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第97話 ルドルフの動き

「お呼びでしょうか。ルドルフ様」


「おお、来たか騎士ヴァーノン。待っていたぞ」


 ルドルフは執務室に入ってきたヴァーノンを招き入れた。


「マギア地方の情勢については聞いているか?」


「ええ。弟君であらせられるノア様がバーボン公国を切り取ったのを皮切りにノルン公イングリッドを騎士にし、ナイゼル公国との対立が深まっていると」


 アークロイ向けの使者を担当しているヴァーノンは、ノアがマギア地方に進出中もせっせとアークロイを訪れていた。


 それだけではノアの動向を追うのに不充分と分かると、バーボンにまで出向いて情報収集をしていた。


 ノアには会えなかったが、ドロシー、オフィーリアには接触しており、度々情報を持ち帰っては、ルドルフに報告していた。


 そして、最後にオフィーリアに会った時の様子からまだ確定情報ではないが、ナイゼルとジーフが秘密同盟を結び、近々アークロイと大きな戦争を起こすつもりではないかと睨んでいた。


「昨日、入ってきた情報によると、アークロイ軍はナイゼル・ジーフ連合軍を撃破し、サブレ城とラスク城を手に入れたそうだ」


「!? サブレ城とラスク城を!?」


(もう獲ったというのか。まさかこれほど早いとは)


「お前の見立て通り、ナイゼルとジーフは秘密同盟を結んでいたようだな。そして揃いも揃って、オフィーリアにのされたようだ」


 ルドルフはくっくっと可笑しそうに笑った。


「世間というのは落ち目の奴に厳しいもんだな。当初は見て見ぬふりを決め込んでいた領主達もここにきてナイゼル公子のピアーゼ襲撃を非難する動きが出てきた。俺の下にも各国領主から、どうするつもりかという問い合わせが多数寄せられている」


 ルドルフは束になった手紙を机の上にドサっと置いてみせる。


「ことここに至ってはユーベル大公国としても黙って見ているわけにはいかなくなった。早急に対応を協議し、我々の立場を明らかにする必要がある。ナイゼル、アークロイ、そしてマギア地方に対して」


(……マギア地方か)


 マギア地方はギフティア大陸の中でも際立って異質な地域だ。


 魔法資源を加工できる腕のいい魔導技師と魔法武器を自在に使いこなす魔法兵が常に輩出されている一方で、領主と魔法院による二元的な支配体制がとられている。


 ギフティア大陸の領主達は、豊富な魔法資源と魔導技師、そして魔法兵を手に入れようと、度々マギア地方に食指を伸ばしてきたが、その都度外交巧者な領主と内政を握る魔法院によって翻弄されてきた。


 そんな中、近年勢力を伸ばしてきたのがナイゼル公国とジーフ公国だ。


 ナイゼル公国は海上貿易によって得た資金力を背景に、ジーフ公国は領内から豊富に採れる魔石資源を背景に、それぞれマギア地方にて勢力を伸ばし、各国魔法院を傘下におさめてきた。


 そこに第三勢力として今、アークロイ公国が割って入ろうとしている。


「で、ヴァーノン。アークロイ担当の外交官として、貴殿はこの情勢をどう見ているんだ?」


「マギア地方は領主と魔法院による二元的な支配体制を確立している特殊な地域です。我がユーベル大公国とは明らかに異質な文化と制度によって運営されています。迂闊に深入りするのは危険です」


「だが、ノアの奴はマギア地方に進出して上手くやっているじゃないか」


「……」


(その通りだ)


 これに関してはヴァーノンからしても謎だった。


 マギア地方においては各国魔法院を味方に付ける高度な外交能力と内政能力が必須である。


 さらに聞くところによると、ノルン・バーボン間の海域はナイゼル公国の制海権となっている。


 ノルンとバーボンの間を何度も行き来しているということは、ノアは度々海でナイゼル軍に対して勝っているということだ。


 マギア地方でも有数の海軍力を誇るナイゼル公国に対して。


 つまり、ノアは優秀な外交官、優秀な内政官、そして優秀な海軍提督を配下に置いているということになる。


(どういうことだ?)


 外交官はまず間違いなくドロシーだろう。


 だが、内政官と海軍提督は?


 ユーベル大公領やアークロイ領から輩出したとは考えにくい。


 ということは、信じられんことだが、ノアはマギア地方で内政と海戦を高度に担当できる将を新たに見出したということになる。


 そして、おそらく内政と海戦を担当する人物は別人である可能性が高い。


 ノルンの内政と海戦を両方担当するのは難しいからだ。


「しかもアークロイはアノン、ネーウェル、リマ、エンデ、サリスの5国と同盟を結んだというぞ。これは事実上、マギア地方での足場固めに成功した、ということになるんじゃないのか?」


「ノア様がどのようにしてマギア地方の支持を得たのかは定かではありません。しかし、おそらく相当危ない橋を渡っているはずです」


「だが、奴は上手くやりおおせた。マギア地方で城を4つも手に入れたうえ、同盟国を5つも手に入れた」


 ルドルフは机の上でグッと拳を握りしめる。


「これを見せられて、黙っていろというのか? 大国ユーベルの外交を一手に担うこの俺が」


「……」


 ルドルフの外交政策は依然として進展がなかった。


 友好国候補を10持っているとは言っても、所詮は候補止まりだった。


 条約締結には至っていない。


 ルドルフは社交的な性格と巧みな弁舌で重要人物への接近、コネクション作りまではどうにか漕ぎ着けるのだが、その後、契約の詰めの段階で軽さや見通しの甘さが露呈し、条約調印には至らず立ち消えとなってしまうということが続いていた。


 そうして今となっては、ノアに外交においても大きくリードされている状態だ。


 外交能力を評価されて今の地位にいるルドルフにとって、心中穏やかではいられないだろう。


 そして、各国がユーベルの動向に期待する今なら何らかの形でマギア地方に介入できそうなのも確かだった。


(だが、ノア様のやられていることは、はっきり言って離れ業だ。果たしてルドルフ様に同じことができるかどうか)

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