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僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強の配下たちと共に超大国を創る  作者: 瀬戸夏樹


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第162話 懐かしい人々

 新大公会議を終えて部屋から出ると小領主や聖職者達が待ち構えていた。


「あっ、出てきたぞ」


「アークロイ大公だ!」


 ノア達は囲まれる。


「何を話してたんですか」


「わざわざ別室で会議なんて。何か重要な取り決めをしてたんでしょう?」


「教えてくださいよ」


 ノアはわざと大袈裟な身振りで詰めかける連中の方を振り返ると仰々しい所作で話し始めた。


「新大公達とユーベル第三公子との間で行われた会談は非常に有意義なものだった。それぞれの課題と将来像について情報を共有し、活発な意見交換を行い、多くの点で見解が一致した。今後も我々の間で緊密に連携し、勢力バランスを調整し、戦略的互恵関係を築いていくだろう。以上だ」


「ちょっ、なんすかそのフワッとした答弁は」


「魔石の配分とか海での取り決めとかはどうなったんですか」


「もっとちゃんと答えてくださいよ」


「やっぱり新大公同士で組んで、どこかに攻め込む気ですか?」


「まさかウチの領地には攻め込みませんよね」


「なんで会談の内容を秘匿するんです。何とか言ってくださいよ」


「私から言えることは以上だ。あとの詳しいことは我が腹心の配下、バーボン公ドロシーに聞け」


「アークロイ大公には本会議に向けて準備がございます。ここからは私がノア様の代わりにお答えさせていただきます。質問のある方は順番にどうぞ」


 ドロシーは詰めかけた者達とノアの間に立ち塞がって、浴びせかけられる質問に手際よく答えていった。


 すぐにドロシーの周りには人集(ひとだか)りができて、全員彼女の答弁に耳を傾ける。


 ノアはこの場はドロシーに任せてフェルミナス達と共に立ち去る。


 こうしてドロシーはアークロイの顔となり、一躍国際会議での中心人物となるのであった。


 伝統的な権威、大公や諸侯でも彼女のことを無視することはできず、むしろ自分達から積極的に関係を持とうとするのであった。


 昨年、どれだけ重鎮らの間を回っても相手にされなかったことを思うと隔世の感がある。


 ほとんどの人間はドロシーの差し障りのない回答に熱心に耳を傾けて納得していたが、中には新大公達の微妙にギクシャクした表情やドロシーのところどころボカした言い回しから、まだ新大公達の間で何らかの対立や意見の相違が残っていることを嗅ぎ取る者もいないではなかった。


 成り上がろうとする野心ある領主達は、早速新大公達やルドルフに接触する。


 耳の早い者が、マギア連邦の成否を巡ってアークロイとラシュヴァン・ナヴァル・ルドルフの間で対立しているのを嗅ぎつけるのにそう長い時間はかからなかった。




 ♦︎




「お疲れ様でしたノア様」


「おつかれー」


 ノアが人集りを離れるとオフィーリアやイングリッドなど家臣勢に迎えられる。


 そしてナイゼル公子やジーフ公、マギアの諸領主達とも合流する。


 堂々とした勢力を伴って歩くノアは、すっかり大人物の様相を呈していた。


 そんじょそこらの領主ではおいそれと声をかけることもできない。


「いかがでしたか。新大公の皆様達との会議は?」


「ああ。ほぼ予定通り進んだよ」


 ノアは会議の成果についてかいつまんで話しながら本会議に向けて必要な情報を共有していく。


「ちょっと、待ってくれよ。アークロイ」


(まだしつこく追いかけてくる奴がいたのか)


 そんなことを思いながら、「ドロシーに聞け」と言ってあしらおうとしたノアだが、振り返ってみて気が変わる。


 クロッサルの四聖の一人【剣聖】マクギルだった。


「あー、うん、君達か」


 ノアはかなりどうでもよさそうに言った。


「いやぁ。大将。すっかり出世しちまったな。去年からはえらい違いだ」


「てか、まだ領主だったんだな、お前ら」


「おかげさまで領主の座に居座れてるぜ。てか、酷いじゃねーかよ。オタクらの主催で国際会議開くってのに俺達を呼んでくれないなんて」


「あー。すまんすまん。すっかり存在を忘れててな。何やってんだろなー。ドロシーの奴。ちゃんと領主には全員招待状出すように言っといたのに」


 本当はわざと呼ばなかったのだが、ノアは(とぼ)けた。


「というか、招待してないのになんでいるの?」


「ナヴァルの旦那に手配してもらったんだよ。家来として来るようにって」


「ほーん。ナヴァルの奴が。それはなんというか余計なこと……じゃなくて抜け目ないことだな」


 現状、クロッサルの四聖はアークロイ(の傘下にあるナイゼル)とフェルミナスに挟まれている。


 両大公が組んで四聖領に攻め込めば一溜まりもない。


 逆にナヴァルからすればアークロイ・フェルミナスに茶々を入れるのに絶好の位置にいるのが、四聖というわけである。


 政治的に利用しやすいことこの上ない。


 ただ、マクギルとその後ろにいる仲間達の憔悴した様子を見るに、どうやらナヴァルにも生かさず殺さずの扱いを受けているようだが。


「で、何の用? 俺、結構忙しいんだけど」


「ここだけの話なんだけどさ。フェルミナス大公。あいつとは付き合わない方がいいぜ」


(付き合わない方がいいのはオメーらだろ)


