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第53話 魔法使いとの戦い

「なぁ。さっきのは流石にやり過ぎたんじゃねぇか?」


【剣聖】マクギルが腕を頭の上で組みながら言った。


「仮にも諸侯会議。お偉方の集まる公式の場だぜ?」


「構うことないさ。あんなうつけの演説、どうせ大した内容じゃないに決まって……」


「おっと、ほら見ろ。早速、クレームが来たみたいだぜ」


【剣聖】マクギルが【黒魔導師】ゾームの前方を腕で遮った。


 廊下の先には目の据わったオフィーリアが待ち構えていた。


 全身から静かな闘気を(みなぎ)らせている。


「貴様ら。我が主の演説を妨害したな」


「さぁ。なんのことかな?」


【黒魔導師】ゾームは悪びれる様子もなくオフィーリアの隣を通り過ぎようとする。


 オフィーリアは剣に手をかけて目にも止まらぬ速さで抜いた。


 ゾームに平打ちを食らわせようとする。


 しかし、ゾームの顔面を打擲(ちょうちゃく)する寸前で別の刀に割り込まれて弾かれる。


 オフィーリアの剣は粉々に砕けた。


(何っ!?)


「ふー。危ないじゃないか。お嬢さん」


【剣聖】マクギルが残心しながら言った。


(私の……ノア様にもらった私の剣が……)


「いくらなんでも廊下で剣を抜くとは穏やかじゃないね」


「おうおう。なんだテメェいきなり」


【鉄壁】のブリックがガンつかせながらオフィーリアに迫る。


「俺ら4聖に喧嘩売るつもりかコラ? お?」


「まさかマクギルに剣技で挑む輩が現れるとはね」


【弓聖】ホーカーもオフィーリアの囲みに加わる。


「身の程知らずにもほどがありますよ、あなた」


「まあ、待てよ。お前ら、その嬢ちゃんは多分アークロイ公の……」


 そう言いかけたところでマクギルの剣もバキッと真っ二つに折れる。


「うおっ?」


(驚いた。まさか俺と同等レベルの剣の使い手がいるとは)


(ノア様からもらった剣が……)


 オフィーリアがしょんぼりしながら立ち去ろうとすると……。


「待ちなよ」


 足下に魔法陣が光って、オフィーリアは身動きが取れなくなる。


【黒魔導師】ゾームの魔法だった。


「ぐっ」


「先に喧嘩を売っておいて、そのまま逃げようっての? そりゃないでしょ」


(なんだ? これは……魔法? いつの間に。動けない。まるで見えない鎖に縛りつけられるかのように……)


「くくく。動けないだろう? どうだい? オークさえも縛りつけて圧殺した僕の緊縛魔法の威力は」


 オフィーリアは何か喋ろうとしたが、口元にも何かが覆い被さって上手く声が出せない。


「おっと、魔法は唱えさせないよ。せっかく手足を縛っても、魔法で反撃されちゃ元も子もないからね」


 ゾームは手をかざしてオフィーリアの口元をより一層締め付けた。


 オフィーリアは息もできないほど苦しくなる。


 ゾームはニヤニヤとサディスティックな笑みを浮かべる。


「さて、女将軍様のその柔肌、どんなものか見せてもらおうかな」


 見えない手がオフィーリアの服の襟元を掴み、前をはだけようとする。


 深い胸の谷間が垣間見える。


 その時、ゾームの耳元を矢が掠めた。


「そこまでにしてください」


 エルザが次の矢を(つがえ)ながら言った。


「次は当てます」


 それに反応するのは【鉄壁】ブリック。


「あ゛あ゛!? なんだコラ。オウ? やれるもんなら、射ってみろや。お?」


「やめとけブリック。こいつは本当に射つぞ」


 マクギルが釘を刺すと、ブリックはたじろぐ。


「うおっ。そうなのか?」


(オフィーリア様に危害を加える者は何人たりとも射つ。たとえそれが諸侯会議に出席するような重鎮だとしても)


「ちっ。序列もわからない田舎者が」


 ゾームはいいところを邪魔されて舌打ちする。


「わかったよ。僕もこんなところで殺されたくはないしね」


 ゾームがオフィーリアから離れて魔法を解除しようとするそぶりを見せた。


 エルザも殺気を鎮めて弓矢を下ろす。


「なんてね」


 エルザの足下にも魔法陣が瞬く。


「えっ?」


 今度はエルザが動きを縛られる。


 オフィーリアの足下にも魔法陣が再び瞬いた。


(うそ。この距離で魔法を2つも!?)


