三国志演義・賢人英雄評~孟徳と本初~
声劇台本:三国志演義・賢人英雄評~孟徳と本初~
作者:霧夜シオン
所要時間:約15分
必要演者数:4~7人
3:1
4:0
5:2
6:1
7:0
キャスト例:(他に良い組み合わせがあったら教えてください。)
【最少人数配役例】
曹操:
荀彧・田豊:
郭嘉・袁紹:
ナレ・勅使:
【最大人数配役例】
曹操:(セリフ数作中最多なので基本、ピンの方が良いと思います)
荀彧:(曹操、郭嘉、ナレ以外と兼ねられます)
郭嘉:(曹操、荀彧以外と兼ねられます)
袁紹:(田豊、勅使、ナレ以外と兼ねられます)
田豊:(袁紹以外と兼ねられます)
勅使:(袁紹以外と兼ねられます)
ナレ:(曹操、荀彧、郭嘉以外と兼ねられます)
はじめに:この一連の三国志台本は、
故・横山光輝先生
故・吉川英治先生
北方健三先生
蒼天航路
の三国志や各種ゲーム等に加え、
作者の想像
を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた
め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事
も多々あります。
その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです
。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい
ております。何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場
合がありますので、注意してください。
なお、性別逆転は基本的に不可とします。
●登場人物
曹操・♂:字は孟徳。
漢王朝の宰相、曹参の末裔を称する。現王朝の司空の位につい
て、自らの理想とする世を築くべく、皇帝をも大義名分として
利用する。人材収集癖があり、有能な人材を愛する事、女性を
愛するかの如くである。
政治、軍事、文化等のあらゆる分野で後世に名を残す、
”破格の英雄”。
荀彧・♂:字は文若。
若くして王佐の才(王者を補佐する才能を持った人物)を謳わ
れる人物。郭嘉や荀攸に劣らぬ先見の明を持ち、帝をいち早く
保護して大義名分を得ることを曹操に助言した。
曹操の遠征時は許昌の留守を預かることが多く、後方支援は常
に的確である。
郭嘉・♂:字は奉孝。
潁川出身。王を補佐する才を持つと言われる荀彧と同等か、
それ以上の能力を持つ若き天才。
曹操とウマの合う性格で、知略をもって補佐している。
先見の明を持ち、劉備を殺す事が曹操の為にならない事など
、的確な助言を行う。
袁紹・♂:字は本初。
漢王朝の最高の役職である三公(大尉、司徒、司空)を一族か
ら代々輩出している、名門中の名門の末裔。
優柔不断な所もあるが、基本的には優れた人物ではある。
反董卓連合軍の総大将を務めたこともあり、現在は北平の
公孫瓚と河北の覇権を争っている。
勅使・♂♀不問:皇帝の使者…とはいうが、実際は漢王朝を牛耳っている
曹操の使者である。
それは誰もが知っているが、誰もが皇帝の使者として扱う。
ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者が少ない状態で上演の際は、被らないように兼役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:曹操は南陽の張繍を討伐するべく大規模な出兵を行う。
しかし張繍の軍師・賈クの謀略にあい、双方多くの兵を犠牲にした
だけとなる。
張繍軍の追撃を振り切って許昌に帰還すると、曹操は自軍の損害を
補填、袁紹の動きを注視していた。
そんなある日。
荀彧:我が君、お疲れではございませぬか?
曹操:おう、荀彧か。
やっと落ち着いたわ。
後は袁紹だが…。
荀彧:その件ですが、我が君のご帰還が思いのほか早かった事もあり、
どうやら諦めたようです。
曹操:そうか…今しばらくは平穏か。
しかしこのままでは、迂闊に許昌を留守にもできんな…。
荀彧:はい。
西には荊州の劉表、南陽の張繍、東に淮南の偽帝袁術、そして北
には冀州の袁紹、四方を敵に取り囲まれております。
曹操:【溜息】
余の覇道、まだまだ道半ばか…。
荀彧:そういえば南陽より退却の際、劉表・張繍が安象で待ち構えている
旨を早馬でお知らせしましたが、その際我が君は案ずるな、
余に秘策ありとのご返事でした。
なぜそのような確信がおありだったので?
