表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/141

第39話 守城の将

 縄にかけられたクラウスは、裁きを受けるのを待っていた。


(ぐうの音も出ない完敗だ。この戦の首謀者である私は処刑されても文句は言えまい。せめてオフィーリアが部下達の命を奪うような冷酷な将でなければよいのだが)


 ところが、オフィーリアは縄で縛られたクラウスの姿を見るなり、彼の縄を解いてやった。


「知将クラウスよ。あなたの武勇には感服いたしました。たった2000の兵でここまで私の軍と渡り合うとは。ここであなたの命を奪うのは惜しい。その知略、我が領主アークロイ公の下で発揮してはくれまいか」


 クラウスは驚きながらも(かしこ)まる。


「まさかあなたほどの将からそれほどの言葉をいただけようとは。私は敗将の身。どのように扱われようと文句は言えません。ただ、この度の戦争の責任はすべて私にあります。配下の将兵達、彼らの命だけはどうか奪わぬようお願いします」


「私は無駄な殺生はしない。彼らは捕虜として扱おう。それにあなたの身の振り方と彼らの処遇を取引するつもりもない。あなたが我が領主に仕えたくないと申すならそれまでだ。戦後、捕虜と共に然るべき処置をしてあなたを解放するだろう。その上で改めて問う。我が領主、アークロイ公に仕えるつもりはないか?」


「敗残の将である私に身に余る言葉の数々痛み入ります。しかし、今、私はファイネン公に仕える身であり、この戦役の責任者としての立場もあります。今すぐにあなたの部下となることはできませんが、戦後、然るべき処置が行われ、すべての(みそぎ)を済ませた後、またお声がけいただけるようであれば、その時改めてアークロイ公の下に引き合わせていただければと思います」


(ふむ。見かけによらず律儀な男だ)


「わかりました。この話は戦が終わってからすることにしましょう。あなたが投降した以上、ファイネン領の領主にも勝つ手段はない。無益な戦争はしないはずだ。すぐにこの戦は終わるだろう」


 ところが、ファイネン領の領主と重臣達は何をとち狂ったのか、残存している兵力8000で徹底抗戦の構えをとってしまう。


 クラウスが捕虜になったという報告を受けているにもかかわらずである。


 それだけクラウスの準備した防備はよくできており、ファイネン領の重臣達は揃いも揃って引き際も分からない無能ばかりであった。


 オフィーリアは敵を蹴散らして進軍したが、決め手を欠き、ずるずると追撃してしまい、結局、残存兵力にはファイネン領の本拠地に立て篭もられてしまう。


 オフィーリアはファイネン城を包囲せざるを得なかった。


(ええい。こんなことをしている場合じゃないのに!)


 オフィーリアは敵城を包囲しながら歯噛みした。


 クラウスを倒すという戦略目標が達成された今、急いで帰りたいところだったが、こうして敵本隊との戦端が開かれている以上下手に背中を見せれば、逆に追撃される恐れがある。


 すでに彼女の下には、キーゼルとヴィークの残り2国がアークロイ領に侵攻しているとの報告が届いていた。


(領主様が敵に攻撃されている。こんな時こそ私が側に居て差し上げねばならないのに!)


 主人が孤立すればするほど高まる彼女の忠誠心が、敵城への攻撃をより一層苛烈にさせた。


 兵士達にも彼女の忠誠心と怒りが伝染し、城はまさしく烈火の如く攻め立てられた。


 城を囲む堀は立ち所に埋められ、土塁に(やぐら)、攻城兵器は瞬く間に作られる。


 火矢は休むことなく射かけられ、兵士達はひっきりなしに梯子を登って突撃するよう命じられる。


 彼女の怒声が止むことは一時(ひととき)もなく、城は昼も夜もなく攻め立てられた。


 その様子を遠くから見ていた領民達は震えが止まらなかったという。


「鬼のように強い将軍様じゃ」


 城は1週間で陥落した。


 最後の方は焼け落ちる城内から重臣達がアークロイ軍に助けを求めてくる有様だった。


 オフィーリアの攻撃により、アークロイ地方でも指折りの堅城は半分以上焼け落ちて陥落した。





 オフィーリアの軍にはランバートという首席小隊長の男がいた。


 クルック領戦、ドレッセンでの悪鬼退治、ルーク領戦、いずれの戦役にも参戦し、飛び抜けた功績を立てたわけではないものの、常に手堅い功をあげて、軍を支えるいぶし銀のようなおっさんである。


