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筆に咲く、蒼の記憶 ―転生した姫と“かつての師”、平安後宮絵巻―  作者: 米粉
第2章 香に宿る血 ― 皇統の影、恋の光
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第6話 帝と蒼き影 ― 香が誘う、あの日の面影

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(※本作は、平安時代をモチーフとした異世界転生ファンタジーです。

 宮中の制度や人物設定には、創作上の表現が含まれています。

 あくまで“平安風”幻想世界として、筆と祈りの物語をお楽しみください。)

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――香に宿る記憶。未来を決める“名もなき皇子”の影が、静かに揺れ始める。


春深く、内裏に香るのは、白銀香殿の焚香と、記憶に刻まれた“あの香”だった。


茜皇后のもとには、可憐な皇女・梓が膝に抱かれ、帝はそっと手を添える。


「あなたがいてくれたから、私は……あの子の名を呼べたのよ、梓」


香の名残が室内に漂う中、帝は小さく微笑んだ。

その腕の中には、新たな命が宿っている――


 


「陛下、右大臣殿がお見えです」


報せに帝がうなずくと、右大臣・藤嶺が控えめに頭を垂れた。


「ご懐妊、誠におめでとうございます。……恐れながら、ひとつだけ」


「申してみよ」


「もし、今回の御子が“男子”であった場合……東宮殿下より継承権が優先されるお考えはございますか?」


帝の眼差しが静かに揺れる。


「……ない」


即答だった。


「私は、遥和を次代の帝と決めている。誰が男子であろうと、それは変わらぬ」


右大臣がわずかに表情を変えた瞬間――

奥から、院・高栄の声が響いた。


 


「それがおまえの道か、明澄」


「……はい。兄上のことも、遥和のことも、忘れたことはありません。茜と、あの子と……家族を守るための決断です」


院は目を細めると、静かにうなずいた。


「それならば、私も支えよう。――ただ、ひとつ気がかりがある」


帝が顔を上げた。


「悠蓮の子は……確か左大臣家にいたはずだ。だが、その後の消息が掴めぬ」


帝の目がわずかに揺れた。


「――まさか」


 



同刻、白銀香殿の奥庭――


蒼倉 硯清は、若き姫君たちと香の稽古をしていた。


ふと吹いた春風が、懐かしい香を運ぶ。


その香に、離れた場所にいた帝は目を細める。


「……この香は、兄上のものに似ている」


それは“悠蓮東宮”が好んだ香。

だが、そんな香を今、誰が?


遠目に見えた蒼倉の姿に、胸の奥がざわついた。


「……まさか」


香だけが、記憶を揺らす。


 



夜。明澄帝は帳の奥に香炉を置き、静かに独り言を漏らしていた。


「……兄様の香がした」


短い時間だったが、筆と和歌を教え、励ましてくれた。


その面影を、蒼倉 硯清に感じていた。


今、蒼倉と名乗っているが、あの記憶の中の“兄様”と、どこかが重なる。


 



夜更け、左大臣邸。


実房、忠晴、紫鳳中宮、宵羽の女御が密かに集まり、香を焚いた一室で言葉を交わしていた。


「……陛下が気づかれる日も近いでしょう」


忠晴が言った。


「蒼倉の香は、あの方のものと同じ。悠蓮東宮が遺した“光”が、あの子には確かに宿っています」


「けれど、まだ言えません」

紫鳳が静かに首を振る。


「帝となる者がひとたび現れれば、あの子は“標的”になる。私は……今度こそ、誰も殺させない」


 


「……守る。それが我ら左大臣家の務めです」


実房が低く、強く言った。


「真実は、香に宿せ。香が帝に届くその時まで、我らは沈黙を貫く」


――香が揺れた。


 


その夜、誰もがそれぞれの“影”を胸に抱いて眠りについた。


そして帝もまた、あの香の名を思い出そうとしながら、

夜明けの帳に包まれていた――


「香は、すでに帝の記憶に入り込んだ。

それが“忘れられぬもの”である限り、真実は、いつか――届く」


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