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第69話 新造艦

 ノアがバーボン城を攻略している頃、ナイゼル公子の屋敷にはマギア地方の各地から領主達が集まっていた。


「とんでもないことになったな」


「まさか、アークロイがマギア地方に進出してくるとは」


「冗談ではないぞ。マギア地方はここ数年、平和的外交でまとまりかけていたというのに」


「戦争ではなく外交で決着をつける。それが我々マギア魔法院における長年の多国間交渉によって打ち立てられた不文律だ。だというのにアークロイめ」


「長年の魔導師に対する偏見も払拭して、ようやく法王と共にマギア地方での諸侯会議実施に漕ぎつけたというのに」


「ノルン公もノルン公だ。よりにもよって、なぜアークロイなどに身を寄せるのか」


「お分かりいただけたでしょうか皆様。アークロイがいかに暴虐な男か」


 ナイゼル公子ベルナルドが長机の最奥に立って演説する。


「彼はノルン公国の問題を解決したいと口では言っているものの、実際にはこのマギア地方に火種を持ち込んで戦争を起こしたいだけなのです。彼がいかに危険な男か。分かっていただけましたね? 私がやや強引な手段に訴えてでも彼の邪悪な野望を阻止しようとしたことも、今となっては皆様分かっていただけるでしょう。すべてはマギア地方に無用な戦火を持ち込まないがため。ただそれだけなのです。もし、ノルン公がアークロイの口車に乗せられて、領地を開け渡していたらもっと酷い事態になっていたやもしれません。いったいなぜこのマギア地方にあのような無益な殺生が必要なのでしょうか? マギア地方のことはマギア地方民で解決する。アークロイの薄汚れた金など必要ない! 私はここに皆様と共に反アークロイ同盟を結ぶことを提言します」


 一同拍手を起こす。


「そうだ。マギア地方に戦争などいらない」


「アークロイは僻地に帰れ!」


(ククク。バカな男だアークロイ。これでマギア地方に反アークロイ感情が湧き起こるのは必然。私のピアーゼ襲撃にも大義名分が立つ)


 このままアークロイによるマギア進出がグダグダになれば、ノアにも非難が集まり、どっちもどっちという論調となり、ベルナルドのピアーゼ襲撃についても有耶無耶になるに違いない。


 何せマギア地方は大陸各地から魔法を学びに留学生が(つど)う国際都市が多数ある。


 マギア地方での評判はそのまま大陸各地での評判に繋がるのだ。


「大変です!」


 バタバタと駆け込んでくる伝令が1人。


「何事だ。この大切な会合の最中に」


「些細なことなら後にしろ。今はアークロイへの対処を巡って討議している最中なのだ」


「そのアークロイ軍に関する最新の動静です」


「いったい何だ言ってみよ」


「バーボン城が陥落しました」


「「「「「えっ!?」」」」」


「バカな。バーボン城はマギア地方でも屈指の堅城のはず」


「何かの間違いでは?」


「いいえ。確かな情報です。ここにバーボン魔法院による新領主を承認する旨書かれた書状がございます」


 伝令は胸元から書状を取り出し、領主達に回覧する。


 領主達は眉をしかめたり、キョトンとしながらその書状を眺めては隣の者に渡す。


 会合の場に困惑が広がる。


(おいおい。どうすんだよ)


(ナイゼル軍が援軍に駆けつけたんじゃないのか)


(聞いてねーぞ。こんなに早く陥落するなんて)


(長期化する見込みだっていうから、こうしてナイゼル公子の呼びかけに応じて、集まったっていうのに)


(これでアークロイは城6つ持ちか。ノルン公国も含めれば7つ)


(ナイゼルとアークロイ。城9つ対城7つ……)


(えっ。ちょっと待ってこれ。急に分かんなくなってきたぞ)


「皆様、これでお分かりいただけましたね。アークロイがいかに危険な男か。これ以上、彼を野放しにはしておけない。今すぐに反アークロイ同盟を!」


 先ほどに比べてまばらな拍手がパラパラと湧き起こるのみだった。


「あっ、私所用を思い出しました」


「私も」


「反アークロイ同盟についてはまた後日」


「えっ!? ちょっと」


 マギア地方の領主達は非常にパワーバランスに敏感で、よく言えば外交巧者、悪く言えば風見鶏だった。


 このあと、ノアと連絡をとって火の粉がかからないよう模索するに違いない。


 ナイゼル公子邸に集まった領主達は、結局誰も反アークロイ同盟に署名しないまま帰ってしまう。


(おのれぇ。アークロイ。バーボン城を獲ったくらいで勝ったと思うなよ。まだノルンはお前のものにはなっていないぞ)




 バーボン魔法院の協力を取り付けると、それまで働いていなかったノアの家臣達がしきりに動き始めた。


 オフィーリアはバーボン軍を解体・再編して、アークロイ軍に組み込む。


 エルザはバーボンの魔石銃を調べて改良に取り組む。


 ドロシーはバーボンの魔法学院に通う留学生を捕まえて、彼らの国元に連絡を取るよう依頼した。


 バーボンの魔法学院には周辺諸国から多数の留学生が魔法を学びにきているのだ。


 彼らはノアのバーボン統治が上手くいっていること、魔法院との関係が良好であることを国元に伝えて、周辺諸国を安心させ、使者のやり取りが円滑になるよう取り図ってくれた。


 ランバートは城の防衛担当者を呼び出して早速、城の改築計画に着手した。


 イングリッドはノルン製のゴーレムを横流しした犯人を探るべくガラッドを尋問する。


 ルーシーはそれまで戦争に興味関心を示さず、アークロイ領のクルック城でお菓子を食べていたが、バーボン領の品物の値段が暴落していると聞くや否や、シュババババと飛んできて、市場で品物を買い漁った。


