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第48話 翻訳スキル

 あれはルーシーの育成が軌道に乗り、ノアの財布が潤沢になった頃のこと。


 ルドルフからノアの下にとある話が持ちかけられていた。


「引き取って欲しい娘がいる?」


「そ。お前んとこオフィーリアとルーシーしかいないし。余裕あるだろ?」


 ルドルフはそう言った。


「引き取ってくれよ」


 ルドルフはいかにも軽薄な笑みを浮かべながら言った。


「そう簡単に言うけどさ。俺だって忙しいんだぜ。そう、ポンポン人を雇えねーよ」


「あ、そういうこと言う? 言っとくけどさ、俺が彼女を持て余してんのは、お前のせいでもあるんだぜノア」


「俺のせい?」


「お前が魔女なんて覚醒させるからさ、『俺もやるべきだ』なんて部下達が(そそのか)してきたんだぜ。それで俺もしぶしぶ魔力持ちの娘の育成に着手せざるをえなかったってわけ」


(それ1ミリも悪くねーじゃん俺)


 ノアは内心で突っ込んだ。


 しかも、ルドルフの言い分には欺瞞がある。


 実際のところ、ノアがルーシーで金儲けするのを見て、ルドルフもやるべきだ、と思い付いたのは部下ではなくルドルフ自身である。


 それを外聞を恐れて部下に言わせる形にすることで批判をかわした、というのが事の真相だ。


(ったく、つまんねー立ち回りしやがって)


 そうして始めたはいいものの、すぐに上手くいかなくなって、現在、プロジェクトを畳むべくノアに押し付けようというわけだった。


 始めるのは早いが、放り投げるのも早い人間なのである。


 とはいえ、ルドルフの頼みを無下にするのもまずかった。


 この頃にはすでにイアンとの仲が若干険悪になっていたし、家中でのノアの立場は悪くなる一方だった。


 ルドルフは都合のいい時だけ擦り寄ってきて、自分が批判されそうになったらノアに押し付けてくる軽薄な人間であることは分かっていたが、イアンや大公からの目が厳しくなっている今日この頃、ルドルフとの繋がりを失うわけにはいかなかった。


 いずれはこの家を出ていく。


 だが、今じゃない。


「で、その子ってどんな子なの?」


「それが使えねー奴でよぉ」


 ルドルフはそのメイドがいかに使えない娘かを延々力説した。


 これから引き渡す娘をここまで悪く言うとは。


 断られることを考えていないのだろうか?


(そういうところが詰めが甘いってんだよ)


「ま、そういうわけで頼むわ。お前、こういう使えない奴のために仕事見つけるの得意だろ?」


(都合がいいときだけ相手を認めるのもこいつらしいな)


 ノアはルドルフに連れられてその娘が掃除しているという部屋まで足を運んだ。


「ここだ。入るぞドロシー」


 ノアとルドルフが入ると、その娘は咄嗟に手に持っていた絵本をさっと隠す。


「!?」



 ドロシー

 外交:F→A

 翻訳:F→S

 演技:C→A

 謀略:E→A



(!? 外交、翻訳、演技、謀略がそれぞれAクラスのポテンシャル。外交のエキスパート! こいつ使えない奴どころかすげぇ掘り出しものじゃねぇか)




「おい、またサボってたのか?」


「ひっ」


 ドロシーはビクビクしながらも必死で絵本を守ろうとする。


「な? この調子なんだよ。どうにかお前んところで引き取ってくれねぇ?」


「ああ。そうだな」


 ノアは思わぬ拾い物に興奮しているのをルドルフにどうにか悟られないようにしながら返事した。


「ちょっと難しそうだけど、やってみるよ」



「何の本読んでるの?」


「メルヘン王子です」


「メルヘン王子?」


「イチゴ星からやってきてメイドの女の子を攫っていくんです。窓の外からお空を見上げていると流れ星を落として私に合図してくれるんです」


(なるほど。これはなかなか痛々しい子だな)


 ノアは改めてドロシーを鑑定してみる。



 ドロシー

 演技:C→A



(この娘のモチベーションスキルは演技。彼女にとっては他人に偽りの自分を見せることそのものが、やる気に繋がるんだ。今はそれを持て余している状態。だが、少し方向性を示してあげれば……)


「本好きなのか?」


「はい」


「じゃあ、新しいのを買ってやろうか?」


「本当ですか?」


 ドロシーは目をキラキラさせながら食いついてきた。


「ああ。その代わり……」




 一時間後、ドロシーは家畜小屋にいた。


(はぁ。どうして私だけ家畜小屋なの。窓の外からお星様を監視しなきゃいけないのに。これじゃますますイチゴ星の王子から遠ざかっちゃうよ)


 ドロシーはゴシゴシとブラシで牛の体を磨く。


「そこじゃねーよ。バカ」


「えっ?」


 ドロシーは思わず辺りをキョロキョロ見回す。


 しかし、家畜小屋には自分以外誰もいない。


(気のせいかな?)


 ドロシーは気を取り直して牛の体をゴシゴシする。


「そこじゃねーって言ってんだろ。気の利かねー女だな」


「ふえっ!?」


「脇だよ脇。脇を磨けっつってんの」


 ドロシーは牛の脇腹を磨く。


「ああー。そこそこ。そこがいいんだよ。ようやく痒みが取れるわ」


 牛は気持ちよさそうに鼻息を鳴らす。


(しゃ、しゃ、しゃ、しゃ、喋ったぁぁぁ。う、牛が喋ったぁぁぁぁ。牛って人語を話すの?)


 こうしてドロシーは厨二病に目覚めた。



 ドロシー

 翻訳:E(↑1)

 演技:B(↑1)

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