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筆に咲く、蒼の記憶 ―転生した姫と“かつての師”、平安後宮絵巻―  作者: 米粉
第1章 新白銀香殿、恋と筆のはじまりに
20/35

第7話 都の華、あこがれの姫と、噂の宮 ― 華怜、心を焦がす

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(※本作は、平安時代をモチーフとした異世界転生ファンタジーです。

 宮中の制度や人物設定には創作上の表現が含まれています。

 “平安風”幻想世界として、筆と祈りの物語をお楽しみください。)

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白銀香殿の朝は、静かで美しい。


今朝も、姉妹は並んで筆を取っていた。

華怜の筆はまっすぐで、どこまでも自信に満ちていた。

その筆先に滲んでいたのは、最近ずっと心に咲いている“ある人”の影だった。


「……蒼倉の宮様って、ほんとうに不思議な方ね」


燈香がふと、横目で姉を見る。

華怜は恥ずかしそうに笑った。


「お会いしたのは、ほんの少し。

 でも……あの目の奥に、何かを隠しておられる気がして……」


都中で憧れの姫とささやかれる華怜。

その微笑みは誰に対しても平等で、美しく、やさしい。

けれど今、その微笑みは――誰かひとりに向いていた。



都では、こんな噂が流れていた。


「蒼倉の宮といえば、帝の御前で言葉を示した“筆の奇跡”」

「あの少年は、血筋ではなく“香と才”で帝に選ばれるのだ」


そんな蒼倉の宮を、華怜は偶然、宴で目にしていた。


彼の筆が、ただの書ではなかったこと。

その筆の一画ごとに、“何かを伝えよう”とする魂がこもっていたこと。

華怜は――あの瞬間から、心が動いてしまったのだった。




その日、姉妹は蒼倉の宮から筆の稽古を受けることになっていた。


香殿の一隅、屏風の向こうで、蒼倉の宮は二人の様子を見守っていた。

華怜の筆は美しかった。

けれど、それ以上に――彼女が差し出す“目線”と“言葉”に、蒼倉は一瞬だけ筆を止めた。


(……何かを、伝えようとしている)


彼は、筆に込める“感情”を重んじる。


美しいだけではなく、届く言葉を――


その意味で、燈香の筆もまた気になっていた。

彼女の筆には、まだ形にならぬ“記憶”が滲んでいるようだった。


(この姫たちの香は……静かに、分かれていくのかもしれない)



**

授業が終わり、華怜は少しだけ、蒼倉の宮に近づいた。


「……わたくしの筆、いかがでしたか?」


蒼倉の宮は目を伏せたまま、静かに微笑む。


「姫の筆は、美しゅうございました。

 けれど、“まだ隠しておられる言葉”があるように思いました」


華怜の胸が高鳴る。

(それを――気づいてくださったの?)

一歩、心が寄った気がした。

だが、その一方で。



**

その夜、燈香はふと空を仰いだ。

袖の奥には、まだ“あの時の香”が残っていた。


池のほとり。

誰かに名前も告げず、想いも語らず。

けれど、香だけが残った邂逅。

(姉上は、蒼倉の宮様に……)

(じゃあ、わたしは――)


遠ざかる鼓動。

近づいてくる気配。


香だけが、真実を教えてくれる。

けれど、それはまだ“恋”とは呼ばれない。

それぞれの胸に、香だけが咲き始めていた。

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