 磔にされたように両腕を広げた状態で固定され、膝をつかされる。


 弓がカランと乾いた音を立てて地面に落ちた。


「おや? パッと見ではわからなかったけど、君もどうしてなかなかいい体つきじゃないか」


 エルザは見えない手によって顎をぐいっと引き上げられる。


「うぐっ」


「おい、やりすぎだぞ」


「その辺にしとけ」


「いいじゃないか。どうせ僻地のうつけの家来。来年の今頃には消えてるだろうし、ちょっとくらい壊したって……」


「やめろって言ってんでしょ」


 魔法陣に魔石が放り込まれたかと思うと、パリンと花瓶の割れるような音がした。


 ゾームの魔法陣が割れてバラバラになる。


 オフィーリアとエルザは解放されて、体が自由になるとともに床に手をつく。


「うっ、ゲホッゲホッ」


 ずっと口を塞がれていたオフィーリアは咳き込んだ。


 ゾームは憎悪をたぎらせながら声の方に向き直る。


「誰だ。僕の魔法を破ったのは……。うっ、お前は……イングリッド!?」


「ここをどこだと思ってんのよ。喧嘩なら外でしなさい」


 オフィーリアは喉を押さえながら、イングリッドの方を見た。


 銀髪碧眼の娘が腕を組みながら壁にもたれかかり、こちらをジトッとした目で睨んでいる。


(この方がイングリッド。魔法都市ノルンの公姫)


 なるほど。


 ジアーナが言っていた通り美しい姫だった。


 産毛(うぶげ)が生えてそうなほど瑞々しい肌、妖精を思わせるような小顔と儚い銀髪。


 他者を寄せ付けないツンと澄ましたような態度は高貴さを漂わせる。


 その一方で短くアレンジされた魔道衣のマント、ショートパンツとブーツは都会的な印象を与える。


「喧嘩を売ってきたのは向こうの方だよ。僕達はいわば被害者さ」


「演説を邪魔したのも、被害者だからって言いたいわけ?」


「……」


「あんたが魔法で無茶苦茶やるせいで私達マギア地方の領主まで出禁になったらどうするつもりよ。あんまり身勝手なことされちゃ困るんだけど。魔導師への偏見がなくなったのなんて昨日の今日の話だし。もし、まだ続けるって言うんなら……」


「わかった。わかったよ。もうやらないから。あんまり怒らないでよ。ちょっとした冗談じゃないか。田舎者をからかっただけだよ」


 それまで不遜な態度を取っていたゾームが、宥めるような態度を取る。


 他の3人からも先ほどまでのどこか余裕を漂わせるような態度が失われていた。


 彼らの態度がいかに彼女が魔導師として優秀かを物語っていた。


「おい、もう行こうぜ」


 マクギルが言うと、他の3人もバツが悪そうな顔をしながらその場を後にした。


「大丈夫ですか?」


 ひょこっと現れたジアーナがオフィーリアに駆け寄って手を取る。


「ええ。助かりました。かたじけない」


「あいつと喧嘩する時は足下に気を付けなさい。魔法陣をこっそり忍び寄らせるのだけはうまいんだから」


(これが魔法使いの戦い方。まったく歯が立たなかった)


 オフィーリアは苦い敗北感に打ちひしがれていた。


(甘かった。ここは大陸各地から強者(つわもの)が集まってくる諸侯会議の場。簡単に勝てる相手ではないと分かっていたはずなのに。なのに私は……。ご主人様っ……)

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― 新着の感想 ―
この黒魔術師ゲスすぎて気分悪い。てか、オフィーリアもエルザも甘すぎ。こんな奴らに負けるとか。演説を台無しにされて怒るのはわかるがその報復行為しようとして返り討ちにあうとか。もう最悪やな。ノアもうつけと…
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