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第65話 バーボン城の戦い

ゴーレムは固定砲台ではなく自分で歩けますが、騎兵の方がはるかに速いので、騎兵に突破されると破棄しないと鹵獲される感じです。

 バーボン軍を破ったオフィーリアは、傷病者の手当てと消耗の激しい部隊の再編に手を尽くしていた。


 いつもなら速攻で軍を進めることを優先する彼女だったが、今回ばかりは一旦進軍をやめて、自軍の回復に努める。


「オフィーリア」


「ノア様」


「軍の損害はどうなってる?」


「流石に疲れが見えますね。焦りましたよ。なんなんですかあの兵器は」


「あれは多分……」


「あー、私のゴーレムがー」


 イングリッドが鹵獲したゴーレムを見て、騒ぎ出す。


「足も砲塔もズタボロじゃないの。ガラッドの奴、使うなら使うでちゃんと手入れしなさいよ」


「なんです? あの発射台のようなもの、イングリッド様のものなのですか?」


「そうみたいだな。イングリッドが作ったゴーレムっていう兵器らしいんだけど、誰かが横流ししたそうだ」


「ふむ。ノルン公国も一枚岩ではないというわけですか。だとすればイングリッド様の帰国はいよいよ急いだ方がよさそうですね」


「とりあえず、あのゴーレムに関してはイングリッドに任せようと思うんだけど、いい?」


「ええ。それがよいでしょうね」


 三日後、アークロイ軍は出発し、バーボン城まで詰め寄った。




 バーボン城は周囲を二重の防壁で囲んだ要害堅固な城である。


 しかも、一方が湾に面しているため陸軍だけで完全に包囲するのは無理だった。


 バーボン公は主力軍が壊滅したにもかかわらず、なお抵抗する構えを崩さなかった。


 城門を固く閉じ、城壁には守備兵をつかせる。


 海上から補給を受ければアークロイ軍の攻撃を耐え凌げると思っているのかもしれない。


 オフィーリアは陸地の部分だけでも城を包囲し、攻撃準備を整える。


 堀の埋め立て、矢倉、土塁、敵の矢弾を防ぐ小屋の構築は瞬く間に終わり、更に先の戦いで鹵獲した火砲付きゴーレムも配備する。


 城壁の前には梯子隊と弓兵隊を、城門の前には火砲付きゴーレムと突撃隊を配置して、あとは攻撃開始の合図をするのみとなった。


「よし、かか……」


「待てオフィーリア」


 漆黒の翼が翻り、オフィーリアの上空から黒竜が舞い降りる。


「ドロシーか。いったい何の用だ? これから攻城戦なんだ。些細な用事なら後にしてくれ」


「あのゴーレムを下げろ。城門に向かって砲弾を放ってはならん」


「なんだと?」


「あの城門はバーボン公国の魔法学院の一部じゃ。それを破壊すれば魔法院の反発を買い、戦後の統治および外交に差し支える」


「バカなことを言うな。この城を攻略するには、あの城門を突破するのが一番早い」


「学院を破壊すれば、ノルン公国との関係にも支障が出る。イングリッド姫を公国に返すという大義名分も失われることになるぞ」


「何を訳の分からんことを」


「マギア地方ではこれが普通の感覚だ。見ろ。ノア様も反対しておる」


 ドロシーが遠く離れた後方を指し示すと、確かにノアもバツマークの身振りをしている。


「このままゴーレムを使用すれば、ノア様の意向にも背くことになるぞ。いいのかオフィーリア」


「ちっ。わかったよ」


 オフィーリアは渋々ゴーレムを後方に下げる。


(やれやれ。外交を気にしながら戦うというのも肩が凝ってしまうな)


 オフィーリアは肩をコキコキと鳴らしながら、戦闘開始の合図をする。


(ここは(から)め手のエルザに期待するしかないか)


 オフィーリアは正面突破よりも側面から侵入する作戦に切り替える。




 バーボン公は城兵達を前に演説していた。


「いいか。お前達。どうにか耐え凌ぐんだ。ここを耐え凌げば、必ずやナイゼル公の援軍が到着する。それまで耐え凌ぐんだぞ。いいな」


 兵士達は内心うんざりしていた。


(ったく、いつまで戦争続けんだよ。あんたの外交ミスのために死ぬ人間の身にもなれっつーの)


 元々、バーボン公のナイゼル寄りの外交政策は、国内においても批判されていた。


 バーボン領民および魔法院は、心情的にはノルン寄りだった。


 ナイゼル公子の金を貸す一方で通商破壊する悪どい方策には軽蔑の目を向けていたし、イングリッドにも同情的だった。


 にもかかわらずバーボン公は、魔法院の反対を押し切ってナイゼル公国に金を借りることを決定した。


 魔法院を弱体化させ、自身の正当性に欠ける権力基盤を強化するための方策なのは明らかだった。


 現実主義(リアリズム)の観点からもバーボン公の外交政策には疑問が呈されていた。


 本当にナイゼル公はいざという時、助けてくれるのか?