曹操:ああ、あの時か。
敵の策で敗走し、疲労困憊の極みに達していたこちらを殲滅するべ
く、張繍らは必殺の備えで陣を構えていた。
突破するには、命を捨てるほどの覚悟が無ければならぬ。
それを兵の一人にまで与え、捨て身の戦をさせた。
死の中にこそ活路を見いだす場合がある。
だからこそ、余は必ず勝つと確信したわけだ。
荀彧:おお、なるほど…さすがでございます。
我が君こそ、真に孫子の兵法の玄妙を体得していると申せましょう
。
曹操:ははは、いまだ新たな兵法を磨く日々よ。
そちにそうまで言われては面映ゆいわ。
ナレ:味方の将兵はこの話を伝え聞き、戦いに敗れたにもかかわらず、
より深く曹操に心服したと伝えられる。
季節は流れ、やがて去燕雁来の秋を迎える中、許昌へ装いも華やか
な五十人ばかりの一行が到着した。
河北の袁紹の使者である。
荀彧:? 郭嘉殿ではないか、どちらへ行かれる?
郭嘉:おう、荀彧殿。
袁紹からの使者がやってきたのを知っているか?
荀彧:! なに、袁紹だと…!
いや、いま貴殿の口から初めて聞いた。
郭嘉:着飾った上にもったいぶっているご一行が、先ほど駅館に着いたそ
うだ。下へも置かぬもてなしを受けているらしい。
荀彧:…何代にもわたって漢王室に仕え、そのうち四世にわたって司空、
司徒、大尉の三公を輩出している名門中の名門のお家柄、
そして天下の何分の一かにあたる領土を治める実力者…という事実
は、我が君よりも上という先入観を持たせるだろうからな。
郭嘉:ああ、忌々しい事ではあるがな。
今にその価値観を粉々に砕いてくれよう。
荀彧:おくびにも出さないが、漢王室にとって代わらんとする袁紹の腹が
透けて見える。
実力もあるとはいえ、それ以上に背景や門地に負うところが大きい
のにまだ気が付かん。
哀れなものだ。
郭嘉:うむ。
おっと、つい陰口に花が咲いてしまった。
袁紹からの書簡を我が君に取り次がねばな。
荀彧:書簡か。
公孫瓚と争っている中での我が君への使者…。
おおよそ内容は予想がつくが…いや、引き留めてすまなかった。
郭嘉:では、失礼する。
荀彧:…周囲の状況は厳しい…が、まず初めに除かねばならないのは、
やはり徐州の飢えた狼であろうな…。
ナレ:そのころ、曹操は禁裏から退出し、自室で一息ついていた。
そこへ郭嘉がやってくると、拝礼して袁紹からの書簡をささげた。
郭嘉:我が君、ご休息中失礼いたします。
袁紹からの使者が先ほど駅館に到着し、書簡を我が君へご披露願い
たいとのことで預かってまいりました。
曹操:なに、袁紹だと?
…見せよ。
【二拍】
ふ…はっはっはっは…!
郭嘉:我が君、いかがなされました。
曹操:何という虫のいい交渉だ。
昨年、余が南陽討伐のため許昌を留守にした折は、その隙を突こう
と機をうかがっていたではないか!
であるのに、書簡の内容は北平の公孫瓚と国境の争いを起こしたが
、兵糧も兵も足りないので援助してくれ…だと!?
なんたる無礼な!
ッ!
ナレ:怒りのあまり、曹操は床に書簡を叩きつけた。
それでも足りないのか、郭嘉に向かって残った不満を吐き出す。
曹操:袁紹の傲慢無礼な態度はこればかりではない。
日ごろ帝の御名で政務の文書を交わしても、常に不遜な文言を用い
て余をいち文官とみなしておる!
いつかその驕れる鼻をへし折ってくれようと我慢しているが、
彼奴の冀州における勢力もなかなか…。
余が己の力不足を痛感しているところへ、このうえ北平を攻めるか
ら兵と物資を援助しろとは、侮るにもほどがある!
まったく底の知れん横着者だ!
【三拍】
郭嘉:………我が君。
改めて申し上げるまでもない事かもしれませぬが、
漢王室創始者の高祖・劉邦が、西楚の覇王・項羽を倒した故事を
思い起こし下さいませ。
高祖は武力にかけては項羽にはるかに及びませんでした。
しかしそれでも項羽が滅んだのは、武力を頼んで知力を軽んじた為
でございます。
曹操:その通りだ。
郭嘉:私ごときが我が君を批評してはその罪、死に値しますが、
忌憚なく申し上げてもよろしいでしょうか。
曹操:よい、遠慮なく申せ。
郭嘉:ははっ。
我が君と袁紹の人物を比べてみますと、我が君には勝利の特徴が
十カ条あり、逆に袁紹には敗北の特徴が十カ条ございます。
時期を待てば、必ず有利な状況が訪れるでしょう。
曹操:ほう…余のどこが袁紹に勝っている?
