表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
筆に咲く、蒼の記憶 ―転生した姫と“かつての師”、平安後宮絵巻―  作者: 米粉
第1章 新白銀香殿、恋と筆のはじまりに
21/35

第8話 誰の香りを私は探しているのだろう ― 春宮、焦がれる恋

*-----------------------------*

(※本作は、平安時代をモチーフとした異世界転生ファンタジーです。

 宮中の制度や人物設定には、創作上の表現が含まれています。

 あくまで“平安風”幻想世界として、筆と祈りの物語をお楽しみください。)

◆登場人物

遥和はるか東宮:帝の長子。左大臣家の孫にして、穏やかながら芯を持つ少年帝位継承者。

華怜かれん姫:白雪と兼雅の娘。内大臣家の姫。春宮妃候補のひとりとして名を挙げられている。

燈香とうか姫:華怜の妹。まだ恋の名を知らぬ少女。

▸宵羽の女御よいはのにょうご遥和東宮の母で、左大臣家の長女

*-----------------------------*


春宮・遥和は、白銀香殿の宴で初めて華怜と正式に対面する。

静かに交わす挨拶。

しかし、どこかぎこちない。

「……その香、お綺麗ですね。白梅に……薄荷? 鈴蘭も混じっているような」

華怜は一瞬驚いた顔をして、微笑む。


「それは、妹が使っている香です。今日は私が、少しだけ借りましたの」

「……妹、ですか?」

「はい。あの子は香りに敏くて、自分で調合もしますの。まだ若いのですが」


遥和の眉が僅かに動く。

(まさか……)

あの、池辺で出会った少女。名も知らず、声だけが胸に残る――

あの時の香りが、確かにこの袖に似ている。


けれど、目の前の華怜は、間違いなく公達の憧れを集める「姫」。

あの素朴な少女とは、どうしても結びつかない。


(あの姫は……大貴族の姫には見えなかった。でも、内大臣家の――?)

遥和の胸がざわつく。香が、記憶を呼び起こしてしまうのだ。



その夜、東宮邸。

遥和は母・宵羽の女御をそっと訪ねる。

「母上……どうしても気になる香があるんです」

「香?」

「白梅と、薄荷と、鈴蘭……少し珍しい調香で。

 あの時の、池の姫が纏っていた香です」


宵羽の女御は目を細めて、思案する。

「白銀香殿で焚かれている香に、似たものがあるわ。

 姉妹であれば、重ね香の可能性も高いでしょうね」

「では、あの姫は……やはり、白銀香殿の……?」


遥和は顔を伏せる。

「どうしても、忘れられないんです。顔もよく見えなかったのに。

 ただ、香と声だけが、ずっと残ってる」


その声に、宵羽の女御は優しく微笑んだ。

「香というものは、記憶を超えて、心に触れてしまうの。

 貴方が“香”で恋をしたなら――それはきっと、本物よ」



その一方で、白銀香殿の姉妹部屋。

華怜は、袖を撫でながらふふっと笑う。


「蒼倉の宮様って、面白いのよ。筆の癖が、すごく几帳面で――でもどこか、優しくて」

「それは姉上の恋の始まりですね。」


燈香が香の袋を整理しながら、笑う。


「でもね、燈香。

 あの方を好きになっても、すぐに何かが起こるわけじゃないのよ。

 それでも“嬉しい気持ち”がある。

 それだけでもう十分。私は東宮妃候補ですし」


燈香はその言葉を静かに聞きながら、

ふと、自分の袖に残る“白梅と薄荷の香”を思い出していた。

(……香って、こんなに胸を動かすんだ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