【第十六話】若き獅子、牙を研ぐ
前話と今話の投稿順を間違えました。申し訳ありません。また、時系列を少し直しました。
193年 初春 許昌
孫堅がこの地に腰を落ち着けてから、1年あまりが過ぎた。漢室匡輔を掲げ、義に殉ずるその名のもとに、多くの人材が集い、戦火の世に新たな秩序の萌芽を育みつつあった。
その中に、ひときわ眩い光を放つ若き獅子たちがいた。
孫策、若干十八にして剣術と兵法に通じ、周囲の兵士らの羨望と畏敬を一身に集める。
許昌に至って、はや数月。父・孫堅に倣い、武の道のみならず政の理も学ぶ日々を送っていた。
その傍らに寄り添うのは、周瑜――かの周尚の嫡子にして、才気煥発、風采颯爽たる青年である。
既に荀攸の門に学び、政略と軍略の要諦を得て、日々その才覚を深めていた。
また、孫策の従兄・孫賁、族弟・孫河も遠く呉より来たり、この許昌にて武芸を磨いていた。
彼らは、まるで獅子の兄弟のように共に語らい、互いを高め合いながら、次代を担う者としての牙を静かに、鋭く研いでいた。
一方、軍営では、古くからの将と新たに加わった将兵たちとの融合が試みられていた。
孫堅はこの日、配下の将らを召集し、陣営の再編と訓練体制の整備について議した。
「我が軍には李通、魏延、陳到、呂蒙らがいる。そして今、泰山より降りた臧覇、昌豨、孫観、尹礼、呉敦らも加わった。武勇劣らぬ者たちだが、軍は心を一つにせねば力を成さぬ」
孫堅の声は凛とし、堂に満ちていた。
「陳到には汝南兵を率いさせ、魏延には騎馬隊を任ず。呂蒙は影矢――強弩兵を統率せよ。そして、一軍の将として李通、臧覇、昌豨を配す。孫観、尹礼、呉敦はそれぞれの副将に付き、練度を高めよ」
その命に、一同は頭を垂れた。
とはいえ、古参と新参との間には、少なからず確執もあった。
ある日、訓練場で李通が臧覇に向けて語気を荒げた。
「貴様ら山賊上がりが、統制を知らずして我らの列に加わるなど――軽々しく考えるなよ」
その言葉に、臧覇は鋭く睨み返した。
「我らが山で培ったのは生きるための知恵と結束だ。軍律を学ぶことに吝かではないが、誇りを侮辱することは許さぬぞ」
その一触即発の空気を、若き孫策が割って入る。
「その剣の向け先は、味方ではなく賊であるべきだ。共に漢室を支える志を持ってここにあるのではないか?」
言葉に鋭さと温かさを併せ持った孫策の眼差しに、二人は目を見交わし、しばし無言のまま頷いた。
周瑜はその様子を遠目で見ながら、ふと孫策に語りかけた。
「君の言葉は、人の心も切り裂くな――いや、切り開くと言うべきか。次の時代は、きっと君のものだ」
孫策は微笑し、静かに頷いた。
夜が深まり、軍営に静寂が満ちる頃、孫策と周瑜は星空を見上げていた。
「父上の背はまだ遠いが――」と孫策はぽつりとつぶやく。
「それでも、必ず追いつける。いや、共に超えるために励もう。」
周瑜の声に、孫策は静かに拳を握った。
若き獅子たちは、牙を研ぎ、風を待つ。
戦乱の世に、未来を切り拓く時は近い。