郭嘉:一、袁紹は時世を知りません。
その思想は保守的というよりも時代に逆行している。
が、我が君は時代の流れに従い、世の中を改めようとなさっていま
す。
曹操:今の世の中は儒教に支配され、停滞しているからな。
郭嘉:二、袁紹は事大主義で儀礼ばかり尊ぶ。
が、我が君は自然で民衆に触れています。
曹操:民は国の根本だ。
民の事をよく知らずして、国は治まっていかん。
郭嘉:三、袁紹は寛大のみを政治だと思っている。ゆえに民はそれに慣れ
てしまう。
が、我が君は峻厳で賞罰は明らかである。その為、民は恐れと同時
に大きな喜びを持つ。
曹操:当然だ。
法をもって信賞必罰を明らかにしなければ、民を統治するのは難し
い。
郭嘉:四、袁紹は太っ腹のように見えますが、実は小心者で猜疑心が強く
、身内を重要な役職につけます。
が、我が君は分け隔てなく才能に応じて官職を与えます。
曹操:うむ…。
郭嘉:五、袁紹は計略を好むが決断力に乏しい為、常に惑う。
が、我が君は果断即決、それゆえに計略も最大限に活きる。
曹操:……。
郭嘉:六、袁紹は自分が名門の生まれなので、名士や実の無い虚名を喜ぶ
。
が、我が君は真の才能あふれる人物を愛する。
曹操:【照れたように】
はっははは、もうよせ。
そんなに美点ばかり並べられると、余も袁紹になる恐れがあるわ。
郭嘉:ははっ。
ともかく、今はまだ袁紹と事を構えてはなりませぬ。
曹操:うむ…そちの言葉、よく考えてみよう。
ナレ:郭嘉の下がったあと、曹操は日没後の室内にひとり座っていた。
眼前に立ちふさがる、袁紹という巨大な敵への対策を思い巡らせよ
うとする時、さすがに心穏やかではいられなかったのである。
やがて窓から月光が射しこみ、曹操の顔を照らす。
曹操:袁紹は恐るるに足らん…だが、侮れぬ。
大国だけに智謀に優れた者、武勇に秀でた者も少なくない。
確かに袁紹よりは、自分の方が人間的には勝っている。
だが名門の彼奴には、保守派の隠然とした支持がいまだ根強い。
新進気鋭の自分には反感や嫉妬が常に向けられているのもわかる。
だからといってこのままじっとしていれば、いずれは滅ぼされて
しまう。
ナレ:自問自答を繰り返し、四方の情勢を仔細に分析、曹操の意思は次第
に大きな決断へ向けて近づきだした。
曹操:そうだ…この身は風雲の間から生まれた。前進を忘れてはならん。
打開に危険が伴うのは当たり前だ!
全ての古きは新しきと常に入れかわるのが自然の法則。
袁紹はしょせん、旧勢力の代表者でしかない!
よし…肚は決まった!
ナレ:そう決断し、曹操は眠りにつく。
しかし夜が明けると己の決断を確かめたくなったのか、彼は荀彧を
呼びだした。
荀彧:我が君、お呼びでございますか。
曹操:来たか、荀彧。
昨日、袁紹の使者がこの許昌にやって来たのは知っていよう。
この書簡について、そちに意見を聞きたくてな。
荀彧:なるほど…拝見いたします。
【二拍】
曹操:どう思う、荀彧よ。
荀彧:一言で申せば、実に手前勝手かつ無礼尊大な文面でございますな。
曹操:であろう。
袁紹の無礼には日頃忍んできたつもりだが、これほど愚弄されては
余は我慢がならん。
荀彧:ごもっともです。
曹操:だが、どう考えてもまだ余の力が不足している。
荀彧:よくぞこらえられました。
その通りかと存じます。
曹操:しかし、余は断じて袁紹を征伐しようと考えている。
そちの意見はどうか?
荀彧:討つべきでございます。
曹操:おお、賛成か。
余は勝てるか?
荀彧:おおせまでもありませぬ。
必ずや勝利を収められるでしょう。
我が君には袁紹と比べて、四つの点で勝っておりますゆえ。
曹操:なに、四つの点…。
はははは、そちも郭嘉も、まるで申す事が割り符を合わせたかのよ
うだな。
ならば…袁紹の使者を斬って即時宣戦布告してもよいか?
