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【第十二話】漢たるものの誇り

<第二章> 風雲の予州


192年 春


許昌の城門が開く。

馬蹄が泥を蹴り、日輪の下に緋の旗がたなびいた。


孫堅は、漢朝廷より正式に予州牧として任命された。漢の正統を体現せんとするその志が、ついに形となったのだ。


その任命を記念し、孫堅は陳国・陳県を訪れていた。そこに在るのは、劉邦の末裔である、陳王・劉寵。共に漢室復興を志すものとして、義に通じた関係を結び直す場でもあった。


「よくぞ来てくれた、孫堅将軍。……否、予州牧殿」


劉寵は落ち着いた声でそう言った。


「身に余るお言葉です。此度の殿下のご推薦と後援、深く感謝いたします。予州の安寧と、漢の再興のため、今後ともお力添えを賜りたく存じます」


孫堅は襟を正し、頭を下げた。その姿に劉寵は深く頷く。


「すでに予州の民より、貴殿の仁と威の声は届いておる。……聞けば、強弩の再編も急務とか。陳にはその技を知る者も多い。精鋭の訓練兵を共に送ろう」


「恐悦至極に存じます」


この日をもって、孫堅政権は正式に陳王との同盟を締結。予州の統治はより正統なものとなり、民の支持も揺るがぬものとなった。


許昌へ戻った孫堅は、ただちに再整備された強弩部隊の訓練を命じた。


呂蒙を筆頭に、先の袁術との戦で採用された戦術をさらに練度をあげ、大規模に行う訓練に入った。

選抜された視力鋭き兵を再編し、強弩五人に一人の標識兵を配置。標的は敵軍の将、あるいは隊長。狙撃によって指揮系統を断ち切るこの部隊は、やがて『影矢』の名で恐れられるようになる。


夕暮れ、政庁の一室で、荀攸が書状を手にしたまま現れた。


「将軍……洛陽より、急報です」


「……何があった」


「董卓、死す。討ったのは呂布にございます」


その報に、部屋にいた者たちはどよめいた。あの暴虐の権臣が、ついに――


「孫堅将軍、これは千載一遇の好機かと存じます。皇帝陛下の御身を、今こそ救うべきかと」

程普が武官を代表して進言した。


長安――皇帝が囚われて幾年、ようやく董卓が死んだ。

しかし、今の孫堅には、許昌の防衛、予州の治安、そして寿春に残る袁術の脅威、さらには陶謙の動向までもが重くのしかかっていた。


「……いかに志があろうとも、今、軍を割けば、許昌もまた焦土と化そう」

孫堅の言葉は低く、苦悩に満ちていた。


荀攸は目を伏せて頷いた。


「されど、玄鴉の精鋭を一部、密かに長安へ残せ。変事あれば、すぐに報が届くようにせよ」


黒衣の諜報団――玄鴉は、すでに長安にも潜伏していた。

その拠点を再整備し、必要とあれば陛下を護る手は打てるよう、密命が下された。


そして、夜更け。

星明かりの下で孫堅は静かに誓う。


「必ずや、漢を護る。

今はまだ時機にあらず――されど、その日が来れば、我が全軍をもって、陛下をお迎えしよう」


風が再び吹いた。

未来への決意を乗せて――

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