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第88話 三つ巴の策謀

 バーボン方面では、ブラムの軍がオフィーリアの猛追を受け続けていた。


 1週間追い回されているにもかかわらず、オフィーリアの進撃は(とど)まることを知らなかった。


(くそっ。なんてプレッシャーだ。まだ走れるのかよコイツら)


 ブラムは下を向きたくなる気持ちを抑えて、指揮を執り続ける。


(我慢だ。サブレ城に辿り着きさえすればまた兵力を増強できる)


 敵の騎兵と軽装歩兵による追撃でだいぶ人数は削られたが、まだ士気は衰えていなかった。


 ナイゼルの兵士達はブラムのことを信じていた。


(サブレ城にまで辿り着ければ……)


 雨足が強まってきた。


 これで少しは敵騎兵の脚が遅くなるはずである。


 体勢を建て直すチャンスであった。




(雨が強くなってきたな)


 オフィーリアは雨降りしきる中、曇天を睨み付ける。


 魔石銃とゴーレムを使うのは難しくなってきた。


 どちらの兵器も内燃による温度上昇が前提条件だった。


 それに敵のケルピー部隊は健在だった。


 ここからはケルピーによる奇襲を一層警戒しなければならない。


(できればここでナイゼルに壊滅的な打撃を与えたいが……)


 オフィーリアにはもう一つ心配事があった。


 地平の向こうに見えるジーフの城をチラリと見る。


(不気味なほど動かないな。ただの愚鈍か。それともあえて動かないのか)


 ナイゼルとジーフが同盟を結んでいることはもはや揺るぎない事実だ。


 ドロシーからの定時連絡によると、ジーフ軍はノルンに宣戦布告し、ノルン城に奇襲をかけているとのことだ。


(ジーフの城が近くなってきた。ここからはジーフの動きにも注意しなければな)


 ノアはノルン城にいる。


 主君を救援するためにも、オフィーリアにできることはバーボン方面ジーフ軍に打撃を与えて、敵の注意をこちらに集中させることだった。




 ラスク城に待機するジーフの将軍スメドリーは、のんびりと爪を切っていた。


 城の高い場所から見れば、すでに同盟軍のナイゼルがオフィーリアの苛烈な追撃に晒されているというのに。


 部下達はヤキモキしながらその様を見ていた。


 若い将校が我慢できずに聞いた。


「閣下、よろしいのでしょうか。このまま動かないで」


「すでにナイゼル軍はアークロイ軍と交戦中です」


「このままではナイゼル軍は壊滅的な打撃を受けてしまいます」


「焦るな。焦るな。言っただろ? 追いかけっこなんざナイゼルの鼻垂れ小僧に任せときゃあいい」


「しかし……このままではアークロイ軍によって、我が軍とナイゼル軍が分断されてしまいます。そうなると、我々は単独でアークロイ軍と戦うことになりますよ」


「いいんだよ。それで」


「は?」


「ったく、仕方ねーな。ちょいと教えてやろう」


 スメドリーは若い連中に諭すような態度で話し始めた。


「このままナイゼルとアークロイが戦えばどうなる?」


「双方、痛手を(こうむ)ることになりますね」


「だろ? アークロイ軍といえども死に物狂いで戦うナイゼル軍相手では無傷ではいられまい」


「なるほど。つまりアークロイ軍がナイゼルと戦って消耗したところを狙い、漁夫の利を得ようというわけですね」


「ま、そういうことだな」


「確かにアークロイ軍が消耗したところを狙えば、造作もなく勝利することができそうですね」


「しかし、それなら何もナイゼル軍が消耗するのを待たなくとも、ナイゼル軍と連携してアークロイ軍を挟み撃ちにしてしまえばよいのでは?」


「はー。分かってねーな。君は何も分かってない」


「……」


「ナイゼルとアークロイが痛手を負って消耗した後、ジーフがアークロイを討つ。するとその後、壊滅的な打撃を受けたナイゼル軍はどういう行動に出る?」


「ナイゼル軍は消耗してとても単独では行動できないから……」


「ジーフ軍を頼るしかない……あっ」


「ナイゼルは満身創痍の状態で我が軍に合流することになりますね」


「そう。その後のバーボン城攻略に関してはナイゼル軍は我が軍におんぶに抱っこというわけよ」


「ナイゼル軍を我が軍の影響下に置くことができる……と?」


「そういうこと。当然、バーボン領有においても我が国が主導権を握るというわけよ」


「な、なるほど」


「そうか。つまりこの待機策はアークロイを消耗させるだけでなく、ナイゼルを消耗させることも狙っているというわけですね」


「ナイゼルを自軍の影響下に置き、戦後処理を有利にするために」


「そうそう。戦争ってのはな。勝つだけじゃダメなんだよ。なるべくコスパ良く勝たなきゃ果実までは摘み獲れん。そのために今、機が熟すのを待っているというわけさ」


「はー。そこまでお考えだったんですね」


「流石はスメドリー将軍」


「しかし、そうであれば急ぎ本国に出撃の許可を……」


「このままではノルン方面軍に先を越されてしまいます」


「まあ、待てと言っておろう? 急いては事を仕損じるとな。もうすぐあれが来る頃よ」


「あれ。とは?」


「将軍。ジーフ公より伝令です」


 伝令が駆け込んできた。


「言ってみろ」


「これよりジーフ軍はその第一作戦目標をノルン方面からバーボン方面に移す。ナイゼル軍と連携してバーボン方面を制圧するようにとのことです」


「な?」


「はは。流石です」

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― 新着の感想 ―
でもさぁ、そんな上手くいくかな? ナイゼル軍だって、ジーフ軍がここまで動かなければ、ジーフ軍が敵に寝返った!って偽情報でも流されれば、ナイゼル軍がジーフ軍の城に攻撃してくる事だってあるんだよ? 漁…
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