荀彧:いや! その儀は!
曹操:いけないか。
荀彧:断じて、今はなりませぬ。
曹操:なぜだ?
荀彧:袁紹という前面の狼にばかりとらわれてはなりませぬ。
後門の虎である、呂布の存在をお忘れなきよう。
それに、荊州方面の情勢もまだ油断がなりません。
曹操:むむむ…呂布…!
それでは余は身動きできぬではないか。
荀彧:時の流れと袁紹を戦わせるのです。
あのような旧時代的な考えでは、そのうち誰もついてこなくなりま
す。
袁紹の重臣たちが自壊作用を起こすのを待ち、最後の一押しという
時に兵を動かせば万全でしょう。
曹操:むぅ……ちと、気が長いな。
荀彧:なんの、一瞬です。
時勢の推移というものは、今こうしている間にも刻々と恐ろしい
速さで動いています。
目に見えず、耳に聞こえないものだからそう感じないだけです。
今はとにかく、呂布を先に何とかするべきでしょう。
曹操:ふうむ…なるほどな…。
よし、わかった! 袁紹の要求をかなえてやれ。
ただし、兵を除いてだ。
荀彧:ははっ、すぐに手配します。
ナレ:郭嘉、荀彧、時代を代表する二人の賢者の意見が完全に一致してい
た為、曹操もついに迷いを捨てる。
おびただしい軍需物資と帝の勅命を携えて、勅使が冀州へとたどり
着いた。
袁紹:なに、曹操から使者が来たか。
田豊:はい、相当な量の軍需品と共に先ほど到着したとの事です。
袁紹:! ほぉ、ずいぶんと太っ腹ではないか。
田豊:それと使者ではなく、帝からの勅使とのことです。
袁紹:ははは、何が勅使だ。
曹操の意を受けた使者であろうが。
田豊:そうではございますが、名目上は勅使にございますれば。
袁紹:まあよい。ともあれ、会おうではないか。
【二拍】
お待たせいたした。
勅使がお越しとは、いかなる大事にございましょうや?
勅使:袁紹殿、帝よりの命をお伝えします。
貴殿を大将軍大尉に任じ、併せて冀州、青州、幽州、ヘイ州を
治めるようにとの勅命です。
袁紹:! おお…謹んで承ると、お伝えくだされ。
勅使:承知しました。
なお、こちらが曹司空からの書簡です。
袁紹:曹操から…しかと、受け取りました。
勅使:では、私はこれにて…。
【二拍】
袁紹:曹操め…ふふふ、はっはっは…!
田豊:我が君、勅使は何と?
袁紹:うむ、わしを大将軍大尉に任じ、冀州、青州、幽州、ヘイ州を領土
として認める旨を伝えてきた。
田豊:おお、それは祝着至極に存じます。
袁紹:そうだ、曹操から書簡が来ていたな。
どれ…。
曹操:まず、貴殿の健勝を祝します。
このたび北平の征伐を思い立たれた事については、心から必勝を
祈るものであります。
馬や兵糧などの軍需物資は、可能な限り後方より支援するので
ご心配なく。
公孫瓚を討伐し、万民の為にいよいよ国家鎮護の大任を成し遂げら
れますよう祈っております。
ただ、お詫びせねばならぬ一点は、不肖それがしの守護の任にある
許昌の地も何かと事多く、秩序の維持の為、どうしても兵を要しま
すゆえ、兵力の儀だけはご期待に沿う事ができません。
どうか悪しからず。
袁紹:ふうむ、曹操からどんな反応が来るかと思っていたが、このたびの
色よい返事、至れり尽くせりだな。
あ奴も案外、誠実な男と見える。
田豊:そうですな。
我が君、これで心置きなく北平攻略に乗り出す事が出来ますぞ。
袁紹:うむ。
皆の者、今こそ北平を手中に収めるのだ!
袁紹・ナレ役の人間全員:おうッ!【SE代用可】
ナレ:袁紹の喜び方は絶大なものだった。
その後まもなく大挙して北平へ軍事行動を開始、しばらく南方の
注意を怠ることとなる。
一方の曹操は袁紹の目を許昌からそらすと、いよいよ状況を打破す
るべく、まずは東へ手を付けた。
小康を保っていた徐州も、再び風雲急を告げ始めるのであった。
END