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第42話 大公領の動揺

「城5つ……だと?」


 騎士ヴァーノンのもたらした知らせに、大公領の宮廷はただただ愕然とするばかりだった。


(((((城5つ!! アルベルトは城2つ!)))))


 宮廷はシーンと静まり返る。


 大公フリードが席を外しているのが不幸中の幸いだった。


 ただでさえ最近機嫌の悪い大公がこの知らせを聞けば、宮廷は雷のような怒号に包まれていたに違いなかった。


「これはこれは。アルベルト殿下、弟君に随分差を開けられましたねぇ」


 リベリオ卿が嫌味ったらしく言った。


「くっ」


 流石にこれにはアルベルトも嫉妬の色を隠しきれなかった。


「バカな。こんなことが……。何かの間違いでは? こんな、こんなスピードで領地を拡大できるなど……。内政が持つはずがないっ」


 イアンは自身に言い聞かせるが、(はた)から見れば動揺しているようにしか見えなかった。


 たまらず、周囲の者が気休めを言い始める。


「皆さん、慌てすぎでは? 城を5つと言っても僻地でのことでしょう?」


「いや、しかし、このスピードは侮れんぞ。僻地といえども堅城やボルダ戦役で活躍した名将、豪傑が多々いるし」


「どういうことだ、イアン。ノアの拡大スピードでは、内政は持たないはずじゃなかったのか? オフィーリアがこちらに(なび)く様子も一向にないし」


「これはもう、アークロイ公の実力を認めて然るべきではありませんかな。アルベルト殿下」


「そうですな。城5つともなれば、リベリオ卿にも並ぶ勢力ですしな。あっ……」


 うっかり口を滑らせた家臣は、リベリオ卿にジロリと睨まれて、慌てて口を(つぐ)む。


 リベリオ卿は不機嫌そうに席を立つ。


「今日は帰らせてもらうよ。大公様もおいでにならないようだしね」


 リベリオ卿が出口へ向かうと派閥の者達が慌てて後を追っていく。


(あのうつけが私と同格だと? ふん。バカバカしい)




「ノアが城5つ持ち。それも城を新たに3つ陥として」


 アルベルト、イアン、ルドルフの三兄弟はごく近しい重臣だけを側に置いて話し合っていた。


 アルベルトとイアンは沈鬱な面持ちで、机に向かう。


「こんなことが父上の耳に入ったらどうなる」


 アルベルトは片手で顔を覆いながら言った。


「また、機嫌が悪くなって我々に当たり散らされることでしょうね」


 イアンがため息を吐きながら言った。


 今日は気分が優れないということで、重臣達の集まる謁見の間に大公はその姿を見せていなかったが、彼の耳にこの知らせが入るのも時間の問題だった。


「どういうことだイアン。オフィーリアはすぐにノアを見捨てて、こちらに靡くのではなかったのか」


「私に当たらないでくださいよ。まさか、ノアの勢いがこれほどとは思いも寄らなかったんですよ」


「まったく何をそんなに落ち込んでいるんですか兄上。たかが城5つくらいで」


 3男のルドルフが帽子を指先でクルクル回しながら言った。


 アルベルトとイアンはキッとルドルフの方を睨む。


「お前はどうしてそこまで落ち着いていられる。分かっているのかルドルフ。城5つだぞ。我々はいまだ外征でも内政でも何ら成果を挙げていないというのに。これでは、また父上の機嫌が悪くなるばかりだ」


「いくら我々といえども資質を疑われかねませんね。父上も短気な性格です。いったい何を言い出すことやら」


 イアンも流石に気が重そうに言った。


「こんな時だからなおさら落ち着かなければならないのですよ。それに兄上達がまったく成果を上げていないというのも賛同しかねますね」


「……どういうことだ?」


「国家というのは、どれだけ戦争で勝ちまくろうとも周辺諸国から認められなければ安定しない。逆に国際社会で認められれば、たとえ戦争に勝たずとも勢力を広げることができる。つまり、外交をきっちりこなさなければ意味がないということですよ」


「ノアのアークロイ領が周辺諸国に認められないと?」


「少なくとも私には非常に脆弱な基盤の上に成り立っているように思えますがね」


 アルベルトとイアンは互いに目を見合わせる。


「ふむ。いいだろう。ルドルフ、お前の意見を聞こう。話してみろ」

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― 新着の感想 ―
お飾り聖女が居る、外交の失敗は、前回の事で大体わかっているとは思う。 それでもまだ、内政もまあまあな状態だし、外交官を発掘さえされれば、一気に有力領主になると思う。 城五つ、なんなら借金奴隷や犯罪…
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