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第58話 イングリッドの資質

(俺の騎士? ノルン公国の領主であるイングリッドが俺の騎士になるっていうのか?)


 ノアはイングリッドを鑑定してみた。



 イングリッド・フォン・ノルン

 4元魔法:A

 開発:A



(4元魔法と開発がA!)


 4元魔法は火・水・風・土の属性を束ねたもの。


 それに加えて開発の資質もAクラス。


 4元素の魔法をユーティリティに使える才能と開発の才能が組み合わさった結果、各種魔石や魔石銃の開発に繋がったということだろう。


(なるほど。これがノルンの賢姫と呼ばれる所以か)


 ここまでは現状のイングリッドの資質。


 さらにノアは将来の姿まで見通すこともできる。


(戦略系の資質は?)



 イングリッド・フォン・ノルン

 統率:C→A

 武略:C→C

 海戦:C→A

 砲戦:C→A



(!? 統率Aに加えて、海戦と砲戦の将来値がAクラス!?)


 海戦に強いとなれば、その海上輸送能力をもってオフィーリアの指揮する陸軍に補給・支援することができ、更に遠くまで遠征することができるだろう。


 遠隔地に陸軍を送ることもできるだろう。


 経済面でも海に進出することができれば、更に貿易が促進され、多大な利益をもたらすに違いない。


 また、砲戦が得意となれば地上戦においても、陸軍に強力な支援砲撃をもたらすことができる。


 オフィーリアの神速にイングリッドの砲戦Aの火力が加われば、アークロイ軍の突破力は飛躍的に向上するだろう。


(だが、騎士? いったい何を考えているんだ?)


「いかがでしょうかアークロイ公? 私を騎士にすれば、今回の国際会議での外交的成果は十分だと思うんだけど? 何ならアークロイの筆頭騎士になってもいいわよ」


(は? 筆頭騎士?)


 オフィーリアはその言葉に反応して微かに眉を吊り上げた。


「ちょっ、ちょちょちょ待ってくれよ。ノルン公。アンタいったい何考えてんだ。領主なのにアークロイ公の騎士になるだなんて」


 マクギルがそう言うと、イングリッドはじろっと睨んだ。


「私が誰の騎士になろうと私の勝手でしょう? それともあんた達は私よりもいい条件をアークロイ公に提示できるとでも言いたいの?」


「いや、それは……」


「いいだろう。ノルン公。話を聞こう。ここに座れ」


「わーい」


 イングリッドはノアの隣に座る。


 手を伸ばせば触れられそうなほどの距離感だった。


「ま、そういうわけだ。4聖の諸君、これから俺はイングリッドと大事な話がある。君達とはまた次の機会にということで」


 マクギルは苦々しげにしつつも、引き下がるしかなかった。


「ふー。まあ、あんたがそう言うならそうすればいいさ。だが、覚えとけよアークロイ公。俺達と手を組まなかったこと必ず後悔するぜ」


「けっ。せいぜいこの会議の権威を落とさないように気をつけるんだな」


 ブリックも捨て台詞を吐き、4聖は立ち去っていく。


「ったく、態度悪い奴らだな」


「もういいじゃん。あんな奴ら。ねぇ。それよりさぁ。アークロイってー。鬼人が出るって本当なの?」


「ああ。俺の城には鬼人も住んでるぜ」


「わー。行ってみたーい」


 イングリッドは身を乗り出してノアに興味津々の態度になる。


 オフィーリアは複雑そうに2人の様子を見守るのであった。




 帰りの馬車の中で、エルザとドロシー、オフィーリアは後部座席でノアとイングリッドのことを見ながら、ヒソヒソと話していた。


 2人はノアとイングリッドが会場で親密になっているのを見て、さらにイングリッドがノアの騎士になると聞いて驚いたところである。


「ノルン公がノア様の騎士になるだなんて。そんなことできるのでしょうか」


「制度上では可能じゃな」


 ドロシーが答える。


「そもそも騎士というのは契約関係にまつわる身分のことだ。君主が土地の徴税権を与える代わりに騎士は君主の動員令に応じることになる。故に領主同士でも、騎士と君臣の関係を結ぶことができる。ノルン公がノアのために忠誠を誓い、ノアがノルン公のために見返りを与える契約を結べばそれで問題ない」


「なるほど」


「ただ、領主が他の領主の騎士になるということは、自分の領地を引き継ぐ権利を他人に譲渡するということだから、事実上領主ではなくなる。ノルン公の土地と城は名目上ノア様のものとなる」


