第152話 マギア連邦
ドロシーは休日返上でマギア地方再編案に取り組んだ。
5つの大国との外交と勢力均衡策を見据えた上で、アークロイの新しい外交政策を定めなければならない。
アークロイの将来はドロシーの肩にかかっていた。
ドロシーは休暇の最後の日にノアに練り上げた再編案を奏上する。
「こちらが新たなマギアの再編案になります」
ノアはドロシーから渡された書類に目を通す。
『マギア再編案
1、勢力均衡策
五つの大国と勢力均衡を図るために、マギアの強引な併合統一は避ける。特にセイレーン海洋帝国、ザールグラード大陸帝国と同盟を結ぶために、アークロイと魔法院が強くなりすぎないように注意する。
2、緩やかな連合体、連邦制
マギアが強くなりすぎて孤立するのを避ける。かといって弱くなり過ぎても外部勢力につけ込まれる。そこで緩やかな連合体を目指す。具体的には魔法院を主体とした連邦制を採用する。各魔法院でバーボン城に集まり共同で防衛策を講じ、マギア外からの脅威に対抗する。
3、アークロイが盟主となる
各国にはその軍事力と功績に応じて投票権が与えられる。アークロイは10票、ノルンには6票、ナイゼルには6票、ジーフには4票、その他の国には1票。これによりアークロイがマギア連邦の盟主となり実質的にマギア全土を支配する。
4、ナイゼル・ジーフの攻撃能力を削ぐ
ナイゼルとジーフの軍事力をマギア連邦の防衛政策に組み込み、単独で他国や他地域を侵略できないようにする。常に魔法院とマギア連邦の盟主となるアークロイの意向を伺わなければ、単独で軍事行動を起こせないようにする。
5、表向き魔法院の権威を維持して独立運動を抑える
外形的には魔法院は変わらず統治権と議決権を護持する。こうすることで各国魔法院が独立運動を起こすのを抑制し、マギア連邦から離脱する口実を奪う。』
(なるほど。ウィーン体制下のドイツ連邦みたいな感じか)
ウィーン体制とは。
ナポレオン戦争後の19世紀頃ヨーロッパを支配した体制である。
その目玉はオーストリアがドイツを都合よく操るために編み出されたドイツ連邦。
当時三十以上の領邦国家に分かれていたドイツはヨーロッパにおける戦争の火種であった。
フランス、ロシアといった大国と陸続きで囲まれており、大国が野心を持てば常に侵攻され、ヨーロッパ全土を巻き込む戦争に発展しがちだった。
それはひとえにドイツが三十以上の小国に分かれていたためである。
かと言って一つに統合し強くなり過ぎてもそれはそれで厄介な問題だった。
イギリスやオーストリア、フランスなどが逆に攻め込まれて困るからである。
特に当時力を付けていたドイツの雄プロイセンが大国化するのはなんとしても避けたかった。
強過ぎても弱過ぎても困る。
そこで編み出されたのがドイツ連邦制である。
表向きドイツ領邦の領主権を維持しながら、緩やかに連帯して、他の国からの侵略に対抗できるようにしたのである。
その一方で、ドイツの外交や政治はすべてウィーン会議において採決を取らなければならない仕組みにしてプロイセンを抑え込んだ。
そうしてドイツを都合よく操ることで、ヨーロッパ全体をも勢力均衡し、平和と安定を維持する。
この体制はナポレオン戦争で荒れていたヨーロッパに安定をもたらした。
戦乱が相次いでいたヨーロッパにおいては比較的長期間、平和を享受することができたのである。
このドイツ連邦は最終的にプロイセンの鉄血宰相ビスマルクによって破壊され、ドイツが本当の意味で統一されるまで続いた。
(なるほど。確かにこれなら30以上の魔法院に分かれているマギアを緩やかに連合して統治するのにちょうどいいかもしれないな。ナイゼルとジーフを抑え込みたいアークロイの事情にも適っている)
三十以上の政治主体が存在している。
強くなり過ぎても弱くなり過ぎても困る。
内部に敵性勢力を抱えている。
多くの条件がウィーン体制下のドイツ連邦と合致している。
魔法院の独立運動を恐れているザールグラード大陸帝国を安心させることができるし、マギアが統一されることを警戒しているセイレーン海洋帝国にも言い訳が立つ。
他の国からのマギア侵攻も防いで内政に努めることもできる。
「よし。これでいこう」
ノアの許可をもらったドロシーは早速、各国魔法院にマギア地方の共同防衛政策について話し合いたいからバーボン城に代表者を寄越すよう通達した。
合議制を好むマギアの各魔法院はこの通達を好意的に受け止めた。
まず、ノルンはすぐに従った。
これ以上のアークロイの伸長を望まないアノン、リマ、ネーウェル、サリス、エンデら5国も好意的に受け止め参加する。
ナイゼルも勢力を維持するために受け入れる。
ジーフはやや難色を示したが、他国や他の魔法院が受け入れているのを見て仕方なく受け入れる。
こうしてマギア連邦の下地は整った。




