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第84話 改築と混乱

 ターニャは図面を片手に忙しくノルン城の内側と外側を行ったり来たりしていた。


 ジーフ製のゴーレムはノルン製のものよりはるかに性能に劣る。


 とはいえ、ノルンの旧態依然とした城の防備は薄く、特に城門はゴーレムによる火砲ですぐに破られかねなかった。


 今から抜本的に城壁を分厚くするのは難しいので、可能な範囲で城壁の内側を厚くし、外側には土塁と濠、塹壕を築いて、敵のゴーレムが城門前まで近付けないようにする。


 ターニャは城壁の弱い部分を見て周り、弱い部分に濠を掘って土を盛り土塁を築く場所を図面に引いていく。


 また、ジーフ製ゴーレムの射程から敵の砲兵部隊が布陣すると思われる予想位置を基に土塁を築いて周到に防衛線を設計していく。


 業者達はターニャの作成した図面を基にゴーレムを使って土を掘り、盛って、最後には土魔法で固めていく。


 ターニャはランバートのように統率スキルが高いわけではなかったので、予算や人員の配置、各組織の調整にはグラストンとノアが補佐した。


 グラストンは最初の方は「また新しい人材の抜擢ですか」と苦笑していたが、ターニャの仕事ぶりを見てすぐにその非凡な才に気付く。


 それからは全面的にターニャのことを支援するようになり、煩雑な調整も進んで請け負うようになる。


 魔法院では例によって築城に関する幾つかの法案の変更に当たって、エルダーク卿の一派が野次や牛歩戦術で妨害しようとしたが、グラストンの手引きもあって、無事ノルン城の改築案は受け入れられた。


 ターニャは城の外の防御だけでなく、内側にも砲台をいくつか設置してゴーレムを配置できるようにした。


 ノルン製の高性能火砲付きゴーレムには曲射できるものもあるので城壁を越えて敵の部隊を砲撃できる。


 ジーフの性能の低いゴーレムに比べればその射程は2〜3倍にも及ぶ。


 砲撃を浴びせようと城壁に近づいてきた敵ゴーレム部隊を迎撃することも可能だろう。


 薄く高い城壁上にゴーレムを配置するのは難しいので、街の中にあるいくつかの土台のしっかりした橋や高台にゴーレムを配置する。


 その際、住民の立ち退きや家屋の建て替えも実施した。


 こうして城壁と土塁の向こう側に布陣すると見られる敵軍が、どこに展開しても砲撃できるようにゴーレムの配置体制を整えた。


 また敵の位置によって迅速に移動できるよう、ゴーレムの脇に馬車を控えさせて、敵がゴーレムを近づけて来たらその位置をいち早く知らせるよう城壁の上には目のいい兵士を配置して、敵の位置を知らせる合図を送らせるようにした。


 ノアは各部署の人員にそれぞれ砲戦適性の高い人間を配置し、選抜を終えると、実戦に備えられるよう怠りなく準備させた。


 各方角にゴーレムを10台と砲撃部隊を置いて、かなり精確に集中砲撃および迅速な軌道修正ができるように訓練を重ねた。


 城の外にも銃眼付きの柵を設置して敵歩兵が近付いてきたら銃撃で応戦できるようにした。


 また、敵の砲撃が来たら素早く塹壕の中に隠れて、砲撃をやり過ごす訓練も実施した。


 城壁のいくつかの高すぎる部分は削り取って、城内からの曲射砲撃が通りやすいようにする。


 そうして、準備万端で城の守りを整えていると、案の定ジーフ公国はノルン魔法院に対し宣戦布告してきた。


 密かに集められていたジーフ軍3万がノルン城を目指してヒタヒタと迫ってくる。




 ジーフ公国侵攻の報に接し、ノルン市街では混乱が広まっていた。


 ジーフ軍が迫ってきているからではない。


 街中から食料や日用品が消えたためだった。


 戦争の気配を察知した商人共が買い占めをして、価格の釣り上げを図ったのだ。


 人々は思わぬ危機にパニックを引き起こした。


 エルダーク卿は側近を引き連れて、ノルン公邸にいるノアの下を訪れ、面会を求めた。




「アークロイ公。市街の様子については聞き及んでおられますかな?」


「ああ。聞いている。店の棚という棚から食料品を始めとした生活必需品がことごとく消えているそうだな」


「左様でございます。これでお分かりいただけましたかな? これがこの国の現実です」


 エルダーク卿は窓の外を差し示した。


 市民達が僅かに残った品物を求めて、街中を徘徊し、列に並んでいる様子がノアの執務室からでも見て取れた。


「この国はとても戦争に耐えられるような状況ではないのです。今からでも遅くありません。ナイゼル公国と和議を結びましょう。そうすればジーフ公国といえど迂闊に我が国に手を出すことはできないはずです。アークロイ公よ。賢明なるご決断を」


「安心したまえ。市街での品物不足についてはもうすでに手を打っておいた。ナイゼルと和議を結ぶ必要などない」


「何を。まだそんな世迷言を。いい加減現実を見てください。現実を!」


「領主様」


 伝令が駆け込んでくる。


「市街での品不足が解消しました」


「……」


「ふむ。折角だから、彼らに聞かせてやってくれ。どのように品不足が解消したのか」


「ノア様の騎士が1人、ルーシーと名乗る魔女がノルン中の店の棚に食糧や品物を補充しています。空を飛びながら各店を回って、場合によってはその場で市を開いて、市民達の不安を立ち所に鎮めて回っております」


「うむ。伝令ご苦労。と、いうことだがエルダーク卿、いかがかな? 問題は解決されたようだが」


 ノアがそう言うと、エルダーク卿はがっかりしたように眉毛を八の字にする。


 そして部屋を出て行った。


(……なんか言えよ)


 その後、商人達はしばらくの間、じっと黙って市場の様子を眺めていたが、ルーシーの補給がいつまで経っても尽きず、買い占めた品物が高額で売却できないことを悟ると、ノアに泣きついてきた。


「ルーシーの卸す品が安すぎる。これじゃあ商売上がったりだ」


「在庫を放出するから、あの魔女を引っ込めてくれ」


「何でも協力しますんで許してください」


 ノアは商人一人一人から交換条件として情報提供させた。


 そうしてジーフやナイゼルに品物や魔石、ゴーレムが横流しされている仕組み、どの上級騎士が賄賂を受け取って、癒着に関与しているのか、大体の実態を掴むことができた。


 そうして内部のゴタゴタを片付けると、ジーフの大軍が城の外まで迫ってきているとの報告を受ける。


 ノルン城防衛戦が始まった。

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― 新着の感想 ―
これで軍部の上層部が癒着や収賄の罪で追放、または降格等の処分が決まるし、商人達は証人や証拠もある。 そりゃあ、買い占めても、ルーシーが外から持ってこれるんだから、商売上がったりだもんね。 商人や、…
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