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僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強の配下たちと共に超大国を創る  作者: 瀬戸夏樹


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第151話 勢力均衡策

「多数の植民地を持つセイレーン海洋帝国と広大な領土を持つザールグラード大陸帝国か。どちらも外交のオプションをいっぱい持っていそうだな」


「ほう。なぜそう思う?」


「多数の植民地を持つ海洋帝国なら、交易や通商から有益な情報が集まってくる。広大な領土を持っているなら侵攻されても征服されず泥沼になりがちだから、ギリギリまで突っ張れる」


「うむ。全くその通りじゃ。奴らはいざとなればなりふり構わずマギア内のナイゼルやジーフを味方に引き入れようとするじゃろうな」


「そう考えるとユーベルと講和を結んでおいたのはファインプレーだったな」


 ユーベルと敵対したまま、二つの帝国と鍔迫り合いをしていては国力がいくらあっても足りない。


「偉いぞドロシー」


「うむ。わかってくれたようで嬉しいぞ。だが、安穏としてはおられん」


「ああ。わかっている」


「してどうするつもりじゃ?」


「勢力均衡策だ」


 勢力均衡、バランス・オブ・パワーとは。


 複数の国で勢力の拮抗状態を作り出し、突出した強国が現れるのを防ごうという考え方である。


 大国が小国を侵略したらみんなで小国を支援して大国の野望を挫いたり、小国同士で同盟を組んで大国の足を引っ張ったりすることで、地域の安定を図り紛争や戦争を回避しようとする、といったバランス外交政策が採られる。


「五つの国を同時に相手するのは流石に現実的じゃない。それよりも他の二国か三国と共同で、強国になろうとする国が現れた時に一緒になって叩くのが賢明だろう。そうすることで足場を固めると共に安定を図っていく」


「なるほど。確かに現実的じゃな。して、どの国と同盟を結ぶ?」


「まずはフェルミナスとは比較的容易に同盟が結べる。ならあと二つ」


「ラシュヴァンとはユーベルを巡る政策で対立することが予想される。ナヴァルとも海上権益を巡って対立する恐れがある」


「だとすれば、あとはセイレーン海洋帝国とザールグラード大陸帝国か」


「この二つはいずれも魔王四天王が治める国じゃが……、法王様への対策は大丈夫なのか?」


「背に腹はかえられない。法王様への対策は俺の方でなんとかする。聖城ゼーテを解放したところだし。しばらくはどうとでもなるだろう」



 ♦︎




「勢力均衡策を採るのはいいとしよう。だが、それには一つ致命的な問題点がある」


 ドロシーはあくまで慎重な態度を崩さずに言った。


「そもそも我々アークロイが他国を侵略する野心的かつ突出した強国になりうるんじゃないかと見做(みな)され警戒されていることじゃ。下手をすればこの五国が連携してアークロイ包囲網を敷く恐れもある」


「ふむ。そうなれば絶対絶命だな」


「どうするつもりじゃ?」


「新参の三大公国への対処は基本的に変わらない。魔石に困っている、相互補完できるフェルミナスと確実に組んで、ラシュヴァン・ナヴァルを牽制する。問題は二つの帝国だ」


「うむ。この帝国は今までの敵とは異質じゃぞ」


「分かっている。正面から戦うのは得策じゃない。そうだろ?」


「うむ。なんやかんや話せば分かるギフティアの公国と違って泥沼の戦争になりかねん」


「戦闘で屈服させて勢力均衡を認めさせるのは難しいってことか」


「単独で積極的に戦いを仕掛けるのは得策ではないじゃろな」


「かと言って、その二つの帝国の真似をするのも得策ではないだろうな」


「そうじゃな。帝国というのは自分達と同じことする奴が現れると意地でも潰そうとするものじゃ」


(その辺は前世の世界と変わりないな)


「この二つの帝国と付き合うことの最も厄介な点は、外交問題がアークロイの内政問題とリンクしておることじゃ。繰り返すようじゃが……セイレーンはマギアが一つに統一されるのを恐れておる。ザールグラードは魔法院の地位が向上するのを恐れておる。かといって、セイレーンに靡きそうな魔法院を弾圧するわけにはいかない。下手をすればマギア民からそっぽを向かれて反乱を起こされる可能性がある」


「すでにアエミリアの放言で反乱一歩手前の状態になったところだしな」


 ノアとしては漸進的(ぜんしんてき)に順次魔法院を閉鎖していって、魔法兵をすべて自身の手中に収める計画だったのだが。


 アエミリアの一件により改めてマギアにおける魔法院の権威の強固さとアークロイの武断的な気風との隔たりが浮き彫りになってしまった。


 今や魔法院はアークロイ勢を警戒して緊張感を維持しており、ノアの口から魔法院を順次閉鎖していく提案を持ちかけるなど口が裂けても言えない状態だった。


 もしこの情勢下で魔法院を一つでも廃止しようものなら、ノアの立場は一気に悪くなりルドルフコースにまっしぐらだろう。


 かと言って、このまま魔法院に独自の勢力を保持されたままだとセイレーン海洋帝国に付け入る隙を残すことになる。


 セイレーンがナイゼル・ジーフ勢力圏の魔法院を支援することに成功すれば、ナイゼルとジーフが勢力を盛り返すことに繋がり、アークロイは圧迫される。


「セイレーンと同盟を結ぶとなれば、ナイゼル・ジーフとの交易強化を要求してくるぞ。お主は喉元にナイフが突きつけられた状態のまま魔女達と握手することになるが……、本当にそれでいいのか?」


「セイレーンに好き勝手させるつもりはない」


「ふむ。じゃが、どうやって?」


「ナイゼル・ジーフ・ノルンも巻き込んでマギア全体を緩やかに統合し、共同防衛態勢を構築する」


「!? それこそ敵の思う壺じゃぞ。ナイゼル・ジーフを無理矢理併合しようとすれば、反乱が起きセイレーンに支援の口実を与えてしまう。各国魔法院も反発するし、ザールグラードも黙ってはおらん」


「慌てるな。統合すると言っても何も無理矢理併合するわけじゃない。あくまでも緩やかな統合だ」


「? では、どうやって……?」


「各国の魔法院を使ってマギアを再編する」


「魔法院によるマギア再編……」


「二つの帝国を過度に刺激しすぎないように、魔法院とナイゼル・ジーフ、その他独立国は維持したまま、共同防衛態勢を構築し緩やかに統合する。そんな枠組みを作るんだ」


「ふむ」


 ドロシーは腕を組んで考え込む。


「魔法院を維持したまま、再編する。バラバラに分解しながら再構築する。そんなイメージだ」


「なるほど」


「できるか?」


「うむ。お主の望みならやってみよう」


 早速、ドロシーはマギア地方を緩やかに統合する仕組みづくりに着手し始めた。休暇中にもかかわらず、海で遊ぶのもほどほどにして、再編案を練り上げる。

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