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僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強の配下たちと共に超大国を創る  作者: 瀬戸夏樹


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第161話 バランサーの権利

「世界の行方を決めるとは、随分大きく出たものだなアークロイ」


 ラシュヴァンが厳かな調子で言った。


「この四人で会議するのか?」


 フェルミナスが尋ねる。


「ああ。この四人以外は雑魚だからな。今後の国際情勢は俺達四人で決める。他は時間の無駄だ」


 三人はノアの威圧感に気圧されそうになる。


(なるほど。これがアークロイか)


(迂闊に相手の土俵に乗ったのはマズかったか?)


(ただの傲岸不遜なうつけか。世紀の食わせ物か。見極めさせてもらうぞ)


「皆様、こちらに専用の会議室を用意しております」


 ドロシーが進み出て案内する。


 四人は専用の会議室に入っていった。




 ♦︎




「では、会議を始めるぞ」


「その前に一ついいか?」


 ラシュヴァンが手を挙げて尋ねる。


「なぜこの席にユーベル第三公子がいるんだ?」


 ルドルフは自分はここにいて当然だという顔で席の一つに居座っていた。


「ユーベルは17の城を持つ大国だ。我が兄上、アルベルトとイアンも聖騎士と大賢者のギフト持ち。外交を一手に担うルドルフにもこの席に座る資格は充分にある」


(ふん。抜け抜けと。ルドルフはアークロイのスパイだろうが)


「身内贔屓が過ぎるんじゃないか? この会議は新興勢力同士の集いだと理解しているのだが……」


「ルドルフはマギア地方に七万の軍をもって侵攻した実力者だ。充分、新進気鋭の若手と言えるだろう」


 フェルミナス、ラシュヴァン、ナヴァルの三人は一様に肩を竦める。


(まあいい。お荷物を抱えて戦うのが、吉と出るか凶と出るか。見せてもらおうじゃないか)


 ルドルフは心の底からアークロイに威服しているわけではない。


 ラシュヴァンはそう睨んでいた。


 ノアは改めて会議を仕切る。




 ♦︎




「現状、神聖教会圏で他国に侵攻する余力を持ち、世界情勢に影響を及ぼすことができるのはここに集まった五つの国のみだ。アークロイ、フェルミナス、ラシュヴァン、ナヴァル、そしてユーベル」


 テーブルについた四人を相手にノアは切り出した。


「我々が激突するのは得策ではない。そこで勢力均衡策を提案する」


「勢力均衡……」


「一つの突出した大国の出現を防ぐというあれか」


「我々四人の新大公とルドルフで均衡を保ち、力を蓄える。もし、この中の誰かが野心を持てば残りの勢力で叩く。そのために必要なのが海洋航行の自由と相互不可侵条約・同盟だ」


「ちょっと待て」


 ナヴァルが制止した。


「その海洋の自由というのはいただけないな。我々ナヴァルの海洋権益に支障が出るではないか」


「同感だな。いたずらに海洋航行の自由を保証して海が渋滞するのはいかがなものか」


 ラシュヴァンが同調した。


「特にマギアとフェルミナスを結ぶ航路。あそこは以前から我々が領海として主張している航路だ。あの辺りを勝手にチョロチョロ彷徨(うろつ)かれては困る。やめてくれないか」


「ナヴァルの海域における権益は法王様も認められているところだ。アークロイ。ここは引き下がってくれないか?」


 ナヴァルとラシュヴァンは二人でチラリと目配せする。


 彼らはすでにアークロイとフェルミナスが同盟を結んでいることを知っていた。


 アークロイ・フェルミナス同盟に会議を主導されるのは避けたい。


 そこでラシュヴァン・ナヴァルでも同盟を組んで、二人で対抗しようと事前の打ち合わせで取り決めていたのである。


「それはできない相談だな。フェルミナスにはマギアの魔石が必要だ。すでにアークロイとフェルミナスの間では魔石供給契約が結ばれている。そしてそれを海路で運ぶことをアークロイは保証している」


「あの海域を航行したいなら、我々ナヴァルの船を使えばいいではないか。でなければ関税を支払ってもらいたい」


「アークロイ。今はイタズラに我々が足並みを乱す時ではない。勢力均衡を主張したのは君ではないか」


「そうだぞ。我々に従って欲しいのならまずは言い出しっぺの君が一番に控え目な態度を見せるべきだ」


「この件についてはセイレーン海洋帝国とザールグラード大陸帝国ともすでに話がついている」


「何!?」


「両帝国とも私の意向を呑んでくれた」


 ナヴァルとラシュヴァンは思わず黙り込む。


「「……」」


 アークロイ・フェルミナス・セイレーン・ザールグラード対ラシュヴァン・ナヴァル。


((4対2……(ユーベルも含めれば5対2)。勝ち目がない……))


