表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/141

第82話 水上固定砲台

 オフィーリアはかつてない強敵と対峙しているのを感じた。


(こちらの打つ手がことごとく潰される。ジワジワと徐々に不利が拡大していく。かつてないこの手応え。間違いない。目の前にいる敵ブラム・フォン・ナイゼルの武略は私と同じAクラス!)


「ふー」


 オフィーリアは大きく息を吐いて呼吸を整えた。


 ランバートは撤退を進言したが、跳ね除ける。


 ここで撤退したら、ナイゼル・ジーフ同盟を崩すために出撃した意味がなくなる。


 何としても目の前の敵を突破する!


(平面のスピードでは向こうの方が上。ならば、こちらは高さと火力で勝負!)


「河に沿って柵を設置しろ」


 バーボン城からも新たに1万の兵士を呼び寄せて、兵4万を集結させる。


 これで対岸のナイゼル兵3万5千よりも兵力はやや多くなった。



(防御を固めるのか?)


 対岸の動きを見たブラムは首を傾げた。


 これではますますこちらの思う壺のように思えた。


 ジーフの援軍と雨が来るのを待っているブラムからすれば、時間を浪費してくれるのは好都合だ。


(アークロイを統一した将軍と言ってもこんなもんか)


 ブラムは敵の策に乗りつつ、偵察だけは余念なく行い、度々ケルピー部隊を対岸に渡らせ、隙を見て柵に火を放ったり、敵の部隊の配置を調べさせたりした。


 アークロイ軍も騎兵で哨戒し、見つけ次第騎兵戦を仕掛けたものの、広い河川のすべてをカバーするのは困難な上、敵は見つかり次第逃げればあっさり河川を走って自陣に逃げ帰れるため、効果的な反撃が行えなかった。


 そうこうしているうちにナイゼルの軍はすべて辿り着き、雨雲もいよいよ近づいてきた。


 雨が降れば、魔石銃もゴーレムの火砲も湿気(しけ)って砲筒内で温度を上昇させることができず、無力化される。


 戦局はますますブラムに有利に傾いているかのように思えた。


 が、オフィーリアは消極的な防御に終始しているように見せかけてこっそりと次の手を打っていた。


 タグルト河流域上に街を持っている同盟国アノン公国に頼み、背が高く船底の平らな船を戦域まで運んで来るよう命じておいたのだ。


 アノン公国はオフィーリアのナイゼル侵攻に難色を示していたものの、ドロシーが「これ以上戦線は拡大しないから」「船は防御目的以外には使わないから」「ここでナイゼルを止めないとアノンも巻き込まれるぞ」などと言い、どうにか宥めすかして船のチャーターに成功する。


 風の魔石をふんだんに使って、船速を速めた他、流れの速いところでは馬やゴーレム、黒竜によって曳航し、船団は3日後には戦場までたどり着いた。




 ブラムが異変に気付いたのは、オフィーリアが再び渡河作戦に動いてからだった。


 ケルピー部隊からいつの間にか船団が両陣地の下流で河いっぱいに展開していることが知らされる。


 アノン公国の船着場から中型船が30隻ほど遡上してきたようだ。


 船には銃や弓矢を装備したアークロイ兵が乗り込んでいる。


 背の高い船に銃兵を配置して、これで水上騎兵の高さにも対抗できるというわけだ。


 船の上に立つ兵なら一方的に蹄で踏み付けられたり、高いところから長槍で刺されたりすることはないだろう。


 ケルピー部隊が突撃してきても射撃して迎撃できるというわけだ。


 船は錨を降ろして固定砲台にし、さらに無謀にも突撃して乗り込んでくるケルピーがいることを想定して、船の舷側には柵を設置した。


 それでも突撃してくるケルピーがいるかもしれないから、船のすぐ側面の水中に杭を突き立てて、防御しておくことにした。


 これにて水上の固定砲台および防衛線の完成である。


 オフィーリアは船団を盾にして歩兵と騎兵に渡河するよう命じた。


 ブラムは慌てて船団を排除しようとするものの、すでにアークロイ軍の準備は万端だった。


 攻撃してくるケルピーも船も射撃によって撃退する。


 砲台を排除するのが無理とわかったブラムは渡河してくる歩兵達を踏み潰すよう命じた。


 陸から船団の後ろに回り込み、ケルピー部隊に攻撃させる。


 しかし、ここでもやはり固定砲台が役立った。


 渡河部隊は固定砲台からの支援射撃によって援護された。


 歩兵達はケルピーに踏み潰されそうになると、水の中に潜って回避する。


 アークロイ兵は続々対岸へと渡っていった。


 痺れを切らしたブラムは陣地から本隊を出動させて、渡ってきたアークロイ兵を再び河に押し返そうとしたが、ここでオフィーリアがこっそりと配置を変えていたゴーレムが火を噴いた。


 ナイゼル歩兵に直撃して混乱を生む。


 対岸に渡ったアークロイ兵はここぞとばかりに追撃を喰らわせた。


 ナイゼル兵は慌てて陣地へと逃げ帰っていった。


 目的を達成したアークロイ軍は深追いせず、味方が完全に渡河するのを待った。


 夕方になる頃には3万のアークロイ兵が河を渡っていた。


 ポツポツと小雨が降り始める。


 ジーフ軍はまだ戦場に来なかった。




 オフィーリアは全軍が河を渡るのを待たず、攻撃を仕掛けた。


 船団にも側面から援護射撃するよう命じる。


 ブラムは不意を突かれて、慌てて対応する。


 まだ防御陣地は完成していなかった。


 双方激しく剣槍を交えたところで、またいつの間にかこっそり配置を変えていたゴーレムが火を噴いた。


 ナイゼル本隊に直撃する。


「ここでゴーレムを使うのか!?」


(せっせと作ってた柵は防御のためではなく、ゴーレムの配置を密かに変えるため? こいつらっ。マギア地方の最新兵器をこうも簡単に使いこなすなんて)


「くっ、ジーフの奴らは何してやがる」


 ブラムの今回の強行軍は、ジーフとの同盟が機能することを前提にしたものだった。


 ジーフ軍が来ない以上、前提は崩れる。


 ケルピー部隊を削られるのを嫌ったブラムは撤退を命じる。


 アークロイ軍はナイゼルの作りかけの陣地を奪うことに成功する。


 ナイゼル軍を駆逐したオフィーリアは、橋をかけて全軍を渡河させた。


 橋の守りに守備隊を残すと、アークロイ軍はナイゼル軍の追撃態勢に入る。


 ここからしばらくの間は、河もなく地平が広がっていた。


 遮る物のない平地にアークロイの虎が解き放たれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