 ナイゼル公国は同盟国への軍事援助がしょっぱいことで有名だった。


 アークロイとナイゼルの緊張が高まる中で、バーボン公国が戦場になる可能性は極めて高い。


 そのため、ナイゼルに偏った外交政策を修正し、アークロイとも国交を結んで、バランスを取るようにと魔法院は勧告していた。


 それができないなら、せめてアークロイの動向を探るようにと。


 だが、魔法院の発言力を押さえ付けたいバーボン公はこれらの提言をことごとく無視し、むしろ声を上げた魔法院の人間を逮捕・拘束し、何かと理由をつけて投獄した。


 ナイゼル公が後ろ盾にいる以上、アークロイ如きが自分に手を出すことなどできはしまい。


 奴は僻地で威勢よく吠えるのが関の山。


 それがバーボン公の考えだった。


 ところが、実際にはアークロイ公は軍を動かし、領内に易々と侵入してバーボン軍を打ち破った。


 防衛線を突破され、ナイゼル軍が間に合わなかった時点で勝ち目はないのだから、領地削減を受け入れてでも、和平交渉に乗り出すべき。


 それが魔法院の考えだった。


 だが、バーボン公はまたしても魔法院の意向を無視し、ゴーレムを起動してアークロイ軍に余計な人的損害を与えた。


 今となっては、最低でもバーボン公の首を差し出さなければ、アークロイ公は降伏を受け入れてくれないだろう。


(まだ、ナイゼル公の援軍に期待してるのかコイツは)


 国家危急存亡の(とき)とあって、さすがの魔法院も魔導騎士を招集したが、往生際の悪いバーボン公の演説には冷ややかな目を向ける魔法兵が大多数だった。


「いいか。アークロイの田舎者どもにこのまま負けたとあれば、マギア地方の沽券にもかかわる。大陸中からマギア地方の魔法兵は腰抜けだと罵られるぞ。お前達、それでもいいのかー」


(まあ、確かにそれもそうか)


 魔法兵は気を取り直して魔石銃を構える。


(劣勢は覆しようもないが、せめてバーボンの魔石銃でどうにか一矢報いたいところだな)




 戦闘が始まった。


 オフィーリアが戦闘開始の合図を送ると、櫓と移動式の矢避け小屋が前進して、敵からの攻撃を防ぐと共に堀を埋め立てていく。


「さあて。そんじゃどいつを狙おうかな」


 城壁を守る銃兵は魔石銃を構えて兵士の1人を狙い撃とうとする。


 しかし、それよりも先に隣の兵士が撃たれる。


「えっ?」


 そうこうしているうちにその兵士も撃たれる。


 城兵達は狼狽えずにはいられなかった。


「な、なんだ?」


「いったいどこから?」


「まさか。あいつか?」


 城兵達がその射撃手を見つけた時、エルザはちょうど魔石を銃尾から込め終わっているところだった。


 その変わった魔石の装填方法に城兵達が目を奪われているうちに、エルザは再度銃を構え直す。


 バーボンの魔石銃の射程距離のはるか遠くから弾丸を放った。


「うぐっ」


「ぎゃっ」


「う、うわああ」


 自分達の魔石銃よりはるかに性能のいい銃。


 それも威力、射程、取り回しなどすべてにおいて優れている魔石銃。


 そしてそれを淡々と正確に撃ち込んでくる娘。


 それらは城兵達にパニックを引き起こすのに充分だった。


(バカな。アークロイが我々よりも優れた魔石銃を開発したというのか)


「かっ、隠れろ。とにかく城壁の内側に隠れるんだっ」


(あれ? もう終わり?)


 エルザは拍子抜けしたように魔石銃を下げる。


(まあいっか。テストは充分にできたし。ノア様にいい報告ができそう)


 その後、バーボン城兵が腰砕けになって城壁の内側に隠れたため、アークロイ軍は梯子を伝って、城壁内側への侵入に成功する。


 戦いは二つ目の城壁へと移っていった。

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

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