「あいつ結構裏で悪いことしてるらしくってよぉ。手を組んだ相手ことごとく痛い目見てるらしいぜ。だが、俺達なら(やっこ)さんの悪事について情報提供できる。どうだ? ここは一緒に手を組まないか?」


「えー。でもお前らナイゼルを見捨てて逃げたじゃん」


「ばっ、逃げてねぇよ。あれはナイゼルの奴が褒賞を渋るとか言い出すからさぁ」


「今の俺はナイゼルとマギアのことまとめなきゃいけない立場だからなぁ」


「旦那。よく考えた方がいいぜ。ナイゼルの狼。あいつのこと信用していいのか? 俺の見立てじゃアイツ必ずアンタに牙を剥くぜ」


 マクギルはさりげなく近づいて耳打ちする。


「竜騎士の運用について知りたいだろ? 俺ならアンタの助けになれると思うぜ」


(相変わらず絶妙に気になるところ突いてくるな)


 本当は知らないことをさも詳しく知っているかのように話す。こちらの不安につけ込んでくる。


 ノアはマクギルの相変わらずの詐欺師ぶりに感心しなくもなかった。


「いい加減にしなさいよ」


 コソコソと耳打ちするマクギルにイングリッドが痺れを切らし、割って入る。


「戦いから逃げたアンタらにノアと対等に交渉する資格があると思ってんの? だいたいノアはもう大公でアンタらのようなザコにいちいち構ってられないのよ」


(くっ。ノルンのお転婆姫か。すっかりアークロイの犬になりやがって)


 周囲にいる人間が耳聡く聞き咎める。


「逃げた?」

「あいつクロッサルの四聖だよな?」

「あいつらやっぱ逃げたんだ」

「ナイゼルに協力するとか言って逃げたのか」

「ナイゼル可哀想だな」

「ナヴァル大公もなんであんな奴支援してるんだか」

「去年は期待の新人だったのに」

「ずいぶんアークロイに差をつけられちゃったな」


 ブラムは内心で自分への風当たりが少し和らぎそうな気配を感じてホッとした。


「じゃあ、そういうわけなんで。何か用があるならドロシーに言ってくれ。それじゃ」


「ちょっ、おい」


 マクギルはなお引き止めようとするもオフィーリア達家臣が剣に手をかけるのを見て、引き下がる。


 厳しい視線が注がれる中、下手に騒ぎを起こせば今度こそ終わりだった。


 ナヴァルといえどもマクギル達を切り捨てざるを得なくなるだろう。


 その後、マクギルらはドロシーに嘆願するもすげなくあしらわれたのは言うまでもない。




 本会議の会場に向かって歩いていると、また懐かしい人物にばったり会ってしまう。


 ユーベル大公フリードの一団だった。


 ユーベル大公領はすっかり勢いを失っていた。


 かねてから勢力を持ち過ぎている割に、あまり威厳ある行動をしてこなかったのもあって、国際的な評判は悪かったが、マギア遠征失敗により勢力も衰えてすっかり求心力を失っていた。


 ノアはユーベル大公にどのように接するか迷った。


 勢力や国際的影響力では自分の方が上だが、実質的な領土の上ではまだユーベル大公の方がわずかに上だし、何より父親だ。


 一応、敬意は払っておくべきだろうか。


 だが、ナイゼルなどマギアの領主達がいる手前、あまり下手に出るのもいかがなものか。


 ノアはこの場では適当に済ませて後で会う約束をしようとしたが、先にユーベル大公の方が口を開いた。


「マギア地方を征覇したそうだな。そしてゼーテ城も解放したとか」


「ええ、まあ」


「ルドルフのおかげだよね?」


「……えっ?」


「ルドルフが遠征したおかげで、その隙をついてマギアを征服できた。そうだよね?」


(それは……そうかもだけど、アンタがそれ言うのかよ)


「ん? どうしたのかな? 何か言いたいことでもあるのかな?」


「父上、あなたこそルドルフの策に乗って、マギアを分割統治しようと企んでましたよね? 実質アークロイを利用する形でどさくさに紛れてマギアを支配下に置こうと。ルドルフからそう聞きましたよ」


「おっと、そろそろ本会議の時間じゃ。ワシは準備があるのでこれでな」


「ちょっ、おい……」


 ノアの制止を待たずユーベル大公はさっさとその場を後にする。


 相変わらずな連中を見て、懐かしさを覚えると共になんとも言えない気分になるノアであった。

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