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僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強の配下たちと共に超大国を創る  作者: 瀬戸夏樹


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第153話 鯨法螺貝

 海岸を探検していたエルザとルーシーは不思議な貝殻を見つけた。


 法螺貝のようだがアークロイでは見ない形のものだった。


「なんでしょう。この法螺貝」


「変わった形だねー。でも、法螺貝だから鳴らせば何か軍事目的に使えるかも」


「あ、真珠が付いていますよ」


「本当だ。綺麗」


 エルザが法螺貝の中から取れる真珠を一粒(ひとつぶ)手に取って、目を輝かせながら見つめたり、耳元で振って中から何か音が聞こえないか耳を澄ませたりした。


「真珠はノルンで加工して売れば、いいお金になりそうですね。法螺貝はどうでしょう? このままでも音は鳴るんでしょうか?」


 ルーシーが法螺貝の吹き抜け部を咥えて吹くものの何も音は鳴らない。


「わひっ」


 エルザが突然、ビクッとして体を縮こませる。


「どうしたんですか?」


「急に凄い音が鳴って。聞こえなかった?」


「いえ、何も聞こえませんでしたよ」


「うそ。あんなに凄い音だったのに?」


「いえ。何も聞こえませんでした」


「この真珠からすごい音が鳴ったの」


「真珠から凄い音? 信じられませんね」


「じゃあちょっとこれ耳に当ててみてよ」


 ルーシーは真珠を耳に当ててみる。


 今度はエルザが法螺貝の先端を咥えて吹いてみた。


「あひっ」


 今度はルーシーが身を縮こませる。


 二人は顔を見合わせた。




 ♦︎




「ああ。これは(くじら)法螺貝よ」


 エルザ、ルーシーから法螺貝を受け取ったイングリッドはなんでもなさそうに言った。


「鯨法螺貝?」


「そう。吹くとこの法螺貝の排出した真珠にだけ振動を伝えて、真珠のごく近辺だけで音響が響くの。懐かしいなー。子供の頃、よくこれで遊んだっけ」


「なぜ鯨なんです?」


「鯨は人間には聞こえない音波で何千キロも離れた仲間と会話するからよ」


「なるほど」


「ノルンの海岸では決して珍しい貝ではありませんが、アークロイから来られた方々には珍しいのでしょうかね」


 ジアーナが眼鏡を上げながら言った。


「こんな風に穴の塞ぎ方次第では別個に振動を与えることもできるんだよ」


 イングリッドは法螺貝の穴を塞いで音階を操りながら吹いてみせる。


 すると塞ぎ方次第でルーシーの持ってる真珠が振動したり、エルザの持っている真珠が振動したりする。


「ひゃんっ」


「わひっ」


 エルザとルーシーは慣れない感触に身を縮こませる。


「ふふっ。面白いでしょ。真珠さえ持ってれば何十キロ離れても聞こえるんだよ?」


「ふむ。しかし、これはノア様のお役に立てるかもしれんな」


 オフィーリアが鯨法螺貝を手の平で弄びながら言った。




 ♦︎




 ノルンの浜辺での休暇が終わると、ノアはすぐに新たな人事を発表した。


 十五の城を傘下におさめたノアは三名まで騎士を公に任命したり、すでに公となっている者を配下に加えることができる(城五つにつき公を一名騎士にできる)。


 すでにノルン公イングリッドが騎士となっているので、あと二名。


 まずはドロシーをバーボン公に。


 同時にマギア地方一帯の統治を任せる総督にも任命した。


 これ以降、ドロシーはバーボン公ドロシーとなった。


 残り一枠は空けておく。


 他の公国を取り込んだり、内部に取り立てる余地を残して、外交や内政の取引材料にするためである。


 代わりに卿の位を他の騎士に与える。


 卿は城五つにつき二名任命することができる。


 クラウスにはレイス卿の地位を、ランバートにはサブレ卿の地位を与え、それぞれにレイス城とサブレ城を守らせた。


 オフィーリアは処分中なので、ドレッセン卿の地位のまま据え置きである。


 エルザとルーシーはそれぞれ土地身分よりもノアの側仕えの地位を望んだので、そのままにしておいた。


 一応、二人には宮廷騎士として卿相当の収入だけ与えておく。


 マギア総督兼バーボン公となったドロシーは早速、フェルミナス大公に使いを送り、外交を開始した。




 ♦︎




 ユーベルに帰国した騎士ヴァーノンはルドルフに呼び出されていた。


 まだ痛む腕に包帯と()え木で患部を固定し、ルドルフのいる部屋に向かう。


 ドアをノックすると「入れ」と声がかかる。


 ヴァーノンが室内に入ると不機嫌そうなルドルフの顔が待ち構えていた。


 ヴァーノンは室内を見回した。


 流石にルドルフの幕僚は寂しくなっていた。


 マギア出征前は商人や外国関係者はユーベルの中でルドルフが独占に近い状態だったが、マギア遠征失敗後はルドルフに未来を託そうとする有力者はかなり減っていた。


