【第十九話】幕間 烈火の縁、攻と防
194年 春 予州・許昌
春の気配が濃くなりつつある許昌で、孫堅は遠征軍の再編成に取りかかっていた。先の沛国遠征を経て得た戦果を礎に、次なる戦乱に備えるための軍備と将の編成が進む。
この日、孫策、周瑜達、次代を担う若き将に孫堅より新たな命が下された。
「南方の村が度重なる賊の襲撃に苦しんでいる。軍を編成し、これを鎮めよ。名を上げたくば、戦場で示してみよ」
孫策が静かに頷き、従兄の孫賁、族弟の孫河を連れ、盟友の周瑜と共に、戦支度を整え出立する。
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南方・邙山麓の村落
一行が到着した村は、襲撃の爪痕を残していた。だが奇妙なことに、村には整然とした防衛線が敷かれ、賊が撃退された直後であった。
「……軍の訓練を受けていない村人が、これほど秩序立って防衛できるものか?」
周瑜がつぶやいた視線の先、村の中央で村民たちを指揮していた男――それが、呂範であった。
呂範は予州の生まれ。地元の自警団を率いてたびたび賊を退けており、その防衛の才は人々の信頼を集めていた。
孫策は彼に馬を寄せ、堂々と声をかける。
「見事な防戦。貴殿の将器はかの斉の田単にも劣らぬものと見受ける。我が父、孫堅のもとでその才を振るってもらえないか」
呂範は黙してしばし考え、やがて答える。
「賊が根絶されぬ限り、我が村に安寧は訪れぬ。賊を討つことが叶えば、協力させていただきたい」
こうして、若き将たちと呂範は共に賊の本拠を目指して進軍することとなった。
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賊の根拠地・丘陵地帯
孫策達が賊の根城に到着したとき、そこには、すでに戦が繰り広げられていた。
十倍する賊に包囲されながら、わずか百名の手勢で互角以上に渡り合う一団があった。先頭で血槍を振るい、鈴の音をひびかせる偉丈夫がいた。
「背を見せるな!背中の傷は漢の恥ぞ!」
その名は甘寧。巴蜀を逐われ、流浪の末に仲間を率いてここへ流れ着いた豪勇の若者であった。
「……何者かは知らぬが、まるで猛虎の群れだな」
孫策が唸る。
孫賁、孫河、呂範が周瑜の指揮で連携攻撃を仕掛ける。
三方からの突撃と甘寧の突破力が賊軍を切り崩す。
やがて賊は壊滅。戦後、血に染まった甘寧が孫策の前に歩み寄る。
「貴様ら、何者だ?」
「予州牧孫堅が長子、孫策。そしてこれは我が盟友にして兄弟たる周瑜だ」
「なるほど、予州の虎の子か。若いのにいい腕をしている。我が名は甘寧。この乱世に一旗揚げるために巴蜀よりこの地まで流れてきた」
孫策はにやりと笑う。
「誠に見事な腕前だ」
周瑜も続けて、
「その武勇は古の秦の暴将王齕に比肩するものですな」
甘寧は破顔し、
「比べられたのが秦最強の将、白起でないのは残念だが、俺の性は頭でって訳じゃあないしな。暴将王齕の方が性にあう」
孫策は大笑し、
「甘寧殿。父は、漢王朝を背負って立とうとしており、正しきもののために、血を流す覚悟を決めた。
貴殿の刃も我が父のために振るってもらえないだろうか。ともに、天下のために」
甘寧は真顔になり、
「──ああ。
この命、使いどころを探していた。親父さんの背中、俺も追わせてもらう」
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許昌・朝堂
孫堅は戦果報告とともに、甘寧・呂範の登用を聞くと、深く頷いた。
「いずれも一騎当千の気概あり。呂範は城郭の防御、甘寧は機動戦の将として重用しよう」
呂範には許昌の守備と兵站の一部管理、甘寧には朱治のもとでの実戦訓練を命じた。
「それぞれの器を、戦場で見せてくれ」
こうして、また新たな二頭の虎が、孫堅の旗下に加わった。




