おかしなチェーンメール
久しぶりに、カオスな感じになってます。
少しでも笑っていただけたなら、嬉しいです。
ある日、僕のもとに一通のメールが届いた。
(ん、誰だ? 今どきメールって……時代錯誤かよ)
メールのタイトルは──
『私の存在を知って欲しいの』
(え、なにこれ……怖いやつ? チェーンメールってやつ?)
オカルト好きの僕は、好奇心に負けて、そのメールを開いてしまった。
―――
『これを読んだあなたは、私の存在を知ってくれた。
だから、私たちは友達。
友達が困っていたら、助けてくれるよね?
あなたには、私のお願いを聞いてほしいの。
それは難しいことじゃない。
このメールを六時間以内に五人に送るだけ……
もし、友達の頼みを無視したら、不幸が訪れるから……』
---
(……やっぱりチェーンメールじゃん!)
初めて目にする本格的なチェーンメールに、僕の胸は高鳴っていた。
(送らなかったら、どんな不幸が来るんだろ……ワクワク)
僕は、誰にも送らないことを決めた。否、そもそも送れるような友達がいなかった。
(このメールが届いた時点で、不幸確定だよ……『ぼっち』を再認識させないで……)
その夜──
ピンポーン
一人暮らしの僕のアパート──そのインターホンが鳴った。
(え、こんな時間に? まさか……チェーンメールの“呪い”ってやつ?)
僕は、高鳴る胸の鼓動を抑えながら、入り口のドアに近づいた……。
外からは、カサカサと音が聞こえる……
僕は、そっとドアスコープを覗く
すると──
──両手にマラカスを持って、狂ったように踊り続けるおじいさんがいた。
シャカシャカ……
シャカシャカ……
(え、なにこれ……ある意味ホラー……この人、幽霊?)
思考が停止し、ドアスコープから目が離せない。
ハァ、ハァ……
マラカスじいさんは、肩で息をしはじめた。
(あ、さすがに疲れるよね……あの年齢であの運動量はキツい…… でも、幽霊ではなさそうだ……)
ゴクゴク……
ゴクゴク……
ペットボトルの水を一気に飲み干した後──
シャカシャカ……
シャカシャカ……
マラカスじいさんは、ダンスを再開した。
(いつ終わるの……これ?)
その後、一時間ほど踊り続けた末に、マラカスじいさん──略して「マじい」は、警察に連行されていった。
◇
翌日
またチェーンメールが届いた。
タイトルは──
『私の存在を知っているよね?』
(え、また……?)
内容はこうだった。
---
『これを読んだあなたは、私の存在を知っているよね? ていうか、昨日も送ったよね?
無視? 無視なの?
私、ぴえん……マジ、ぴえん……
だから、お願い……。
このメールを、一時間以内に三人に送って欲しいの……
それだけでいいの…… できるよね?
もし、また無視するなら、不幸が訪れるから……』
―――
(時間も人数も減ってる……進化型チェーンメール? あと、『ぴえん』って…… ていうか、送る相手がいない僕のほうが『ぴえん』だわ……)
僕は、またも無視することにした。
その夜──
ピンポーン
再びインターホンが鳴った。
ドアスコープを覗いてみると──
──地面にバナナの皮が一枚、ぽつんと置かれていた。
(何これ? 意味がわからない……)
すると、そのバナナの皮に向かって、昨日のマじいが歩いてきた。
(あ……これ、滑るやつだ! でも、なんでそんなベタな……)
マじいは、バナナの皮を踏んだ。
──でも滑らなかった。
もう一度、逆方向から歩いてきて、再挑戦した。
──やっぱり滑らなかった。
(うーん……なんだこのモヤモヤは。滑るなら滑ってくれよ……!)
その後もマじいは、角度を変えたり勢いをつけたりと、何度もチャレンジしたが──
一度たりとも滑らなかった。
ついにマじいは、地面のバナナの皮に向かって怒鳴り始めた。
「お前、ワシを滑らせんとは……バナナの皮の風上にも置けんやつじゃ! 成敗してくれる!!」
ファイティングポーズを取り、マじいとバナナの皮の戦いが始まった。
五分後──
マじいは、再び警察に連行されていった。
◇
さらに翌日
───またまたメールが届いた。
タイトルは──
『“バナナ”と言ったら、“滑る”だよね?』
(連想ゲーム始まってるし……“黄色”じゃないのか?)
内容はこうだった。
---
『あなたは、バナナの存在を知っているよね?
バナナの皮って、本当に滑ると思う?
実はあれ、チャップリンの映画が元ネタらしいの。知ってた?
ところで、今回もお願いがあるの。
このメールを、五分以内に一人に送って。
さすがに、一人なら……いるよね?
もし、それも無理なら──不幸が訪れるから……』
---
(もう意味がわからない…… でも、一人も送れる相手がいない僕には、内容よりもそっちが問題だった。そのことを思い知らされた時点で、すでに不幸は訪れていた……)
僕は、思い切って返信することにした。
『すみません。僕には、メールを送れるような友達がいません。違う人に送ってください』
数分後、返信が来た。
―――
『嘘でしょ?
そんなわけないじゃない……
友達がダメなら、お母さんでも良いわ……
このメールを送って……』
―――
(やめて……僕の心をえぐらないで……)
仕方なく、母のアドレスにメールを送ってみた。
すぐに返信が来た。
『Returned mail: User unknown』
(……え?)
最初は、意味不明な内容に母が適当に英語で返したのかと思った。
しかし、調べてみると、母のメールアドレスはもう使われていなかった。
(そんな話、聞いてない……)
僕は、もう本当に、誰にもメールを送れなくなってしまった。
(……一応、事情を説明しておこう)
僕は、チェーンメールの送り主に返信した。
『母のアドレスが使われていませんでした』
──数分後。
ピンポーン
インターホンが鳴った。
ドアスコープを覗くと、そこには──
悲しげな表情のマじいが立っていた。
ガチャ
ドアを開けると、マじいは一枚の写真を差し出してきた。
そこには、可愛い子猫が写っていた。
「元気出して……」
そう言って、マじいは静かに去っていった。
(かわいい~ ネコちゃん、癒されるぅ~)
僕には、小さな幸せが訪れた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。
先日、私のコメディー作品のほとんどに、ポイントを付けてくださった方、本当にありがとうございます!
この場を借りて、お礼を申し上げます。