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第26話 神聖魔女

 ルーシーは商取引を覚えていくに従って、どんどん取引額や取扱品目を増やしていったが、ノアから預かった金は、給料分以外抜き取ることはなかった。


 資金の運用成績についてもきちんと報告して、ノアが資金を引き出したいと思ったら、耳を揃えて金貨を寄越した。


(やっぱ真面目な奴だな)


 おかげでノアはすぐに高利貸しに借金を返済することができたし、さらに融資を引き出すことができた。


 闇金界隈では、ノアはちゃんと貸した金を期限内に返してくれる優良客とみなされ、より有利な条件で融資を受けることができた。


 ルーシーの収納スキルが上がれば上がるほど、ノアはルーシーに資金を注ぎ込んでいった。


 初めはノアの新たな活動に難色を示していたオフィーリアだったが、ノアが袋いっぱいに貯まった金貨を見せて将来の独立のための資金だと言うと、驚いてあっさりと手の平を返した。


「流石は坊ちゃま。そのお歳でこれだけの軍資金を貯めることができるとは。その才覚、お見それいたしました」


 ルーシーの手腕についても渋々ながら認めるのであった。


 ノアはオフィーリアのために新たに剣と兵法の本、馬などを与えた。


 オフィーリアはうっとりしながらそれら贈り物を大事そうに抱きしめた。


 そうして、順当に進んでいくルーシーの育成と新規事業だったが、ルーシーはすぐに不満を覚えるようになる。


 もっと商品を収納したいが、収納するだけの商品が見つからない。


 ノアはルーシーに飛行スキルを覚えるよう勧めた。


「飛行スキルを覚えれば、領土の外まで行って、商品を取り寄せられるよ」


 ノアはあれこれ裏社会の伝手をたどって魔女の箒を手に入れ(すでに闇金界隈を始めとする裏社会でノアは一目置かれる存在だった)、彼女に授ける。


 初めは飛行スキルの習得に難儀していたルーシーだったが、ある時、森を飛んでいる魔女に気に入られ、ルーシーは弟子入りした。


 宝石と引き換えに魔女に弟子入りして、飛行スキルをどんどん向上させていった。


 そうして、大公領外の土地からも商品を仕入れることができるようになり、関税も払う必要がないため、さらに儲けは増えていった。


 しかし、ルーシーはまた不満を覚え始める。


「騎士団や教会に攻撃される!」


 もっと自由に飛行して、自由に商売がしたい。


 なのに、教会やお城に見つからないよう飛行しなければならないため、離発着できる場所が制限されてしまい、自由に飛べない。


 市場にアクセスするには騎士団や教会に見つからないよう都会の中心に直接降りられず、遠回りに商圏にアクセスしなければならない。


 この頃にはすでにルーシーは救いようがないほどの守銭奴になっていた。


「あいつらさえいなければ、私はもっと稼げるんだ!」


 機は熟したと見て、ノアは自分の構想を打ち明ける。


「ルーシー、俺は将来、大公領から独立して、もっと自由に商売のできる国を作るつもりだ」


 ノアは僻地アークロイに自分の領土を持つ構想をルーシーに話した。


「君も来ない?」


「行きます」


 ルーシーは即答した。


 こうしてルーシーはノアに忠誠を誓う騎士となったが、この頃にはルーシーを魔女にしてしまったことがイアンにバレてしまった。


 流石にこれにはイアンもキレて、ノアとの関係が悪化してしまった。


 ノアが「彼女を吝嗇から救うためには仕方なかった」と言っても残念ながら理解してもらえなかった。


 やがてルーシーはもっと飛行スキルを伸ばしたいから、ということで一旦金儲けをやめて魔女に本格的に弟子入りし、入れ違いでノアは成人の儀を迎えた。




 そうして今、ルーシーは立派な魔女になってノアの目の前にいる。



 ルーシー

 飛行:A

 収納:S

 補給:C

 強欲:A



(飛行スキルも収納スキルもカンストしている。あれからさらにスキルを鍛えて金儲けができるようになったというわけか)


「それでノア様。念願の独立を果たして、これからどんなビッグビジネスを始めようっていうんです?」


「差し当たっては塩と鉄だ。実は今、隣国の領主達に経済封鎖されていてな。インフレと品不足で領民の不満がヤバい」


「経済封鎖ですか。それはいけませんねぇ」


「君の飛行スキルと収納スキルで包囲網を掻い潜って塩と鉄を買い付けし、このアークロイ領に供給して欲しい」


「なるほど。それは確かに私のスキルの出番ですね。ただ、塩と鉄だとあんま儲からなくないです?」


「大丈夫。ここら一帯を管轄している聖女の管区には、港街もあるんだ」


「港! いいですね。色んな商品が大量に集まってきますよ」


「ちょうど今、教会に行って聖女様と話を付けるところだ」


「うっ。やっぱり教会に行くんですか」


「安心しろ。ご主人様はすでに聖女を籠絡しているも同然。いきなりお前を攻撃するようなことはしないはずだ」


「うぅ。大丈夫ですかね」


 こうして3人は教会内部へと足を運ぶ。


 ルーシーは教会によほどのトラウマがあるのか、不安げにノアの後ろに引っ付いて教会に入っていく。




「なるほど。飛行・収納スキルで塩と鉄不足を解消するというわけですか」


 聖女アエミリアはその指に新たに嵌められた指輪を撫でながら言った。


 ルーシーからお近づきの印にプレゼントされたものだ。


 アエミリアはうっとりしながら、指輪を撫でている。


 ルーシーは彼女の態度を見て、拍子抜けした。


(なるほど。随分、金に弱い聖女だな)


「確かにそれはいい考えかもしれませんね。塩と鉄不足は深刻な問題です」


「そこで聖女様にあっては管轄しているディアラ区に彼女、ルーシーが立ち入ることを許可して欲しいんだ」


「ふむ。いいですよ」


「ついでに教会の尖塔。あれも使わせてくれないかな。飛行スキルで離発着するのにすごく都合がいいんだ」


「!? それはできません。聖なる領域に魔女が立ち入ることなど、神の(しもべ)たる私が許すことはできません!」


「大丈夫。バレないように気をつけるからさ」


「なりません。神の御名にかけて、そのようなこと許すわけにはいきません」


「関税で儲けられるよ」


「儲けられる? いったいどのくらい?」


 ノアはルーシーの商取引の実績を見せた。


 アエミリアはノアの手を取った。


「神はあなたの罪をお許しになることでしょう。ルーシーさんの尖塔への立ち入りおよび離発着を許可いたします」


 ノアと聖女は固く握手を結んだ。


(地獄の沙汰も金次第ってやつだな)


「おい、魔女は立ち入り禁止じゃなかったのか生臭(なまぐさ)聖女」


 オフィーリアが思わず突っ込んだ。


「彼女には神聖魔女の称号を与えます。特別に我が管区の教会に立ち入ることを許可しましょう」


「神聖魔女って……」


(なんだ。その清楚系AV女優みたいな矛盾した概念は……)


 こうして特別な許可証を発行されたルーシーには教会への立ち入りが許されるのであった。

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