 すでにルドルフにはユーベルの外交を回す力はないというのがほとんどの人間の見方だった。


 長男のアルベルトや次男のイアンからも見放されて、将来の目はまずない。


 ルドルフの現在の職権はアークロイとの関係が保たれている間だけのものであり、それもやがて消えるだろう。


 ヴァーノンはクーニグのいた席に目をやる。


 ルドルフの最上位の副官を示すその席は空席になっていた。


 クーニグは処罰を受けた。


 ルドルフが処分を免れた分、その非難の矛先はマギア分割統治案を起草したクーニグに向かった。


 クーニグは国中から非難された上でその地位と身分、土地まで剥奪されて処刑されることになった。


 今頃、クーニグの家族は路頭に迷い他国へ亡命していることだろう。


 ヴァーノンはため息を吐いて、ルドルフに向き直る。


「お呼びでしょうかルドルフ様」


「新しく生まれた三大公については聞いているか」


「は。竜騎士を率いるフェルミナス大公、信仰と謀略を駆使するラシュヴァン大公、海運と資本で身を立てたナヴァル大公。いずれもノア様と変わらぬお若い方々だとか」


「そうさ。ノアと大して歳の変わらない、つまり俺とも歳の変わらない連中だ。それが三人も大公になったというわけだ。どこの国の社交界もこいつらの話題で持ちきりだよ」


 ルドルフは面白くなさげに言った。


 まるで本来なら自分がこの中に入っているはずなのにとでも言いたげだった。


「アルベルト様とイアン様のご様子はどうですか?」


「兄上達は二人ともラシュヴァンへの対抗心でいっぱいさ」


(まあ、当然だろうな)


 ラシュヴァンはアルベルトの狙っていたアングリンの砦を掠め取ったし、僧籍を持っているイアンとも信仰を売りにしている点で支持層が被っている。


 敵愾心を燃やさない方がおかしかった。


 ユーベルも神聖教会との繋がりによって国力を伸ばした歴史がある。


 国内においても聖都への巡礼を望む神聖教会信徒は多い。


 ユーベルから聖都サンクテロリアへと向かうにはアングリンを通過するのが一番早かった。


 今後、ユーベルの熱心な神聖教会信者はラシュヴァンに(なび)く可能性が高く、僧侶として高い評価を得ているイアンにとっては死活問題だった。


 内政における影響力の低下は避けられまい。


 しかもマギア遠征で大打撃を被った最中(さなか)、増税や身を切る改革をしなければならないとなれば、ますますユーベルの求心力は低下するだろう。


 両公子がどうにかラシュヴァンを蹴落としたいと願うのは自然なことだった。


「兄上達は目先のことばかりだ」


 ルドルフは憤慨して、机をドンっと叩く。


「ラシュヴァンとの対立が深まればどうなる? アークロイを喜ばせるだけじゃないか!」


(確かに。ユーベルとラシュヴァンの対立はノア様にとって好都合か)


 マギアを手中に収めたノアにとって今はマギアでの足場を固めたい時期だろう。


 ユーベルがラシュヴァンとの対抗姿勢を示せば示すほど、アークロイとは友好的にならざるを得ない。


 アークロイにとってもラシュヴァンは今後蹴落としたいライバルとなるだろうからユーベルと潰しあってくれるなら、これほど嬉しいことはない。


(大局的に見れば、今、ラシュヴァンと争うのは得策ではない。だが……、ラシュヴァンに対して切れるカードがない)


 ラシュヴァンは日の出の勢いで勢力を伸ばす新興国。まだ余力を持っている。


 一方で、ユーベルは敗戦のショックからいまだ立ち直れずにいる老大国。


 もはやアングリンに出兵できるかどうかも怪しい。


 ラシュヴァンからすれば頭を下げて組む価値はないし、ユーベルにはラシュヴァンを従わせるカードはない。


 外交を申し出てもふっかけられるのがオチだろう。


 それにラシュヴァンとの和平の必要性に気付いている肝心要(かんじんかなめ)の人物、ルドルフはユーベルにおいて発言力が低下していた。


(ユーベルは完全に国際的な影響力を失ったな)


 かつてはマギア地方の情勢に介入し、講和を結ばせるほどの実力があったユーベル。


 かつてこのコスモ城は国際外交の中心だった。


 だが、今やぽっと出の新興国にも守勢に回らざるを得なくなっている有様だ。


「ルドルフ様。今はまずご自身の地位を保つことが最優先でございます。まずはアークロイとの捕虜返還交渉を恙無(つつがな)く終えること。それだけをお考えください」


「分かっている!」


(くそっ。何か逆転の手はないのか)

新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

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更新ありがとうございます。 そして、明けましておめでとうございます。
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