第66話 バーボン城陥落
・魔石銃(アークロイ製)
威力:A
射程:A
取り回し:A(↑3)
耐久:C(↑1)
エルザがアークロイ製魔石銃の魔石装填を行っていると、異変に気づく。
(あ、詰まっちゃった)
こうなるといったんバラバラにしなければ修理できない。
(今回、この銃はもう使えないか。耐久はまだまだ改善の余地があるな)
「エルザ、大変じゃ」
黒竜がエルザの傍に舞い降りたかと思えば、ドロシーが話しかけてくる。
「あ、ドロシーさん。どうしたんですか?」
「今しがた上空から確認したところ、お主が破った城壁の先に魔法の罠が仕掛けられておる」
「げっ。マジですか」
「先日、お主が食らった黒魔術の規模を大きくしたような奴じゃ」
「うっ。あの魔法ですか」
エルザは見えない手によって磔にされる感覚とゾームの嫌らしい視線を思い出して身震いした。
「このままでは侵入した部隊が罠に嵌ってしまう。お主の攻城センスでどうにかならんか?」
「うーん。そうですね。魔法陣はどこに描かれているんです?」
「あの城壁と次の城壁の間にあるスペースじゃ」
エルザは目を凝らして城の構造を把握しようとする。
「魔法陣を崩せばいいんですよね。じゃあ、ゴーレムで壁面から崩せばいいんじゃないですか?」
「なるほど。早速、やってみよう」
ドロシーは急いでノアの下に飛んだ。
城壁を越えたアークロイ兵は次の城壁を越えるべく城内を侵攻していた。
「よっしゃ。俺達が一番乗りだぜ」
「油断するなよ。敵は魔法兵。何をしてくるか分からんぞ」
「へっ。今さらバーボンの奴らに何ができる。城内に侵入しちまえば、こっちのもんよ」
一番乗りの兵士達が次の城壁に梯子をかけようとした時、突然床の紋様が光り始める。
「今だ。黒魔法発動!」
そして、体が見えない手によって縛られる。
「うっ。なんだ?」
「体が、動かな」
「へっへっへ。かかったな。アークロイの猪武者供め」
城壁の上からバーボン兵が降りてくる。
床の隠し通路、壁の隠し扉から黒魔導師達が現れる。
10人もの魔導師によって発動する大規模な黒魔術だった。
床に大きな魔法陣を描くことで複数人が魔法のイメージを共有し、大規模な魔法を発動することができるのだ。
後からやってきた兵士達も次々と黒魔術の見えない手に絡め取られる。
「この魔法にかかればどんな屈強な兵士もイチコロよ」
「こ、の、や」
「おっと、銃は使うなよ。弾が勿体無いからな」
「放っておけば、やがて窒息から気を失ってくれるさ」
「ただ、このまま何も無しってのも癪だからな。死なない程度に痛めつけてやるぜ」
城兵の1人が弓に矢を番えて、アークロイ兵の1人に向ける。
(ぐっ。ちくしょう)
その時、ヒュルルルルという音が聞こえたかと思うと、城壁の一角に衝撃が走り、爆発が起こった。
床の一部も削れ、大規模に描かれていた魔法陣も維持できず、その端っこが欠ける。
魔法の光は消えて囚われていた兵士達は自由を取り戻す。
「えっ?」
「あ、あれ?」
「ふっ。形成逆転だな」
「ノコノコ城壁から降りて来やがって。覚悟しろよ」
「う、うぎゃあああ」
「ちょっ、タンマタンマ」
「すんませっ。降伏しますっ」
「どうやら上手くいったみたいだな」
遠くからエルザの攻める方面を見ていたノアは、言った。
一瞬、停滞していた城内の鬨の声と戦闘音、侵入していく兵士の流れが蘇る。
ノアの側にはゴーレムを操るイングリッドの姿があった。
何事か呪文を唱えて、ゴーレムを制御している。
「イングリッド、よくやった」
「うん。これだけでよかったの?」
「ああ。澱んでいた攻撃の流れが再び戻った。充分な戦果だ」
「そう」
イングリッドはゴーレムのコアにかざしていた手を下ろした。
ゴーレムの背中から剥き出しになっていたコアに瞬いていた魔法陣は消失する。
エルザ
統率:D+++
武略:D+++
攻城:A(↑1)
未知:A
(エルザの攻城スキルも完全に開花したな。攻城・未知スキルの補正も加えて、苦手だった統率と武略もD+++。ほぼAクラスに匹敵すると見ていいだろう)
それにしてもエルザの城の構造を把握する目の正確さはどうだろう。
(きっと空間認識能力がずば抜けて高いんだろうな)
「……」
ランバートは腕を組んで神妙に城壁の様子を眺めていた。
「どうかしたか、ランバート」
「いえ。向こうはゴーレムを城を守るのに使わないのかと思いまして」
「城壁に載せるには不向きなんじゃないか?」
「うーん。少し工夫すれば、どうにかなると思うのですが」
「ふむ。確かに。それもそうだな」
ノアは少し考えた後、ランバートに向き直る。
「ランバート。俺が思うにバーボン城は、今後、重要な拠点となる。ゴーレムの配備も視野に入れた城の改築案、お前に任せてもいいか?」
「はっ。かしこまりました」
(守城のスペシャリストにも火が付いたか。マギア地方への侵攻。予想以上の戦果が得られそうだな)
第2の城壁を越えたアークロイ軍は市街地に侵入した。
バーボン軍は市街地に人手を割いて抗戦を続けたが、その隙にエルザは一隊を率い、城壁を登ると手薄になった正門前にロープで降りて開門のレバーを引いた。
正門は開かれて、オフィーリアの指揮するアークロイ軍が雪崩れ込む。
「よし。建物は傷付けるなよ。狙いはバーボン公1人だけだ」
オフィーリアはあらかじめ精鋭だけを選りすぐって正門前に待機させていたため、大きな混乱もなく市街に侵入することができた。
ここに至って、バーボン軍はその部隊のほとんどが降伏した。
バーボン公への義理は果たした。
市街地を戦火に晒してまで抗戦するのは忍びない。
そう考えるものがほとんどだった。
バーボン公は海から船に乗って逃亡した。
イングリッドはアークロイ軍の手並みに感嘆する。
(マギア地方でも随一の堅城バーボン城をこうも簡単に。ノア・フォン・アークロイ、こいつただの武闘派じゃない)