 おかげでノアは特にやることがなく、次の戦いに向けて準備を進めることができた。


 ノアが次に目を向けるのは海だった。


 バーボンの港から海路一挙にノルン公国へとたどり着く。


 そのために必要なのは海軍力の強化だった。


 ノアがバーボンの海軍関係者を呼び寄せて話を聞いたところ、幸いにも港は生きており、商船・軍船ともに停泊中で、すぐにノルン公国に向けて出港できるとのことだった。


 造船所も近くにあって、稼働させればすぐに軍船の建造に着手できるとのことだった。


 しかし、海上にはベルナルドの手の者が網を張っていた。


 ベルナルドはナイゼル公国の海軍を使い、ノルンとバーボンの通商を破壊していた。


 大小多数の軍船に加え、海賊まで手懐けて制海権を握っているとのことだ。


 数では向こうの方が上だったので、ノアは火力に勝る船を造ることにした。


 造船関係者と水夫、そして火砲の専門家を呼び付ける。


 当然、そこにはイングリッドと新しく家来になったガラッドもいる。


「新造艦……ですかい?」


 造船所の親方は怪訝な顔をした。


「うむ。これから我々は海路よりノルン公国へと至り、イングリッドを帰国させる。そのために火砲付きゴーレムを搭載した軍船を建造するのだ」


「ゴーレムを載せた船!? そいつは無茶ですぜ領主様」


 親方は慌てて言った。


「ほう。なぜだ?」


「甲板の上に重い大砲を載せるのは無謀ですぜ。甲板はただでさえ船員が忙しく作業してるんです。ゴーレムを置くスペースなんてないし、何よりも重さで船が転覆してしまいまさぁ」


「だいたい船の上に1つや2つ大砲なんて載せても敵の船に当たりっこないぜ。広い海にぷかぷか浮かぶ相手の船にどうやって砲弾を当てるんだよ」


 ガラッドも賛同するように言った。


「それなら20門以上載せればいい」


「20門!?」


「どんだけ広い海でもたくさん砲弾を撃ち込めば、1発くらいは当たる。1発でも当たれば、敵の船にかなりのダメージを与えることができる」


「数打ちゃ当たるってわけか」


「しかし、20門だなんて。それこそ、重さと反動で船が転覆してしまいまさぁ」


「大丈夫。こんな風に船の両側にゴーレムを10門ずつ載せてバランスを取るんだ」


 ノアは船を上から眺めた見取り図の両舷に大砲のマーク黒点を打ってみせる。


「ほう」


 親方はちょっと興味をそそられた。


 顎に手を当てて見取り図を注視する。


 船の両側に重い物を置いて左右のバランスを取るというのは、船乗り達がよく使う知恵だった。


 確かにこれなら転覆する可能性は低下するかもしれない。


「しかし、甲板のスペースの問題はどうするんです? ゴーレムを20門も置けば、船の上は渋滞で作業員がまともに働けませんぜ」


「うん。だから、甲板には載せず、船の内部に大砲を入れる」


「内部に?」


「こんな風に船の内部に空間を作ってだな」


 ノアは今度は縦に切り取った断面図を描く。


 船の内部空間に階層を作って、ゴーレムを収納している図だった。


「甲板の下に空間を作って、収納スペースを作る。まあ、(たる)の内部みたいなもんだな。で、船の両側にゴーレムを配置して、バランスを取る」


 ノアは縦に割った樽に板張りを差し込み階層化した上で、板の上両端にゴーレムのミニチュアを配置してみせる。


 そして上部蓋の上にはマストを示す旗を乗せる。


「こうすれば甲板の上で作業する奴の邪魔にもならないだろ」


「な、なるほど」


「それならかなり背の高い船にする必要があるわね」


 イングリッドも話に乗ってくる。


「し、しかし、大砲を内部に入れてどうするんです? 大砲は外側の敵に向かって撃つもんでしょう? 内部に入れてるようじゃ宝の持ち腐れですぜ」


「砲門を作る」


「砲門?」


「そう。こんな風に大砲を打つ際には開けて、砲口を外に出して敵を狙えるようにする。まあ、船についた窓みたいなもんだな」


 ノアは大砲の外側をくり抜いて穴を開ける。


 そして穴からは大砲の砲身を出し入れしてみせる。


「戦闘時以外は、砲門を内側にしまって収納しておけば、雨や潮気に晒されて痛むこともないだろう。これで収納スペースの問題、火力の問題、重さで転覆する問題、すべて解決できるはずだ」


「な、なるほど」


 その他にも船体を長くして海面を速く滑りやすくし、帆に風魔法をかけられるよう材質を工夫して、船速を速めることができるようにする。


 船底に水魔法、もっというと水反射の魔法をかけられるようにして、さらに船速を上げられるようにする。


 これらの工夫をするようノアは指示を出した。


 こうして、火力と内蔵力の高い戦闘艦の建造が急ピッチで進められた。


 イングリッドは船の設計図をもとに火砲の改良に勤しむ。


 ノアはバーボン領内を歩き回って、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法の使い手や開発値、砲戦値、海戦値の高い人間をスカウトしたり、場合によっては強制的に徴集をかけたりして新造艦の開発に参加させた。


 バーボンの港からは、幾度となく砲撃音が鳴り響くと共に船が転覆する音が聞こえてきた。


 人々は新しい領主が何をやっているのだろうと訝しがるのであった。

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― 新着の感想 ―
そりゃあ、まさかアークロイがバーボン城を陥落させたのなら、その能力が屈指の堅城でも防げない軍って事になるじゃん。 いくらナイゼル公が呼びかけても、反アークロイの連合は出来ない。そして何より、ナイゼル…
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