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第45話 魔石銃

「昼食にお招きいただきありがとうございます。ノルン公の騎士であり、秘書を務めているジアーナ・オークスと申します。以後、お見知り置きを」


 その女性はクイっと眼鏡を直しながら優雅な笑みを浮かべた。


 都会的なスーツ風の衣服に洗練された仕草、学位を取った人間特有のインテリ感を漂わせている。


 どことなくイアンを思わせる。


 優秀で細やかなところまで配慮が行き届いていそうな気がした。


 何より彼女は魔法の研究が盛んなマギア文化圏の国から来た者だ。


 ノアはこれまで自分の下を訪れた使者とは明らかに毛色の違う彼女に興味を抱いた。


「どうぞ。ごゆっくり。マギア文化圏のあなたにアークロイの食事が口に合うかどうかわかりませんが」


「アークロイ公と共にする食事であればどんなものでも美味しくいただけますわ」


 実際に彼女は美味しそうにテーブルの食事を平らげる。


 見かけによらず健啖家のようだ。


 おっさんに好かれそうだな、とノアはなんとなく思った。


「マギア文化圏では、学問を重視する気風だそうですね」


「ええ。マギア文化圏では、魔法学院を卒業すると魔導騎士の位が授けられ、名目上は騎士と同じ身分を与えられます」


「名目上?」


「ええ。建前上、騎士と同じ身分ですが、やはり本物の騎士とは違います。騎士にとって最も大切な要素、土地が我々魔導騎士にはありません。というのもマギア地方には痩せた土地が多く、君主にはあまり家来に与えることのできる土地がないのです。そこで学院卒業者に学位と騎士階級を与えることで家来とする。まあ、苦肉の策というわけですわ。かくいう私も一応学位持ちですので、騎士階級相応となりますが、やはり封土は持っておりません。たくさん領地をお持ちのアークロイ騎士の方々が羨ましいですわ」


「あまり土地がないのなら、マギア地方の国々はいったい何を経済主体にしているんです?」


「ふふ。よくぞ聞いてくださいました。我々は魔道具を売ることで交易によって利益を上げているのです」


「魔道具?」


「お見せしましょう」


 ジアーナはスーツケースの鞄を開けて、長細い鉄の筒のようなものを取り出した。


(なんだろう、あれ。(いしゆみ)かな?)


 エルザは好奇心を掻き立てられる。


 ジアーナはヒールを脱いで裸足になると、窓の外に向かって鉄筒を構える。


 しかし、矢は込めずに魔石を2つ入れるだけだった。


(あれ? 矢は入れないのかな?)


 そうして、構えているうちに銃口が光り輝いたかと思うと、火の弾が撃ち出されて、雉を落とす。


「!?」


「おおっ」


「なんだあれは?」


「あんなに遠くの雉を」


「火が飛び出たように見えたぞ」


「あれが魔法か?」


 昼食の席にいた者達は一斉に騒めく。


 ジアーナはヒールを履き直して、眼鏡をクイっと直すと、席に座り直す。


「と、まあ、こんな感じです。いかがですかアークロイ公。これが我が国の誇る魔道具、魔石銃ですわ」


「いや。凄いじゃないか」


「見ての通り私は火魔法の扱いにはそれほど長けてはいませんが、この魔道具を使うと私のような腕の低い者でも遠くにいる獲物に高い火力で攻撃できる、というわけです」


「魔石を2個入れたように見えたが?」


「おっしゃる通り。1つは火属性の魔石、もう1つは触媒の魔石。通常、魔道具は使用者の魔力を触媒にして発動させるものですが、触媒の魔石と一緒に入れれば、魔力を持たない人間でも魔道具を使うことができるのです。少々、手間はかかりますが」


「ほう。魔力を持たない人間でも使えるのか。なるほど。わかったぞ。つまり君達ノルン公国はこういう風に魔導師にしか作れない魔道具を開発して、魔導師のいない他国に売ることでお金を稼いでいるというわけだね」


「まさしく、その通りです。よければお近づきの印にこの魔石銃をお譲り致しますわ」


「えっ? いいの?」


「はい。我が主から心ばかりの贈り物です」


「おおー。ありがとう。そろそろ魔道具が欲しいと思ってたところなんだよ」


(ふふ。やはりノア様は奇を(てら)う性格で、新しいもの好き。リサーチ通りですわ)


 ジアーナは眼鏡の奥をキラリと光らせる。


 ノアは魔石銃を鑑定してみた。



 魔石銃

 威力:A

 射程:A

 取り回し:D

 耐久:D



(ふーん。取り回しD、耐久Dか)


「ふむ。確かにこれは凄い」


「姫様からの贈り物がアークロイ公のお気に召したようで何よりですわ。実はこの魔石銃、姫が開発されたものなんですよ」


「えっ? 姫!? ノルン公国の領主は姫なのか?」


「ええ。我が主、イングリッド・フォン・ノルンは少女の(たお)やかさと貴婦人の高貴さを併せ持つマギア地方でも指折りの美人として評判の方ですわ」


「ほう。美人なのか」


「ええ。それはもう。それでいて学院も首席で卒業し、魔導開発局の局長も務められておられる才媛です」


「へえ。それは是非とも一度お会いしてみたいね」


(ふふふ。やはりノア様は才色兼備の女性がお好きなようですね。これもリサーチ通り)


 ジアーナはまたも眼鏡の奥をキラリと光らせる。


「いかがでしょう。よければ今年の諸侯会議への参加にこのまま私も同行させていただけませんか?」


「諸侯会議に?」


「ええ。各国の領主が集まる年に一度の大会議。この大陸の重大事項を決めると共に、普段会うことのない遠方住みの領主同士で交流し、外交を展開する場。アークロイ公も参加されるのでしょう? 無論、我が主も参加される予定です。もし、アークロイ公の方でよろしければ、そこで我が国との通商条約締結に至れればと存じます。私が同行すれば、姫様とアークロイ公を手引きするのも早いかと存じますし」


「おおー。是非とも頼むよ。君、彼女のために宿泊用の部屋を用意してあげて」


「かしこまりました」


 ノアの隣にいた秘書はすぐに手配する。


(な、なんかグイグイ来る奴だな)


 オフィーリアはジアーナのことをちょっと胡散臭く感じるのであった。


 ノアはエルザに魔石銃を与えて取り回しを改善するように命じた。


 エルザは未知の武器に目を輝かせながら、早速、魔石銃の改良に取り組む。

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