第167話 挑発と勧誘
「まったく酷い茶番だったな」
シャーフはパーティーからは少し離れた端の席で苛立たしげにチェスの駒を動かしながら言った。
相手はナイゼル公子ブラムである。
「もうすでにマギア連邦が形成されるのは決まっているというのに。マギア外の連中にこうも騒々しく騒がれるとは。特になんだあのヴァーノンとかいう奴は。しつこくマギア情勢について嗅ぎ回りやがって。あしらうのも一苦労だったぞ」
「やむを得まい。我々マギア勢はアークロイ大公に頭を押さえ付けられている。逆らうわけにもいくまい」
「とはいえこんなに大事にする必要はあったのかね」
「アークロイ大公とバーボン公のことだ。何か深謀遠慮があってのことだろう。彼らの実力はジーフの将校なら身をもって知っているんじゃないのか?」
「ふん。俺は一度もアークロイに負けてはいないがな。スメドリーが耐え凌いでさえいれば、ノルン城方面軍はまだまだ戦えたんだ」
「何をバカなこと言ってやがる。何度もノルン城を落とせず撤退して、ソアレス将軍も更迭されたんだろうが」
「……ナイゼル海軍さえしっかりしていれば我々はまだ戦えた」
「その海軍を破ったのもアークロイ大公の采配だし、ノルン城を守り切ったのも大公の見出した将だというじゃないか」
「……」
「それが分からないから負けるんだよ」
「偉そうに。貴様もオフィーリアに押されっぱなしだったじゃないか」
「それこそお前らジーフが肝心なところで役に立たねーからだろ。お前らが足を引っ張らなければ負けてなどいなかった」
「なんだと?」
「あ?」
「やんのか?」
「上等だ。表に出て……」
ブラムとシャーフが立ち上がって表に出ようとすると、割って入る声が一つ。
「こんな端っこでチェス遊びとは。落ちぶれたもんだなマギア勢も」
シャーフとブラムは割って入ってきた男に目を瞬かせる。
「お前は……」
「フェルミナス大公……」
♦︎
「竜騎士のお披露目をして以来だな。ナイゼルの狼」
「……」
「外交特使にしては只者じゃないとは思っていたが……、やはりあの時、我が領地を訪れていたのは君だったか。まさかナイゼルの狼が外交使節に紛れ込んでいるとはな」
「なんのことでしょう」
「おいおい。惚けるなよ。その顔つき。どう考えてもあの時、竜騎士の競技を見ていた外交特使の一員だろ」
「どうでしょうね。私のような顔、ナイゼルでは特に珍しくもありませんよ」
(何言ってやがる)
フェルミナスはブラムの爽やかイケメンっぷりを苦々しく見ながら、彼の下手な言い訳に顔を顰める。
「やはりアークロイの属国になって牙を折られたのか?」
「何?」
ブラムはジロリと睨む。
「ふん。目は死んでいないようだな」
「まあ、いい。それよりも本題だ。ナイゼル公子ブラム。どうだ? 俺の元に来ないか?」
「……」
「貴様ほどの男がこのまま戦地にも出ず燻っているのは惜しい。俺の下に来て働かないか? 将軍の待遇で迎えてやるぞ」
「……」
「このような場で同盟相手から引き抜きとは。穏やかではありませんな」
ブラムが真意を測りかねて黙っていると、今度はシャーフが割って入る。
「ナイゼルもジーフもマギア連邦の一員。つまりあなたの同盟国であるアークロイの友邦。そこから引き抜きとなれば、敵対行為とみなされても仕方ありませんよ?」
「なんだお前は?」
「私を知らないとは大公にあるまじき不明ですな。まあ、いいでしょう。それならばこの場で覚えていただきます。かのノルン公からジーフを守り切った将シャーフとは私のことです」
(なんだこの無駄に生意気な奴は)
「いや、誰だよ」
「だから、ノルン公を倒したジーフの英雄だと……」
「知らねーよ。そんな奴。覚える気もない」
「何ぃ!?」
「やめとけシャーフ。安い挑発だ」
ブラムが制してフェルミナスの方に向き直る。
「私を引き抜きたいのであれば、まずはアークロイ大公に話を通すことですね」
「ふん。お利口なことだな。やはりもうアークロイに牙を抜かれたのか?」
「アークロイ大公に話を通すのが嫌ならば、マギアまで竜騎士を連れて来られればよいでしょう。さすれば私の牙もご覧に入れますよ。もっともそう易々とナイゼル領にあなたを入れるつもりはありませんがね」
「マギアに入りたいなら、まずはノルン公か四聖を倒すんだな。そうすればジーフの英雄たるこの俺が直々に出迎えてやらんでもない」
「マギア連邦の成立に免じて今夜のことはアークロイ大公には黙っておきましょう。せいぜい不穏当な発言は控えられるように。シャーフ、もう行くぞ」
ブラムはシャーフを引き連れてその場を後にする。
(ち。マギア勢。相変わらず食えない奴らだな)
♦︎
こうして国際会議はマギア連邦の成立をもって誰もが自身の思惑通りにいったと思いながら終わった。
各国の領主達を送り返した後、ノア達も帰国の途につく。
馬車の中では重臣達を交えて、軍議に移る。
パーティーでの時と違って厳粛な雰囲気だった。
「それで新大公の方々の適性と現時点での能力は分かったのですか?」
オフィーリアが尋ねる。
「ああ。だいたいこんな感じだ」
フェルミナス
野心:A
空戦:A
攻城:A
統率:A
外交:C
謀略:C
ラシュヴァン
謀略:A
信仰:A
野心:A
攻城:A
統率:B
外交:B
ナヴァル
海戦:A
外交:A
野心:A
攻城:B
謀略:B
補給:B
「ふむ。どなたも攻城戦が得意なようですな」
「外交や謀略も高い傾向にありますね」
「ああ。いずれも攻城、外交、謀略に関する能力が概して高い。それがこいつらが他の領主達から一歩抜けて勢力を拡大できた秘訣だ」
「むむ」
「特に攻城が厄介だ。彼らと戦うことになれば、無傷では済まない。城を奪われることを念頭に置いて戦略を練る必要がある」
「ふーん。それじゃあやっぱり外交で戦いを避けたのは正解だったんだ」
「流石はノア様。そこまで考えてのことだったんですね」
「ノア様」
オフィーリアが進み出る。
「敵を侮ることは禁物です。ですが、敵の力を恐れすぎることもまた危険です。あまりに敵を過大評価しては、勝てるものも勝てなくなります」
「分かっている。いざ戦いになれば怯むことはない。オフィーリア、攻め合いになることも見越して戦略を立てておけよ」
「その言葉を待っておりました。このオフィーリア、身命を賭して必ずや攻め合いで敵を撃破して見せましょう」
「私も攻城頑張ります」
「私も海戦頑張るー」
「攻め合いだからこそ防御が大切な場面もくるでしょう。その時はぜひお任せください」
「微妙な情勢になった場合はぜひご用命ください」
こうしてノアの重臣達は改めて結束を誓い合うのであった。