 特にホーンズの森での築城においては、地味ながらも手際のよい作業が認められていた。


 オフィーリアからの信頼も厚く首席小隊長として常に従軍しているランバートだったが、今回のファイネン領戦には参加しておらず、アークロイ領に留まっていた。


 彼にはノアから直々に特命が(くだ)っていた。


 彼がノアに呼び出されたのはクラウスがアークロイ領に侵攻する1週間前のことだった。


「ランバート。お前にはキーゼル・ヴィーク両軍の侵攻を阻む砦を建築してもらいたい」



 ランバート

 統率C→C

 武略C→C

 築城C→A

 信頼B→A



「砦建設後には5000の守備兵を率い、敵軍を釘付けにすること」


 この特命を聞いたランバートは仰天した。


「ええっ!? 私がですか?」


 その慌てぶりは見ている者の方がソワソワするほどであった。


「私には無理です! 私はせいぜい小隊長を務めるのが器の男。そのような重大な任務をやり遂げることはできません」


(ふむ。自分の実力をよくわかっている奴だな)


「その謙虚な態度、ますます気に入った。やはりこの任務をこなせるのはお前しかいない。ぜひやってくれ」


 困ったランバートはこの任をどうにか逃れられないかと思案を巡らせた。


 そうして一計を案じる。


 以前から目をつけていた山間の土地。


 あそこに砦を建てることを進言してみてはどうだろうか。


 それは一見容易に攻められそうに見えるが、実際に登ってみると勾配が急で見た目以上に攻めにくい高地だった。


 キーゼル・ヴィーク両軍の侵攻ルートにも合致している。


 実際に砦が造られれば、凄まじい防御力を発揮するが、現実には大規模な工事が必要だった。


 膨大な人員と多大な予算がかかる防御施設の建設。


 いくらノアが物好きであろうと、この案を出せば引っ込めざるを得ないだろう。


 多少の不興を買うかもしれないが、別の人間を任命するに違いない。


 しかし、ノアはこの案を承認した。


「よし。これでいけ」


 ランバートは絶望した。


(我が武運もここまでか)


 オフィーリアの指令を懸命にこなすことで着実に歩むことができた小隊長としてのキャリア。


 まさかいきなりこれほど重大な責務を負わされるとは。


 失敗すれば、到底自分には責任を追いきれない。


 そうして暗澹たる思いで任務に取り掛かったランバートだが、その割には着実に工事が進んでいき、防御施設は着々と建設されていった。


 彼の責任感は本物でどれだけ無茶振りだと思っていても、一度任された以上、任された仕事はどうしても放棄することのできない性格だった。


 むしろこれまでにない責任を課せられることで、彼の新たな能力が開花していく。


 何度も挫けそうになったが、その度に彼は領主の言葉を思い出した。


「お前のこと信じてるぞ」


 領主はそう言って、ランバートの肩をポンと叩いたのである。


 なぜこの歳になるまで大した実績もない自分を領主があそこまで信任しているのか謎だったが、それでも思い出すたびに彼に不思議な活力が湧き上がった。


 彼はここまで全面的に人に信頼されたことはなかった。


 また、ルーシーが工事の材料を空輸することで、思ったほど予算と労力も掛からなかった。


 やがてクラウスが領土を侵攻してきたとの報が届く。


 ランバートの下には5000名の兵士が派遣され、指揮官を務めるよう言い渡された。


(いよいよか)


 ランバートはオフィーリアについていく同僚達を羨ましく思いながら、荷が重い任務についた。


 その1週間後にはキーゼル・ヴィーク両軍が1万の兵を伴って、侵攻してくる。


 一応、この頃には5000名の兵士を収容するだけの防御施設は建設済みだった。


 あとは敵の攻撃に耐えながらの築城作業になる。


 敵将は初めランバートの建築途中の防御施設を見て笑い飛ばした。


「あんなチンケな砦で我々を阻めると思っているのか」


「しかも高所への布陣。包囲すればあっさり水路を断てるわい」


 そうして敵将による攻城が始まったが、すぐに敵将2人は首を捻ることになる。


 その山は見た目より勾配がキツく攻め辛かった。


 また、水についても井戸が掘られており、地下から汲み上げることができた。


 二つの山の間の連携もよく取れていて、一方を攻めればもう一方からの援護射撃が攻め手を苦しめた。


 そして実際に攻撃を受けるに当たって、さらにランバートの築城センスは開花された。


 防御施設を連携する通路、補給路を守るために必要な通路、寄せ手を跳ね返し射撃するのに絶好の高台。


 それらをどんどん増築していって、山は要塞化されていく。


 1週間もする頃には、どんどん充実していくランバートの防御施設に敵将は青ざめるばかりだった。


 ランバートも自分の能力に驚いていた。


(まさか自分にこれほどの築城センスがあったとは)



 ランバート

 築城:A(↑2)

 信頼:A(↑1)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