「ノア様の領地が増えるんですか? じゃあ、これでノア様は城6つ持ちに?」


「うむ。ただ、それだけに解せぬ。なぜ、ノルン公はそこまでしてノア様の騎士になろうとするのか」


「うーん。ノア様のことが好きだからとか?」


「それよりも気になるのはアークロイとノルンが飛び地だということだ」


 オフィーリアが言った。


「そんな飛び地の領主と騎士契約など結んで守り切ることなどできるのか?」


「うむ。それに加えて、ノルンはナイゼル・ジーフと魔石関連で係争を抱えておる。そのことに言及しないのも気になるの。てっきりこれらの2国に対抗するための同盟かと思っていたが……」


「マギア地方のいざこざにノア様を巻き込むつもりなんじゃないか?」


「……まあ、ノア様もああ見えて(したた)かなお方じゃ。そうそう、不利な条件を飲まされるようなことはないとは思うが……」




「私があなたの騎士になる条件は簡単だわ」


 イングリッドは馬車の中で言った。


「私の国の税収と負債を受け取る。それだけだよ」


「税収と負債か」


(まあ、そりゃ両方セットだよな)


「その代わり、もしノアが私の力を必要とした時にはすぐに駆け付けるわ」


「そりゃ助かる。で、税収と負債ってどのくらいなの?」


「税収が9千グラ。負債が1万グラくらい。ちょっとだけ負債が嵩んでるかな。お金のやり繰りはあんまり得意じゃなくって……」


(……だろうな)



 イングリッド

 内政:D



「でもでもっ、その代わりノルン公国の強力な魔法兵団が味方につくよっ」


「ふむ。で、ノルン国軍の編成と数は?」


「全兵力で5千くらいだよ。そのうち歩兵が3千、魔法兵が2千」


「魔法兵が2千か……」


 魔法兵は火力が高い一方、育てるのに苦労すると聞く。


 ちなみにノアの領地に魔法兵はいない。


「2千も魔法兵がいるって凄いな」


「でしょ? マギア地方でも屈指の魔法兵団なんだよ。それにみんな強いし」


「海軍はないのか?」


「海軍?」


 イングリッドはキョトンとする。


「確かにマギア地方は大きな河川が多くて、海運も発達してるけど。海戦は滅多に起きないかな? うちの軍も城の防御が主目的だから陸軍しかいないし」


「そうか」


(だとしたら……伸び代だな)


 内政や財政に関する不安もそれに類する才能を当てがえばどうとでもなる。


 しかもノルン公国には、良港もあるというし、海軍力を高めて貿易を促進すれば負債分を補って余りある収益が見込めるだろう。


 ルーシーの空輸能力と組み合わせれば交易は更に促進され、アークロイもノルンも潤うことになるだろう。


 しかも、イングリッドは自身の海戦の才に気付いていない。


 となれば、海軍と海運に関しても主導権を握れる可能性は高い。


「なるほど。確かに魅力的な提案だな」


「でしょでしょ?」


「1つ不安要素があるとすれば、アークロイとノルンが飛び地であることだな」


 イングリッドは痛いところを突かれたようにギクリとする。


 アークロイとノルンの間には、いくつかの他国が介在していた。


 現状、敵対国とまでは言えないから国交や交易ができないこともないが、それでも軍隊を通すとなると難しいだろう。


「アークロイが危急の時にノルンの軍が駆け付けるのは難しいんじゃないか?」


「そ、それはそうだけど、でも、軍隊って何も実際に動かなくても役に立つじゃない。たとえば、アークロイとノルンの間の国があなたの国に攻め込もうとした時、背後にあなたの騎士がいるってだけでかなりの牽制になるし」


「ふむ。それはそうだな……」


(実際に、俺のために軍隊を動かす気はないってことか)


 というかそんな余裕もないのだろう。


 兵5千では、いかに魔法兵の比率が多くとも自国を守るので精一杯のはずだ。


 ノアはドロシーの方をチラリと見た。


(どう思う?)


(何か隠してますね)


 ノアとドロシーはサインで会話する。


(やっぱりそうか)


 ただ、何か隠しているとしてもそれを補って余りある魅力があるのも確かだった。


「よし。わかったよ。君を騎士として我が国の家臣に迎え入れることにするよ」


「ほんと? やったぁ」


「ただ、筆頭騎士っていうのはちょっと難しいかな。うちにも功績のある家臣がいるから」


「うーん。そっかぁ」


 イングリッドは少し不満そうな顔をする。


「まあ、そこは筆頭騎士以外で何か別の役職を用意するよ」


「そうね。まあ、そこはおいおい決めていきましょう」


 オフィーリアは2人の会話を聞いてホッとした。

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