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第54話 反省会

 会議1日目の挨拶を終えたノアは、会場から廊下に出たところで4聖とすれ違った。


「あっ、おい。ちょっと待てよ」


 ノアはゾームを呼び止める。


「お前、さっき俺に魔法かけた奴だよな。なんで俺の演説邪魔すんだよ」


「……」


 ゾームは無言でノアの顔をじっと見たかと思うと、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「さあ。なんで邪魔するんだろうね」


(なんだこいつ)


「それよりもさ。君はあの女将軍の下に行った方がいいんじゃないの?」


「は?」


「向こうから喧嘩を売ってきたからさ。ちょっとお灸を据えたんだよ。今頃、壊れてなきゃいいけど」


「何!? テメェ。オフィーリアに何をした」


「おい、やめろよ。ここをどこだと思ってんだ。お? ただの喧嘩を国際問題にしてーのか、コラ」


 ノアがゾームの胸ぐらを掴むと、ブリックが間に割って入った。


「オメーもいい加減にしとけ。おい、あんたの家来達はあの扉の先にいるぜ」


 マクギルが親指で通路の先を指し示しながら言った。


「安心しな。ちょっと小競り合いしただけだ。大した怪我はねーよ。さっさと行ってやりな」





「オフィーリア、大丈夫か?」


 ノアが駆け付けると、オフィーリアとエルザが肩を貸しあって起き上がっているところだった。


「ノア様。申し訳ありません。ノア様からいただいた剣が……」


 オフィーリアは無惨に折られた剣を申し訳なさそうに捧げ持つ。


「剣なんていい。それよりもお前達は大丈夫なのか?」


「はい。危ないところをイングリッド様に助けていただきました」


「イングリッド。この人が……」


「あんたは……さっき演説を邪魔されてた奴ね。気を付けなさい。あいつは今でこそ4聖とか言われて持て囃されてるけど、学院時代は悪質な魔法使いなことで有名だったんだから」


「ゾームと知り合いなのか?」


「学院時代の腐れ縁よ。それで? あんたはいったいなんであの【黒魔導師】に絡まれてんのよ。国際会議では見ない顔だけど……」


「姫様。このお方がアークロイ公ノア様ですわ」


 ジアーナが口を挟んだ


(アークロイ公。こいつがあの僻地を統一した……)


 するとその途端、イングリッドは頬をかあっと赤らめてさっと目を逸らした。


「? どうした?」


「なっ、なんでもないっ」


 ジアーナはイングリッドに対して何かを促すような目線を送ったが、イングリッドはますます顔を赤くするだけでノアと目を合わせようとしなかった。


「ジアーナ。このあと、各国領主と懇親会があるんでしょ。さっさと行くわよ。演説できなかった分、取り戻さなきゃ」


 イングリッドはそう言うと、さっさとそこから立ち去ろうとする。


 ジアーナはため息を吐くと、ノアに一言挨拶してイングリッドの後を追いかけた。


 その後、ノアはオフィーリアとエルザに休むよう言って宿へと帰した。


 懇親会では、予定通りアークロイ北方方面の領主達と会談した。


 北方方面の領主達はオフィーリアがいないことを訝しがったが、ドロシーが取りなしてくれたことでどうにか切り抜けることができた。


 交渉もスムーズに終わった。


 ドロシーがお膳立てしてくれていたので、事前の打ち合わせ通り、確認事項を了承するだけで済むことだった。


 アークロイ公と北方領主は互いに裏切りや謀反、反乱の情報について今後も互いに提供しあう。


 ユーベル大公領とは距離を取り、同盟や条約を結ばない。


 ルドルフからの申し出はやんわりと断る。


 ルドルフと繋がりの深い騎士や地主は何かと理由をつけて閑職に追いやったり、冷遇したりする。


 ユーベル大公領からの圧力に対抗するための経済的・軍事的な協力を強化する。


「これで問題ないかの?」


「「「「「はい!」」」」」


 ドロシーの問いかけに対して、北方領主達は声を揃えて頷いた。


 彼らがドロシーの言いなりになるのも仕方のないことだった。


 何せルドルフは彼らに友好条約を結ぶよう促す一方で、裏切ろうとしている騎士達とも密通して、コソコソ付き合いを深めていた。


 そして、それらの情報はドロシーのインコによって盗聴され、各領主達の下にそのまま届けられていたのだから。


 北方領主達がルドルフとドロシーのどちらを信用するかは決まりきっていた。


 その日はそれ以上、特に何事もなく終わった。


 幸いルドルフを始めとした大公領の面々と会うこともなかった。


 彼らはノアや北方隣国よりも他の大公との付き合いを重視して、1日目はそれらの国々との外交に臨んだのである。


 4聖の連中も流石に絡んでくることはなかった。


 イングリッドだけはパーティーの最中、何度かすれ違って、その度チラチラとノアの方に視線を寄越したかと思うと、やはり頬を赤面させて顔を背けるのであった。




 ノアが懇親会を終えて宿に戻ると、オフィーリアとエルザがしょんぼりしながら反省のポーズで出迎えた。


 2人とも床に正座して、申し訳なさそうに項垂(うなだ)れている。


 ノアは苦笑しながら2人に声をかける。


「どうした。そんなにしょげた顔をして。まだ立ち直れてないのか?」


「ご主人様。この度は申し訳ありませんでした」


 オフィーリアが率先して謝罪の弁を述べる。


「ご主人様の許可なく勝手に4聖に喧嘩を売ったあげく、手も足も出ず返り討ちにあってしまい……」


「私も……オフィーリア様を救出できず、そればかりか敵の奸計に乗ってしまい……」


「その後のパーティーまで休んでしまって。せっかくのご主人様にとって初めての国際舞台だというのにご迷惑ばかりかけてしまって」


「もういいさ。お前達が無事だったらそれで」


「ご主人様。どうか私共に処罰を……」


「今回の失態は必ず別の場所で取り戻します。なので、どうか軍籍剥奪だけは……」


「俺がお前達に期待しているのは、道端の喧嘩に勝つことじゃない。オフィーリアには一軍の将として戦場で指揮を執ること。エルザには武器を開発し、攻城戦で活躍すること。それだけだ。なので、今回は不問とする。確かに許可なく勝手に喧嘩を仕掛けたのはいただけないが、俺のお前達に対する期待が失われたわけじゃない。今後も働いてもらうぞ」


「うう。ご主人様」


「ありがとうございます、ご主人様」


 2人はノアの膝に縋り付いて頬擦りする。


 ノアは2人の頭を優しく撫でる。


「この借りは必ずや戦場で返すぞ」


「はい。必ずや」


「もう、ご主人様の意に沿わない行動は決して行いません」


 その晩、2人はノアにたっぷり励まし、慰めてもらうことで敗北の痛みを癒し、どうにか慚愧の念を翌日に持ち越さずに済むのであった。

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― 新着の感想 ―
この四聖、ロクな死に方しないな。ここまで酷いと、逆に噛ませ犬感がする。
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