱儁の生き様を見送る儀であった。
諡号:忠武侯
朱儁、国のために己を捧げし烈士
ここ洛陽の地で永眠についた。