 ラシュヴァンもナヴァルもそう思った。


 特にセイレーンの後ろ盾を切り札にしていたナヴァルの衝撃は大きかった。


 ラシュヴァン領近海にもセイレーンの船舶は出没して、市場解放の圧力は常にかけられていた。


 ナヴァルにとっても魔族領の拠点をザールグラードに攻撃されると痛手だ。


 つまりアークロイと戦争すれば背後を脅かされる恐れがある。


「ドロシー、例のものを」


 ドロシーは部屋の隅に布を被せて置いていたものを持ってくる。


 布を外すと変わったフクロウを入れた鳥籠が現れる。


 セイレーンの魔女の使いだった。


 フクロウは喋り出す。


「アークロイとフェルミナスの同盟を認める。セイレーンは勢力均衡策を認める。マ゛ッ」


 ドロシーは途中でカシャンと籠を遮断した。


 次に竜帝からもらった鱗を取り出す。


 そこには誓約の刻印が打たれている。


 いずれも両帝国と友好関係を結ばなければ手に入らないものだった。


「ありがとうドロシー。このように両帝国は私の方針に従ってくれている。フェルミナスもアークロイとの同盟、魔石条約には同意してくれている。そうだよな?」


「だったらなんだ」


 ナヴァルはドンッと机を叩いて怒りを露わにした。


「あの海域はずっとウチらが仕切ってたんだ。アークロイ、テメェ、あんま調子乗ってると痛い目合わすぞコラァ」


「ん? セイレーンの後ろ盾なしにウチの海軍と戦えんの?」


 ノアがそう言うと、ナヴァルはサッと顔を背けた。


(この話はこれで済んだな)


 ノアはそう判断し、次はラシュヴァンの方に水を向ける。


「ラシュヴァン、お前ユーベルの信徒を扇動して切り崩そうとしてるだろ。ユーベルには手を出すな。今すぐ取り止めろ」


「アークロイ、無理を言うな。神への信仰は自主的なものだ。誰も止めることなどできない。ユーベル領民が自発的に我がラシュヴァン領に移住しようとするのをいったい誰が止めることができる?」


「国境の整備や関税をかけるなど行政の規制によってある程度移住を抑制することはできるだろう」


「……」


「手に余るならこちらで制度を考案しようか?」


「いや、結構だ。こちらでなんとかしよう」


 その後もノアのペースで会議は進んだ。


 お互いの勢力圏を定めてこれ以上は侵攻しない。


 これ以上侵攻したら叩くというラインを定めていく。


(おいおい。ナヴァルもラシュヴァンも、アークロイに逆らえないのかよ)


 静観していたフェルミナスも焦り始める。


(勢力間のバランサーになるだけでここまで外交で主導権を取れるのかよ)


(まずいな。ナヴァルもフェルミナスも使えない。このままではアークロイに押し切られる)


 焦ったラシュヴァンはルドルフに目を向ける。


「ルドルフ。お前はどう思う? 何か言いたいことはないのか?」


「そうだな。俺はむしろマギアの魔導士達の反乱ということにユーベルではなっているをどうにかするのが先決だと思うのだが。そのためにもマギア連邦の成立を急ぐべきじゃないか?」


(マギア連邦……。ルドルフが裏で動いているアークロイ封じ込め策か)


 ラシュヴァンはあの案に内心微妙な違和感を覚えていた。


(だが、ここはルドルフの策に乗るしかない。ここまで来て何の成果も持ち帰れないのはマズい)


「そうだな。マギアはいまだ神聖教会の福音を拒む土地。まずは魔法院を束ねるのが先決ではないのか?」


 するとノアは苦々しい顔をする。


「マギア連邦についてはドロシーからも聞いている。だが、今はまだ早い」


 ノアの反応を見て、これは取引材料になりそうだと思ったラシュヴァンとナヴァルは、ルドルフの策に乗ることにする。


 ノアにマギア連邦の成立について何らかの言質を取ろうと反転攻勢に出る。


 ノアはこの場では保留しておく。


 やがて時間切れとなり、会議はお開きになる。

どうにか一週間毎日投稿することができました。

カクヨムコンの期間中にもかかわらず「うつけ領主」を読みに来ていただき、ありがとうございます。

今後はまた週一投稿になるかと思いますのでよろしくお願いいたします。


書籍の方も作者行きつけの本屋さんで売り切れているのを確認できました。

ご購入いただいた方は本当にありがとうございます。

まだ2巻出せるかどうかは分かりませんが、皆様の応援のおかげもあり、やれるだけのことはできたかと思います。

書籍の方、まだ本屋さんに残っているところもあるかと思うので、よければチェックしてみてください。

ウェブ版の方も引き続きよろしくお願いいたします。

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