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筆に咲く、蒼の記憶 ―転生した姫と“かつての師”、平安後宮絵巻―  作者: 米粉
第2章 香に宿る血 ― 皇統の影、恋の光
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第7話 沈黙の限界 ― 左大臣家、追い詰められて

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(※本作は、平安時代をモチーフとした異世界転生ファンタジーです。

 宮中の制度や人物設定には、創作上の表現が含まれています。

 あくまで“平安風”幻想世界として、筆と祈りの物語をお楽しみください。)

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白銀香殿の夜、左大臣家の邸には、静かな緊張が満ちていた。

実房、忠晴、宵羽、そして紫鳳中宮。

沈黙の中、香炉から細く昇る香の煙が、重たい空気を分けるようにゆらめいていた。


「……帝が気づき始めています。香の“重なり”に」と、忠晴が低く口を開いた。


紫鳳中宮は御簾越しにうつむいたまま、かすかに肩を震わせる。


「私の香……悠蓮様の香と似せて調えた、それが――」

「もはや、偶然では済まされぬところに来ていますな」と実房。


重ねて忠晴が静かに続ける。

「筆跡も、帝の眼を逃れられはしません。“あの子”は、書で己を語りすぎました」


「……私はもう、心が持ちません」

紫鳳の声が掠れ、空気が揺れた。


「蒼倉の名で呼ばれ、遠縁とされて、それでもあの子は誇り高く、筆を持って歩いてきました。私の息子――悠蓮様の忘れ形見です」


誰も言葉を続けなかった。香の煙だけが、まるで過去をなぞるように静かに漂っていた。





その数日後。内裏、後宮の一角。

高栄院、葵皇太后、帝・明澄の三人が、左大臣家の面々を呼び寄せていた。


御簾の奥に、紫鳳中宮。

左には実房と忠晴。後ろに宵羽の女御。


香が焚かれ、緊張が室内を満たす。


「左大臣」

高栄院の声が落ちる。


「おまえが保護していた“遠縁の宮”――香と筆から、兄・悠蓮の影が見えるのだ。あの子は……」


「陛下」

忠晴が前に進み出た。


「お察しの通り、“蒼倉の宮”は、紫鳳中宮が産んだ御子。そして――悠蓮東宮の忘れ形見です」


御簾の奥、静かだった紫鳳が震える声で言った。


「私は、ただ……あの子だけは、誰にも奪わせたくなかったのです」


帝が息を呑み、口を開いた。


「なぜ、今まで黙っていた……?」

「……内裏では、皇族の血さえ守れぬのです」

忠晴の声が張り詰める。


「第一皇子、彰様の件、そして悠蓮様。

お二人とも、皇族であったからこそ狙われたのでは

と……私たちは、そう考えています」


紫鳳が声を詰まらせた。


「私はもう誰も失いたくないのです。警備を強化しても、内裏にいれば……あの子を、また――奪われてしまうのではと……!」


香が、張り詰めた室内を切り裂くように揺れる。


「……兄上の子か」

帝は目を閉じた。


「それが、おまえの香だったのだな」


誰も言葉を継げなかった。

香の奥に、確かに、過去の記憶が宿っていた。

そして、院が静かに言った。


「真実は、香に宿る。……だが、守る覚悟がなければ、その香も消え去る」


明澄帝は、静かに紫鳳の方を見た。


「……おまえがあの子を“守ってきた”ことに、私は、感謝する」




左大臣家に戻ると、忠晴がひとり、夜空を仰いだ。


「……これが、父の望んだ未来ならば」


紫鳳がそっと傍に立つ。


「いつか、帝に伝える覚悟は、ありました」

「姉上……」

「でも、怖かったの。あの子を“帝の子”とされたとき、

あの子の命が、また狙われるのではないかと」


忠晴はその言葉を受け止め、ひとこと、呟いた。


「――今度こそ、誰も殺させない」


夜の風が香を運ぶ。

それは、香と沈黙で真実を伝えた、女たちと筆の家の覚悟だった。


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