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第68話 ゴーレム使いの素顔

 魔法院の魔導騎士達が次々とノアに忠誠を誓い、魔法院によるバーボン領併合の地ならしが進む中、縄で縛られてノアの前に引きずり出された者が1人いた。


 ゴーレム使いのガラッドである。


 ガラッドはノアの前に引き出されたにもかかわらず、ムスッと不貞腐れた態度を取っている。


 魔法院の者達はガラッドのことを忌々しげに見る。


 というのもガラッドは魔法院と旧バーボン公の政治闘争においていち早く魔法院を裏切り、領主側についた魔導騎士なのだ。


「こいつがあのゴーレムを使って、我がアークロイ軍に砲撃したという魔法兵か」


「まさしく。こやつがゴーレム使いのガラッドです」



 ガラッド

 砲戦:B→A

 統率:C→C

 武略:B→A

 野戦:B→A




(砲戦スキルに加え、武略A、野戦Aの資質か。確かに先の戦いでの高所への陣地取り、敵が密集したタイミングでのゴーレム発動はなかなか見事なものだった)


 将来、イングリッドに海軍を率いさせる。


 それはノアの中では既定事項だ。


 彼女には統率Aの資質もあるから、海上から上陸して地平戦に切り換えることも視野に入っている。


 イングリッドは野戦と武略があまり高くないが、ノルンのゴーレム技術は最先端だから、多少戦場の駆け引きで遅れを取っても砲兵を揃えればまず火力で押し切れるだろう。


 ただ、海から陸に切り替える瞬間や砲撃戦に持っていくまでの武略の面ではやや不安が残るから、武略値の高いガラッドに補佐させればちょうどいい感じになるかもしれない。


「アークロイ公、こやつはゴーレムを起動させただけではありません。魔法院を裏切り、バーボンに味方した大罪人。此度の戦争の原因の1人と言えるでしょう」


「ほう。魔法院を裏切ったのか」


(モチベーションスキルは?)



 ガラッド

 打算:A

 向上:A



(打算Aと向上A。なるほどな)


 打算は自分にとってなるべく得な選択肢にやる気を起こすスキルだ。


 利に聡く、損得勘定で動き、合理的で計算高く、金銭で折り合いが付けやすいためある意味分かりやすく扱いやすい。


 その一方で、調子がよく、機を見るに敏、場合によっては主君の鞍替えも積極的に画策するタイプである。


 注意が必要なのは野心ほど立身出世や権勢に興味がなく、強欲に比べるとコスパ重視でそこまで貪欲ではない。


 つまり、金払いさえよければまず裏切ることはないタイプなのである。


 向上はその名の通り向上心を最優先に考える性格だ。


 ただひたすら己の得意スキルを磨くことにしか興味がない。


(こいつにとっては、魔法院への義理を果たすより、バーボンの下で働く方が都合がよかったってことか。ゴーレム使いとしての腕を磨くために)


「アークロイ公、魔法院は全員一致でガラッドをあなたに引き渡す決議に賛成するつもりです」


「どうぞ煮るなり焼くなりご自由にしてください」


「そうか。自由にしていいのか。じゃあ、ガラッド。俺の部下にならないか?」


「なに?」


「「「……えっ!?」」」


「俺は今、ゴーレム部隊の創設を目指していてな。優秀なゴーレム使いを多数探してるんだ」


「……」


「俺の下につけばゴーレム使いとして雇ってやる。それだけじゃない。思う存分、ゴーレム使いとして腕を磨かせてやるぜ」


「くっくっく。面白いこと言うなアンタ。俺は曲がりなりにもバーボン公の下で働いていた人間だぜ。それが昨日の今日でアンタの話に乗るとでも?」


「乗るさ。なぜならお前には何もない。魔導騎士としての誇りも、バーボンへの忠誠も。ただあるのは、ゴーレム使いとしての腕だけだ」


「アークロイ公、この者は魔法院によって育てられながらあっさりバーボン側についた変節漢ですぞ」


「また、すぐに裏切るやもしれませんぞ」


「逆にいえば、俺以外に頼れる人間はいないってことだ」


「しかし、それでは我々の立場が」


「魔法院からは除名処分するんだろ? それは君達の望み通りにすればいい」


「では、ガラッドをどうするおつもりで?」


「こいつは俺の傭兵とする。魔法院は出禁だ。それで君達の面目も立つだろう? どうだガラッド。俺の下にくれば、金を貰いながら、好きなだけゴーレムの腕を磨けるぜ」


(……やはり、アークロイ公は分かっておらぬ。このマギア地方で魔法院がどれだけ権威ある機関かということを)


 魔法院の指導者はそう思った。


(いくらガラッドが変節漢といえども、魔法院の籍を剥奪されて傭兵の身分に貶められるなど。そう易々と受け入れるはずが……)


「面白い! 乗ったぜその話!」


 ガラッドはノリノリでノアの提案に飛び付いた。


(ええー!?)


「いやー、アークロイ公、面白いな。それになかなか話の分かる奴じゃねーか。頭の固い魔法院の奴らと違って」


「ガラッド。俺の敵をお前の砲撃で倒しまくれ。それで俺に与えた損害については不問にしてやる」


「分かったぜ親分。この不肖ガラッド、お雇いの砲兵としてアークロイ公のお役に立たせてもらう。これからよろしくな」


(軽薄な若造がぁ)


 魔法院の指導者はワナワナ震えながら心の中で呟いた。


 こうしてバーボン領の魔導師達は、ノアの独特の人事に戸惑いながらも寛大な処置を受け入れていくしかないのであった。


(流石はノア様。文化の違うマギア地方においても立ち所に騎士達の心を掴み、統治機構を掌握していく)


 オフィーリアは側からその様子を見て感服するのであった。

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― 新着の感想 ―
敵であったゴーレム使いを引き入れる寛大さ、モチベーションすらも見通す、その人物が求めている事を、引き出し、味方に加える。 魔法院からすれば、魔法院からバーボン公に寝返ったガラッドの処分を求めていたの…
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