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第52話 黒魔導師の呪い

 オフィーリアはルンルン気分で会場を横切っていた。


(ようやくみんなノア様の凄さに気づき始めたか)


 混迷の時代になって以来、1年で城5つ以上手に入れた領主はこれまで1人たりとも現れていない。


 対抗馬の4聖も城4つだというし、今回の諸侯会議はノアが注目の的となるだろう。


 オフィーリアはずっと推していた有名人がメジャーデビューするのを見届けるファンのような気分だった。


 そうして浮かれていたオフィーリアだったが、騒めきと共に会場の注意がまた別の対象に移るのを感じた。


 入り口付近を見ると、ちょうどユーベル大公フリードが子供達と家来を引き連れて入場するところだった。


「ユーベル大公だぜ」


「ああ。長男のアルベルトも弟のノアに負けてない。城5つ持ちとなれば中堅領主に匹敵する」


「あの歳で大したもんだ」


「【聖騎士】のギフト持ちだからな」


「こうなってくるとやはり大公は油断ならない人物だな」


「ああ。アークロイ公を僻地にやったのも当初はドラ息子を勘当したとの見方が強かったが。もし、これを見越しての深慮遠謀だとすれば」


「恐ろしい爺さんだぜ」


「ノアをアークロイに派遣する一方、アルベルトにはアングリンの砦を手堅く(おと)させる」


「ん? アングリンの砦は陥ちてないんじゃなかったっけ?」


「あれ? そうだっけ? でも、アルベルトは砦攻めの功績で城5つになったんじゃ?」


「そうなると砦が陥落してないとおかしくない?」


「はて?」


(ただ親の財産引き継いだだけだろうが、あの七光は!)


 オフィーリアは心の中で突っ込んだ。


 オフィーリアとしては「実力で城を勝ち取ったノア様と一緒にするな!」と言いたい気分だった。


「兄貴も注目の新人扱いか」


 ノアは苦笑いしながら言った。


「いいんですか。あれ。何にも功績をあげてないのに城5つ持ちとか。よく顰蹙を買いませんね」


「兄貴は戦場では無能だけど、人望はあるからな」


「一番タチ悪いやつじゃないですかそれ」


「おい、貴様!」


 ノアはやたらゴテゴテした衣服のおっさんに怒鳴りつけられる。


 その顔つきには明白に非難と怒り、相手を下に見る態度が現れている。


「なぜ、城5つ持ち程度の者が、そんな高い席に座っておる。そこは城10以上の者だけが座れる席であるぞ」


「えっ? ああ、すみません」


 ノアは大人しく席を譲る。


 オフィーリア達も慌てて席を立った。


「まったくこれだから田舎者は」


 男はブツブツ言いながら、配下の者達を自分の周囲に侍らせる。


 エルザはすっかり申し訳なさそうにしてオロオロしてしまう。


「怖かったですねー。あのおじさん」


「ああ。何もあんなに怒らなくってもいいのにな」


「我々はまだこの諸侯会議においては新米ですからね。まあ、ここは郷に入らば郷に従えでいきましょう」


 ドロシーは下級貴族向けの椅子が設置されている場所を見つけた。


 この会場の構造は単純で演台を中心に半円形に座席が広がっていて、奥に行くほど段差が高くなっている。


 基本的に高位貴族であるほど高い場所に座席が用意されている。


 ノア達はかなり下の方に座った。


 ユーベル大公およびアルベルト達は高い場所へと座る。


 4聖も大公クラスの高い位置を占めて、ノア達を見下ろしていた。


「なんだあいつ。ユーベル大公の息子なのにあんな下の方に陣取ってんのか?」


【鉄壁】のブリックはせせら笑うように言った。


「あんまり仲良くないのかね?」


「まあ、そう言ってやるな。下級貴族と何か大切な交渉があるのかもしれんぞ」


「大公と仲が悪いなら、遠慮する必要もねぇ。ゾーム、ちょっとからかってやれよ」


「了解」


 ゾームはノアの後ろ姿に向かって何事か呪文を唱え始める。




 それぞれの諸侯・領主が順番に演説をしていった。


 演説の内容はおおむね魔族による侵攻を危惧する、人類の領土を防衛するべき、聖教会の教えを守るために尽くすべき、魔族から領土を奪還するために人類は協働するべきといった通り一遍の内容だったが、受けられる拍手や賛意にはかなりの差があった。


 上位貴族の方が沢山の拍手と称賛を得ることができ、そこには勢力の強さが反映されていた。


 同時に誰が拍手しているかどうかで諸侯・領主同士の仲の良さや対立関係を見て取ることができ、(したた)かな領主達は諸侯らの微妙な反応からそれを読み取ろうとしていた。


 諸侯・領主達の駆け引きと面子争いはすでに始まっているのである。


 そうして、諸侯の演説が終わり、大公クラスの演説が順に始まるに当たり、ルドルフが壇上に立つ番になった。


(!? ルドルフがユーベル大公領を代表して演説するのか?)


 ノアは少し驚いた。


 アルベルトやイアンを差し置いてルドルフが壇上に立つとなれば、いよいよ大公はルドルフの外交政策に賭けているということであり、また、ルドルフの権勢が大公領内でそれだけ高くなっているということの表れでもある。


 ルドルフは簡単な挨拶をした後、自身の方針について話し始めた。


「えー。我々ユーベル大公国は今後、戦争によってではなく、外交によって勢力を広げることを進めていきたいと思っています。そのために諸外国との経済協力が重要だと考えております。差し当たっては関税をゼロにするということを表明いたします」


 会場が騒めいた。


「関税をゼロだと!?」


「どういうことだ?」


「流石、ユーベル大公のご子息。奇抜なことを思いつくな」


「うむ。やることが読めぬ」


 会場の人間が興味津々で聞いているのを見て、大公フリードもしたり顔となる。


(ノア様の施策のパクリじゃねーか)


 オフィーリアはワナワナと拳を震わせながらどうにか自分を抑えていた。


 ともあれ、この後の懇親会においては、ルドルフは諸外国の注目の的となり、質問責めにあい、外交的成果を掴むことは間違いないだろう。


 そうしてルドルフの演説が成功裡に終わり、その後も大公クラスが順々に演説を終えると、いよいよノアの番になる。


(やっとノア様の番だ)


 オフィーリアは瞳をときめかせながら演台を見つめた。


 国際会議での晴れ舞台。


 会場の関心も高かった。


「来るぞ。アークロイの領主だ」


「ああ。城5つに急成長した領主がどんな演説をするのか」


「お手並み拝見だな」


 ノアは1つ深呼吸を入れてから原稿に目を通し、演説を始める。


「☆¥$€%#○」


「!?」


「ぷっ」


 その意味不明な喋り方に会場は笑いに包まれた。


「ワハハハハ。なんだあれは」


「あれがアークロイ領のうつけか」


「なるほど。あんな演説をされては僻地の益荒男(ますらお)共もひとたまりもないわい」


「なんか今、魔法の光が見えなかったか?」


(なんだ? 思ったことと別のことが声になって出てくる?)


 ノアは喉を押さえながら、会場の聴衆席を見回した。


 すると4聖の座っている席から魔法の光が放たれているのを見つける。


(あれは。【黒魔導師】ゾーム? 俺に呪いをかけてるのか?)


 ノアに見つかった4聖の面々はそそくさと席を立って会場を後にする。




「失礼」


 オフィーリアはそう言いながら席を立った。


 エルザはオフィーリアの目を見てドギマギする。


(うわぁ。完全にキレてる)


 オフィーリアは4聖の出ていった扉に向かって足を運んだ。

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