第57話 新たな騎士
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前書き
ゼーテの守備兵を2千から1万に変えました。
流石に守備兵2千で10万の敵軍受け止めは盛りすぎでしたね。
圧倒的寡兵で籠城できた理由は、
・ゼーテが難攻不落の要塞であり、守備兵も歴戦の兵士だった。
・攻囲初期の段階で魔族軍側に甚大な被害が出たため兵糧攻めに切り替えた。
・魔族軍側の補給が滞っていたため、士気が低く、全面攻勢が仕掛けにくかった。
・魔族軍側は寄せ集めの混成部隊のため、統率を執るのが難しく、やはり全面攻勢を仕掛けにくかった。
といった感じです。
また、突っ込みどころなどあればご指摘ください。
すべてに対応するのは難しいですが、できる範囲で修正対応させていただきます!
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外交パーティー2日目。
今日はイングリッドと話す予定である。
「さて、昨日休んだ分、今日はたっぷり外交しないとですね」
エルザが気合を入れるように言った。
「ノア様。今日はイングリッド様とお話しされるんですよね?」
「ああ。前半は自由に。後半はノルン公国とだ」
「では、我は前半できるだけ他国の首脳と話して情報を取ってくるとするよ」
ドロシーが言った。
「あっ、じゃあ私もドロシー様についていきます。後学のために」
エルザが言った。
「そうだな。オフィーリアはどうする?」
「私はノア様の側にいさせていただきます」
「よし。そんじゃいくか」
アルベルトはルドルフと一緒に各国首脳と社交を重ねながら首を傾げていた。
というのもルドルフは本当に社交しかしていなかったからだ。
(もっと細かい調整をしなくてもいいのか?)
ルドルフは他国首脳に対してユーベルと組めばいかに得になるかを一方的に話すばかりだった。
せっかく相手がより詳細具体的な話に移っても、たとえば関税を下げる貿易品目について話題を向けようとしても、遮って自分達と交易をすれば儲かることについて話し続けるばかりだった。
これには相手方も肩をすくめるばかりだった。
ルドルフは気にせず捲し立てる。
なるべく大声で自分達の力を誇示すれば多くの国が自分の国に靡くと考えているようだった。
一方で、ドロシーの方に目を向けると、各国首脳と少し社交的な挨拶をしては、口元に手を当ててヒソヒソと何か内緒話をしている。
他の国には聞かれたくない踏み込んだ機密情報を交換しているに違いなかった。
(ルドルフももっとヒソヒソ話をした方がいいんじゃないのか?)
アルベルトはそう思いつつも外交に関してはルドルフに任せているため、首を傾げながらも口を挟まないようにした。
代わりにオフィーリアの姿を探そうとする。
(オフィーリアはどこにいるんだ?)
しかし、オフィーリアはアルベルトの視界に入らないよう巧みに自分の姿を柱や人影に隠して逃げ回っていた。
エルザはドロシーのためにお手伝いをしながら、自分がいかに世間知らずか思い知らされるばかりだった。
ドロシーに付いていったものの、外交に関することはほとんど手伝うことができなかった。
せいぜい彼女のために一時的に飲み物を預かることくらいしかやることがなかった。
彼女が各国首脳と話していることもほとんど理解できない。
だが、そんな中、エルザにもいくらか理解できたことはあった。
まず、ドロシーの情報処理能力が本当に高いということ。
他国の外交官に話しかけると最初は鬱陶しそうにされるものの、2言3言話すだけであっさり相手の興味を惹き、すぐにヒソヒソ話に持ち込んで機密情報の交換に成功するのであった。
別れる際には相手の方がもっと話したそうにしたがるほどである。
次に領主達は必ずといってよいほど隣国と係争を抱えており、いがみ合っていること。
しかも、それぞれ内政に不安を抱えているため、いつ裏切られるか、いつ外国に攻められるか戦々恐々としている。
目まぐるしく変わる情勢の中でいつ周囲から孤立するかも分からない。
各国領主はみんなそのことを悟られないようにしようと虚勢を張っているのだ。
そして最後に各国領主の中にノアの味方は1人もいないということだった。
この過酷な乱世の中でノアは1人孤立していた。
(ノア様、ただでさえ大公様に追放されて心細いのに)
エルザは改めて自分達でノアのことを支えなければと心に誓うのであった。
ノアがオフィーリアと一緒に会場の端でくつろいでいると、近づいてくる者達がいた。
「よお。どうした大将。しけたツラして」
「誰にも相手されないから、部下と雑談か?」
ノアが声の主の方を見ると、4聖だった。
(またこいつらか)
「何の用だ? また喧嘩でも売りにきたか?」
「そうツンケンすんなって」
マクギルが馴れ馴れしくノアの肩に手を置こうとする。
「触んな」
ノアは振り払った。
「あらら。嫌われちゃった?」
「とっくの昔にな」
「そりゃ残念。ただ、俺達は今回、喧嘩しにきたわけじゃない」
「俺はお前らと喧嘩する気満々だけど?」
「おー。おっかねぇ。国際会議の場で刃傷沙汰起こす気満々かよ」
「演説の時の借りをまだ返してないからな」
「それは言わない約束だぜダンナ。俺だって剣をへし折られたんだからよ。今日はあんたのためにいい提案を持ってきたんだ」
「提案?」
「あんたと同盟を結べないかと思ってな」
「ゼーテ奪還作戦で大変でしょう。我々があなたの領地を守ってさしあげますよ」
「どうやってだ? 俺の領地とお前らの領地、まるっきり飛び地だろ? 守るなんて不可能に思えるが……」
「城を一時交換するってのでどうだ? あんたの城4つと俺らの城4つ」
「俺らがあんたの城を守ってやりゃああんたの城が攻め落とされる心配はまずねぇ。一方で、俺らの城はゼーテへと至るのにちょうどいい位置にある。ゼーテの奪還に専念できるってわけだ」
(こりゃまた露骨な手できたな)
一度、城さえ預かれば、その後何かと理由をつけて返却を渋り、そのまま居座る。
その後、何らかの戦争や係争が起こった際、どさくさに紛れて領地ごと分捕る。
マクギル
剣技:A
謀略:B
統率:C
他の3人も基本的に個人スキルと謀略が高かった。
(これがこいつらのやり口か。個人的な戦闘能力のみでどうやって成り上がったのかと思っていたが。なるほどな。謀略で城を分捕って一国一城の主になったってわけか。大したチンピラどもだな)
「どうだ? あんたにとっても悪い話じゃないと思うんだが……」
「断る」
「いきなり城4つを交換は怖いか? なら、城2つでどうだ?」
「いや、数は問題じゃない。お前らと組むつもりはないって言ってんだわ」
「ありゃっ? なんで?」
マクギルは惚けたように聞いてきた。
「お前らのことは信用できない」
「こいつは手厳しいね。俺達の実力が信用できないとは……」
「アークロイ公、ユーベル大公様も助けてくれないのでしょう? 一人で領地を防衛しなければならないとなると、心細いのではありませんか?」
【弓聖】ホーカーが諭すように言ってくる。
「いや、間に合ってる」
「テメー。ふかしこいてんじゃねぇ」
たまらずブリックが割り込んできた。
「だいたいどうやってゼーテを解放する気だよテメーは。敵は10万の軍だぞ。10万!」
「簡単なことだ。敵の包囲を突破して、物資を運び込み、城を救援し、籠城を継続する。やがては魔族側の補給が保たなくなり撤退を余儀なくされるってわけだ」
「それができりゃ苦労しねーだろうが。10万の軍をどうやって突破するってんだ。いい加減なこと言ってんじゃねーぞ」
(それができるんだな。ルーシーなら。しかも単騎で)
オフィーリアは遠い目をしながら思った。
「できない……か。お前がそう思うんなら、そうなんだろうな。お前の中では、な」
(ぐっ。このイキリカスがぁぁ)
ブリックはワナワナと拳を振るわせる。
「ククク。無理しないでいいよ。アークロイ公。ご自慢の将軍も僕の魔法に手も足も出なかったじゃないか。素直に僕らと同盟を組んでおきなよ」
「あ?」
「ひっ」
ノアが凄むとゾームは腹パンの恐怖を思い出してサッとマクギルの影に隠れた。
(ど、どうしたんだゾーム。いつものねちっこさが足りねーぞ。まさか鑑定士如きにビビってんのか?)
ブリックはその巨漢強面に似合わず、繊細なところがあり、仲間が動揺していると自身も狼狽えてしまうところがあった。
「しかしだなアークロイ公。俺の見立てではあんたは失敗する。あの聖城解放作戦。ありゃ無茶だぜ」
マクギルは馴れ馴れしく声をひそめてくる。
「なぁ、アークロイ公、よく考えてみてくれ。ゼーテ解放作戦が失敗したらあんたはどうなる? ただでさえあんたは孤立してんだ。来年の会議で袋叩きにあうぜ。みんなお行儀よく振る舞ってるお偉いさん達だが、その実あいつらの本性は狼同然さ。みんな虎視眈々と相手の寝首を掻くことを狙ってんだ」
(おめーらもな)
「それにアークロイ民はどう思う? せっかく諸侯会議に参加しておきながら、おめおめ手ぶらで帰るわけにもいかねーだろ。大公の3男ルドルフ殿もああやって成果をあげてるし、あんたも何らかの成果をあげないとまずいんじゃないの?」
(俺はもう成果あげてるっつーの。お前らが気づいてないだけで)
「だが、俺達と手を組めばどうだ? 俺達なら上手くやれる。あんたの窮地を救えるってわけだ」
ノアはイライラしながらマクギルの話が終わるのを待った。
一見気さくなその態度は胡散臭く詐欺師同然だった。
「お前らこそ本当は焦ってるんじゃないの? こんな性急な領地交換案を出すなんて。本当は自分達の国も内情ボロボロなんでしょ?」
「ちょいちょいちょい。自分が焦ってるからって俺達まで焦ってることにしないでくれよ。あっ、そんな風に話を逸らすってことはやっぱ困ってるんだろ。水臭いぜ大将。そうならそうと早く言ってくれなきゃよ」
マクギルが急に早口になって誤魔化すように言った。
(この様子、図星か)
マクギル
内政:E
「そうだ。俺達の力が信用できないってんなら、まずお試しで傭兵として雇うってのでどうだ? あんたの城の守備兵として一年滞在させてくれよ。すぐに俺達の力が分かって頼りたくなるはずだぜ」
「お前らの力を信用してないわけじゃない。それにお前らがどれだけ強かろうが関係ない。敵に城を明け渡すつもりはないって言ってるんだ」
ノアは断固として言った。
「敵の口車に乗って城を明け渡すくらいなら、たとえ孤立無縁でも戦う。それがこの乱世に領主として生まれてきた者が持つべき最低限の心構えだ。よって、お前らと手を組むくらいなら、俺はオフィーリアと一緒に戦う道を選ぶ。たとえ滅びることになったとしてもだ」
(ノア様……)
「とはいえ、アークロイ公。あんたの領地を狙ってる奴らはあんたが思っている以上に多いんだぜ。みんなアークロイ軍がゼーテに出陣した途端、袋叩きにしようと狙ってるんだ。だが、俺達と組めばどうなる? 相当な牽制になるし、あんたの面目が立つように上手く取り計らうこともできる」
マクギルはここで口調をしみじみとしたものに変える。
「あんたも孤立状態はいい加減疲れただろ。ここいらで俺達と手を組んで……」
「誰が孤立してるって?」
割り込んでくる声にマクギルはギョッとする。
その声はイングリッドのものだった。
「そこをどいてくれるかしら。マクギルさん」
「ノルン公か。ちょっと後にしてくんねーかな。今、俺達はアークロイ公と大事な話が……」
「あいにくだけど私はアークロイ公と事前に約束してあるの。ね、ノア?」
「そうとも。いつ来るかと待ちくたびれたぜ」
「ごめんごめん。その分、いい話を持ってきたから」
「ちょ、ちょっと待てよ。ノルン公。まさかノアと手を組むつもりか?」
「ええ。ゼーテ解放に協力するつもりよ。なんならノルンの魔石を優先的に供給してもいいわ」
「そんなこと言っちゃっていいの?」
ゾームが割り込んでくる。
「ノルン公、君の国、ナイゼルとジーフに睨まれてるんだろ? 魔石の優先供給なんてしたら怒られるんじゃないの?」
「ナイゼルにもジーフにも余計な口は挟ませないわ。ノルンはアークロイ公のものになるんだもの」
「何?」
「アークロイ公よ」
イングリッドはノアの前に片膝をついた。
「あなたの誉高き武勇は遠くノルンにまで響き渡っております。また、今回のゼーテ解放を担うその勇気に感服いたしました。つきましては我らがノルンの領主となり、アークロイ公の庇護下にお置きください。イングリッド・フォン・ノルンはあなた様の騎士となり、忠誠を誓います」
ちょっと寒さにやられていて、隔日投稿になるかもです。
17時頃投稿は続けようと思いますので、17時頃に投稿されていなかったらその日は間に合わなかったんだなと察してくださいますと幸いです。
今後ともよろしくお願いします。